12話 根性勝負
止むことのない斬撃の押収。ガクはサレーネを胸に抱え込み、亀のような姿でその攻撃を背中で受け続ける。
「ほう……確かに規格外の回復力だ。だが……」
突然攻撃の手が止まる。ゆっくりと視線を背後へ向けるとそこには、真っ赤な炎に包まれた大剣。直後、ガクの背中を先ほどとは比べ物にならない焼き付くような痛みが走る。
「うっ……」
「たいそう痛かろう。剣を取り巻く炎の渦が貴様の肉を焼き付けながら抉り裂く。いくら回復魔法が使えようがその痛みに気を失えば意味がない」
──クッソ……もう死にてぇ……
今までに感じたことのないほどの激痛が幾度となく下される。
マルクスも全く攻撃を緩める様子はない。最早涙などでない。もう意識を保つことだけで限界だ。
「ガク君!もう大丈夫だから!本当に死んじゃうよ!」
目に涙を浮かべながらガク引き離そうとするサレーネ。だが、ここで退いてしまったら次の一手は確実にサレーネに下される。
──今はなんとしても退くわけにはいかない
必死に精神を保ち続けていたが先に限界が来たのは体のほうだった。
──やべぇ……傷の治りが遅くなってる……
「しぶとく根性だけで耐えてきたが、マナの限界はどうしようもできまい。そろそろ終わりにしようか」
「ガク君!早く逃げないと!本当に、本当にもう……」
そんなことは自分でも分かっている。だが、今ここを退いてしまったら全てを失ってしまう。そんなことくらいガクにだって分かる。
「確かに時間稼ぎにはなっていたようだが、もう時間切れ。ザックが戻って来たら面倒だ」
小振りで振り続けていた大剣両手で握り、その手を大きく振り上げた。サレーネが恐怖に震えているのが腕越しに伝わる。
「へぇー……、そんなにザックが怖いのか?一国の騎士が情けねぇな」
「まだそんな無駄口を叩ける元気があったか」
本当は今にも逃げ出したいほど怖い。だが、自分のせいで目の前にいる人が殺されることはもっと怖い。背中は最早感覚が麻痺している。
──どうせ死ぬなら一秒でも多く時間を稼いでやる!
ガクは覆い被さっていたサレーネからそっと離れると膝を抑えて必死に恐怖を殺しながら立ち上がり、剣を構えるマルクスの方へ振り返る。
「自分の力ではザックに勝てそうにもない、だからあいつの居ない隙を狙って襲撃。ほんとダッセぇな。そんなんじゃ一生かかっても勝てねーぞ」
「そんな安い挑発に乗るのは尺だが、少し度がすぎるな」
サレーネに手で逃げるよう合図を出し、マルクスの意識を自分へ向ける。今この状況においてガクに出来る最善策だった。
サレーネは泣きながらガクを見上げていたが、ガクはそれを無視して拳を顔の前で構え、マルクスを睨む。
「この国で何が起こったのか俺はほとんど知らねぇ。でも、簡単に敵に寝返る騎士って本当に騎士なのか?」
「口を閉じろ!」
ガクは背後にサレーネの姿はないことを確認し、再びマルクスを睨む。剣を振りかぶるマルクスの腕が膨らむ。ガクはごくりと唾を飲んで手を交差。
突然、剣を振りかぶるマルクスを雷のような閃光が轟音を立てて吹き飛ばした。ガクは目の前で起こったことに理解が追い付かず唖然とする。
「うぐっ……!なんだ!?」
「マルクス。貴様もこんな姑息な真似をするほどまで落ちぶれていたとはな……」
土煙が捌けて視界がうっすらと見え始めると目の前に一人の男が立っていた。真っ黒のマントに艶のある青い髪。ザックだ。
「貴様がそのようなやり方をするのならこちらも手加減しない」
「上等だ」
両者の剣が激しい音をたててぶつかる。が、雷のような光を纏ったザックの剣が再びマルクスを吹き飛ばす。
山道で木の葉のように飛ばされるマルクス。その姿はさっきまでガクを一方的に痛めつけていた人物と同じであるとは思えないほど。
ザックは追い討ちをかけるように二度、三度と攻撃を続ける。次第にマルクスは衰勢し、終いにはその場に倒れたまま立ち上がらなくなった。
後ろで見ていたガクは、そのあまりにも圧倒的な強さに味方でありながら恐怖を感じた。
「その………、悪かった。初めから信じていればお前もそんな傷を負わなくて済んだ。俺の判断ミスだ。すまない」
「俺は大丈夫だけど、村とローガンが……」
「ガックーン!大丈夫ですか?」
村の方からレナが走ってくる。その後ろにはサンドラに肩をもたれる血だらけのローガンの姿。そのとなりにはシャーロットがいた。
「ローガンかなり重症みたいです。でもその様子だとガックンもですね…。ここに来る途中雷の光が何度か見えたのでザックが間に合ったんだなって安心しましたけど」
仲間のの顔を見るとガクはすべてが終わったことへの安心感で腰が抜け、地面に座り込む。
「サレーネ様はここへ来る途中で兵士に保護させている。あとは……」
「村の人もみんな避難させたので大丈夫です。今日はもう休みませんか?」
そうだな、と一言いい終える前にガクは気を失ってその場に倒れた。治りきらない傷が気を失う直前までガクの背中にズキズキと突き刺すような痛みを与えていた。




