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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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20話 今と過去

木刀の柄が顎を突き上げる。即座に激痛が走りそれも直ぐに薄れていくのを感じる。


「今日のところはこのへんにしておこう。かなりマナを消費してるようだしな」


今、ようやく本日の稽古が終わったことを知る。この著しく繰り返す負傷と回復にようやくガクも慣れてきたところだ。


「先行くぞ」


「ちょっと待てよ!お前に聞きたいことがある」


帰ろうとしたところをガクに引き止められ、少し顔を歪ませるザック。


「半月前のあの襲撃の後内通者がいるかどうかって話しただろ?その事で……」


「もっと端的に話せ!俺達待ちなんだぞ」


長々と前置きを述べるガクに嫌気が差した様子でガクの話を遮るザック。ガクはゴホン一度咳払いをし、頭を整理する。


「ザックはシャーロットのことどう思ってる?」


「あの人は昔からああいう人だ。愛想も何も無い」


──お前が言うか!


口から出そうになる言葉を抑えこみ、心の中で呟く。


「だが……、心情も行動も読めない分、他の連中よりは信頼に欠けるのは確かだ」


「……そうか、わかった。ありがとな」


期待するような答えは得られなかったものの、あの老人が100%の信頼を得てここにいる人物ではないことは分かった。それはガクにも言えることではあるが。


「お前まだ詮索してるのか?今はまだお前がいつ殺されてもおかしくない時期だ。程々にしておけ」


「分かってる。でも、もう少しの所まで来てんだ。全てが綺麗に片付くまで」


今この暮らしになんの不満もない。あれから敵襲もなく、これといった事件も起きていない。

だが、いつこの“幸せ”が壊れるかは分からない。分かっていてもガクの力ではには何もできやしない。

だからどんなに小さな火種だとしても早いうちに消しておきたい。


「全て片付くことはない。その一人を摘まみ出せたところで外には無数の敵がいる。今は……、今はこの状態を守ることに尽力すべきだ」


「確かにそうかもな。俺、こうゆうの慣れてねぇからやたらビビっちまうのかもしれねぇな」


確かにザックにはそれが可能かもしれない。しかし、ガクはそうはいかない。事が起きてからでは手遅れだ。

ザックのすべき事とガクすべき事は違う。ガクは改めてそう感じた。


「早くしろ、またお前と二人はごめんだ」


「それはお互い様だろ!」


いちいち余計な一言を添えるザックに肩をどんとぶつける。

ガクにとってこんなじゃれあいまで出来るような相手は今までダイヤしか居なかった。

こんな境遇に陥ったからこそ得られた賜物のような気がして嬉しくもあるが、そう感じている自分を照れ臭くも思った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



夜も更けて体内時計では23時といったところだろうか。ガクはすっかり夕食も終え就寝の準備を整えていた。


「ガク君、まだ起きてる?」


扉の外からサレーネの声が聞こえる。ガクもそれに『おう』と動揺しつつ平常を装った返事を返し、ドアを開ける。


「少し話たい、というか相談したいことがあって……」


「まぁいいけど……俺に相談……?」


コクリと静かに頷くと黙って部屋の奥へと進みベッドにストンと腰を下ろした。

こんな夜遅くに女の子と同じ部屋に二人きりでいるこの状況を普通の高校生男子が意識しないはずがない。


「それで……、相談って……」


──これはただの相談だ。人生相談的なやつだ。それ以上も以下もない……


必死に雑念を殺すガク。目の前に座るサレーネは自分の手を握りながらだんまりを決めている。


「なんか言ってもらえないと……俺もどうしたらいいかわかんないんだが……」


「……話すべきか迷っていたけど今なら言えそうだったから」


かなり小さな声で喉の奥から絞り出すように声を出すサレーネ。この感じから話の大まかなテーマは理解した。


──今回また怒らせたら次は本当にない……


ゴクリと唾液を飲み込み、次の言葉を待つ。


「この国が滅んだ本当の原因は私の父、ジャック・メイズ。だから、あなたの言うことは正しい……」


「……それは……なんか大きい失敗でもした、とか……?」


昔から人に気を使うことを極端に苦手とするガク。同じ失敗を犯さぬよう慎重に言葉を選ぶ。


「一年前、昔から犬猿の仲だったヨルム帝国と抗争が起きたの。昔から何度も戦争はしていたんだけど、この時は今まで以上に激しい戦いで……」


ベッドの上にあったガクの枕をぬいぐるみのように抱き抱え、うつむきながら話し出すサレーネ。ガクも話の邪魔をしないよう真剣な顔つきで見守る。


「5日間にも及ぶ総力戦に兵力差で劣るヴァルポール軍はかなり苦戦して……。そんな時、当時王国最強と謳われていた父が戦場に現れた」


「もしかして追放された理由って、その戦いに来るのが遅すぎたってことか?」


「違うわ。父は…、ジャック・メイズは、ヨルム側に加勢してヴァルポール王国を壊滅までに追い込んだ」


「……なんでそんな事を……」


話の展開が思いもよらぬ方向へ進み頭が追い付かない。


「ガク君には追放されたって言ったけど、本当はそうじゃない。あの男はこの国を裏切って失踪したの」


「確かにそれは恨まれるのはしかたねぇが……」


流れ的に悪役は確実にジャックであるが、以前サレーネの反応を思いだし口をつぐむ。


「お前、前にジャックは悪くないって言ってたけど、それはどういう……」


「父は全国民から慕われていたって言っても過言ではないくらいの人だったの。そんな父があんなこと……でも私は……」


胸に抱えた枕に大粒の涙を落とすサレーネ。彼女はこれほどの重荷をずっと一人で抱え込んでいたのだ。


こんな様子を見て”今“を守れれば良いなどガクには到底言えるはずがない。

サレーネは延々と溢れ出る涙を抑えるように顔を枕に押し付けた。枕を抱く細い腕は小刻みに震えている。


ガクは彼女の華奢な肩にそっと手を回すとゆっくりと自分の胸へ引き寄せた。そのぎこちない動きからコミュニケーション能力の低さが伺える。


「俺がなんとかするから、もうそんな一人でかかえこむなよ」


いつになく優しい声をかけながらサレーネの肩を擦る。

自分に出来ることを探したものの、ガクにはこれくらいしか思いつかなかった。


暫くすると体の震えは徐々に収まり、啜り泣く声も寝息へと変わって、まるで泣きつかれた赤子のようにガクの胸ですやすやと眠っていた。











































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