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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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16話 スパルタ

昼食を食べ終えた昼下がり。心地いい日光が体をポカポカと照りつけ、体が軽くなったかのような錯覚さえ起こる。


「こんな日はゆっくりと昼寝をするに限る」


「なーに呑気なこと言ってるんですか?早く行きますよ」


淫らな表情で布団へ潜ろうとしていたガクの手から掛け布団が取り上げられる。レナだ。その後ろにはザックとガイルの姿も見える。


「また稽古か?さすがにもう少し休養あってもいいだろ」


「だってもう完治してるじゃないですか。そんな甘いこと言ってないで行きますよ」


強引に腕を引っ張られ渋々重い腰を持ち上げる。そこでガクは前回との変化に気付いた。


「ローガンはいねぇのか?」


この前の稽古の最後に不意打ちだがあの巨体に一撃かました感覚は今も鮮明に残っていた。


「はい、今日はお休みです」


「この前の最後一発入れちまったからなぁ」


「それは関係ないです。あのドムって人にやられた傷が深くてまだ完治してないんですよ」


「あぁ……そう」


自分の不意打ちの一発などなんにも効いていなかったことを改めて知る。確かにあのときは蚊に刺されただけ、のような顔をしていたが。


「今日はそんな弟の代わりに俺がお前の相手してやるってわけ!」


ガイルが己を誇示するように親指を自分自身に向ける。


「ローガンが弟?ってことはお前も……」


「そう!俺も猪の亜人!でも稽古はこのままでやるよ」


二ッと口角を上げて尖った牙を見せる。体格では明らかローガンに劣るが話に聞く限りかなり強い。

ローガン相手にあそこまでやられた以上それより強い相手ならもはや先は見えている。


「じゃあ行きますか!」


知らぬ間に背後に回っていたレナがガクの背中を押し出した。




「はい死んだー!」


またこの前と同じ光景が視界に広がる。一瞬にして激痛が走った直後に痛みはどこかへ消えて行く。いっそ動けなくなれば稽古は終わるのだが激痛が走ると反射的に回復させてしまうのだ。


「全部が遅い!もっとこう、……シュッて、こう……」


──そんな擬音だけで出来るようになるかよ!


『感じろ』とでも言いたいような雑な指導に心中でぼやく。


「まぁ今日はこんなとこか。それにしてもすげぇ回復力だな!じゃっ、ザックちゃん呼んでくるから」


それだけ言うとザックとレナがいる木陰へと向かった。

身体は完全状態だが気持ちはすでにダウン寸前。ここからザックが相手となるとかなりしんどい。


芝生に腰を下ろしそんなことを考えているとガクの目の前に何かが飛んできた。木刀だ。その奥には同じ物を右手に持ったザックが立っている。


「先ずはこれで俺を殺す気で来い」


なるほど。ザックからは剣術を習うらしい。ゆっくりと立ち上がり目の前に落ちた木刀を両手で握り、構える。


「ルールはない。格闘術を使おうが木刀を投げようが俺に一撃でも当てられたら今日は終わりだ」


珍しく楽しそうな表情を見せると左手を前につき出してひょいひょいとガクを煽る。


「すぐ終わらせてやるよ!」


ガクもいつになく高揚する。その勢いのまま木刀を構えるザックを前に、力強く地面を蹴り上げた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「で?どうでしたかザックの稽古は?」


レナが頬杖をつきながらガクに尋ねる。ガクとザックの分だけ残された食卓を二人に加え、レナとガイルが囲んでいた。


「散々だったよ……。結局一発も当てらんねぇし」


「俺は何度も終わろうとしたんだがこいつがどうしてもまだやりたいって言うから……。実力はねぇのに意地だけはあるよな」


「一言余計なんだよ!」


突っ込みつつもいつの間にか冗談を交わせる程の間柄になっていたことに少しホッとする。


「ザックちゃん、意外と容赦ないからねー」


「そうそう!」


ガイルとレナにからかわれ、気まずそうに頬を染めるザック。まるで家族のような光景だ。

そんな暖かな光景を眺め、ふとサレーネの姿が脳裏に浮かぶ。

理由はわからないにしても、ガクの無神経な発言で彼女を酷く傷付けてしまったことは事実。それでいて未だにきちんとした謝罪も出来ていない。


「……俺ちょっとサレーネのとこ行ってくる」


「あんなこと言ったのにですか?レナはやめておいた方がいいと思いますけど……」


「あんなこと言っちまったからしっかりと謝罪すんだよ、そうしなければずっとこんな感じが続いちまう気がする」


自分自身が悪意を持ってしたことではない。だが、こんな暖かな団欒に彼女の姿が無いことはどうしても引っ掛かってしまう。


「だから、俺今から…」


「ガックン、後ろ……」


「……ん?」


三人がガクをじっと見る。が、見ていたのはガクではなかった。


「ガク君、今少しいい?この前のことで……」


声を掛けられて後ろを振り向くとそこには上目遣いでガクを見るサレーネの姿があった。

まだ心の準備ができていないガクにとってはかなりの不意討ち。動揺したまま流れに身を任せ、腰を直角に折る。



「あ……そ、その……こ、この前はすまなかった!何も知らないで言いたくないことまで聞き出そうとして……」


「わ、私だってあんなにひ、ひどい態度とって本当にごめんなさい。命を助けられた相手に……あんな恩知らずなことを……」


突然運動部の壮行式並の声量で謝罪され、あたふたしながらサレーネもその勢いに乗る。ガクは再びカーッと耳が熱くなるのを感じる。


「はい、これで仲直りね。めでたしめでたし」


サレーネの後ろから現れたオカマが高飛車な態度で締め括る。


「お前が締めんなよ!」


突然現れたサンドラに照れ隠しを含む突っ込み。食堂に和やかな空気が流れる。この空間がこの先もずっと続いてほしい。いや、守っていかなければならない、と密かに思う。


──ここからだな!本当の始まりは!


制服のズボンに入れた拳をぎゅっと握りしめた。



















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