15話 ガイル
──さぁ、出てこい、裏切り者!
ガクの頭ではすでに絞られている。例えその裏切り者がここで騒ぎを起こそうと、この面子に囲まれた中での乱闘かなり厳しいはずだ。
「そうやってこの中に裏切り者がいるって言いきるのは早すぎる気がしますけど……。ザックの外出先の人って可能性も考えられますし」
確かにレナの言うことは一理ある。そうなると其処まで探りを入れなければならない。
「そもそもザックってどこに行ってたんだ?レナからはガイルって奴のところに行っているとしか聞いてないんだが」
「交渉しに行ってたんだ」
またしても聞かない名前。おそらく村の名前だろう。そもそもなんの交渉かもわからない。
「交渉はどうだったの?」
「一応話はついた。あいつは元から俺たちに反発していた訳ではないからな」
「おい!勝手に話進めんなよ。そもそも俺はガイルが誰か知らねーしなんの交渉かもわかんねぇ」
ガクの前で知らない人物の話が淡々と進み、全くついていけていない。
「ガイルは旧第3隊の隊長でここから少し離れたシュロを統治する半グレ野郎だ。今回のは協力依頼みたいなもんだな」
「協力依頼?」
「他国の襲撃に対抗するにはそれなりに戦力が必要だからな」
確かに戦力が増えることは好都合だ。しかし、今回は国内の男が敵国と手を組んでいたのだ。簡単には信用はできない。
「最初から気掛かりだったが、俺はお前の見た夢が的中したことが一番の問題だろ?」
「確かに、計画的な襲撃と見てもおかしくは無いわね」
「おい!ちょっと待てよ……」
ローガンの一言で裏切り者を炙り出す側から疑われる立場へと一転。だが、誰がどう考えてもこの場において一番怪しい人物はガクだ。
「それはないと思います。だってもしガックンがヨルムの関係者だったら大怪我を負ってまでこの作戦を失敗に終わらせる必要がないですよ」
「それもそうね。このまま話していても埓が明かないわ。一旦この話は保留にしましょう」
サンドラによってこの話しは解決せずに幕が下りた。結果的に犯人扱いされて冤罪を被ることは避けられたが、ガクはなんとなくしこりが取れない。
それにしても、
──俺の夢も一つの魔法かなんかなのか?
再びベッドに大の字になり考える。もしこの力が本物だとしたらこの先に起こることも回避できるかも知れないが、何も起こらないに越したことはない。
──どうにかして尻尾を掴まねぇと!
「ザックちゃーん!遊びに来たぜ!」
「……」
寛ぐガクの部屋に乱暴に扉を蹴り開け一人の男が現れた。金髪リーゼントに尖ったサングラス。背はそれほど高くないが大胆に開いた
羽織から見える体はボディビルダーのようだ。
この一昔前の不良のような見たこともない男に動揺し、言葉が出ない。男はズカズカと部屋に上がり、ドスッと躊躇なくガクの前に置いてある椅子に座った。
「おめぇ誰だ?見ねぇ顔だな」
「俺は……」
「ああ!思い出した思い出した!ザックが言ってたスパイみたいなやつか!」
答える隙もない。それに加えおかしな伝わり方をしているのが引っかかる。
「お前さ、なんでそんな弱そうなの?強いマナの気配を感じたからザックちゃんだと思ったわ」
答える間もなく入れ替わっていく話に全くペースが掴めない。ガクの一番苦手なタイプの人間だ。
「いや、俺は回復魔法しか使えないから……」
「へぇー。まぁどうでもいいけどさ、ザックちゃんは?」
自分から聞いておいてかなり適当な返し。この男とは波長が合わない。
「さっきまでは一緒に飯食ってたけど……」
「あっそう、まぁほとんど用事もないんだけどね。ねぇなんか面白い話してよ、てか名前なに?」
うん。やはりめちゃくちゃだ。こんな顔も名前も知らない男を相手によくこんな話ができるものだ。スクールカーストのトップに君臨する陽キャラと同じでガクとは無縁の人種であると認識する。
「俺は矢嶋岳。少し前に異世界から召喚されて今はここに居させて貰ってる」
ふーんと相変わらず適当な返事が来る。
「俺さ、ここに来る前に村通って来たんだけどなんかあった?」
「ああ、まぁ……」
ガクはこの男をザックの知り合いと見越して起こったこをの大まかに話す。サングラスでいまいち表情は見えないが先程までの陽気な様子はなくなった。
「なるほど。マルクスがヨルムの犬になったと。情けねぇ男だな」
「ガイル、こんな所で何してんだよ?」
「おっ!ザックちゃんおっはよー!」
蹴り壊された扉の前にはザックが立っていた。表情からかなり呆れている様子が伺える。そんなザックに対してもチャラい返事。
──え?こいつが朝話していたガイル?
「俺もう行くわ!じゃあねヤッシー!」
自己紹介もせずにガクに変なアダ名だけつけて去っていった。嵐の後のような静けさだけが部屋に残る。
「あれが……、半グレ騎士ガイル……」
あまりの衝撃にガクはその後暫く動けなかった。




