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回復術師の戦闘員  作者: 烏天狗
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9話 稽古

レナに誘導されるまましばらく歩くと開けた丘にでた。目の前にはローガンとシャーロットが腰を下ろしているのが見える。

丘の頂上まで来たところでレナがバッグを下ろして振り替えった。


「まずはレナが魔法の使い方を指導します」


「いや、そもそも魔法ってそんな誰でも使えるもんなのか?」


簡単に指導すると言い出したレナに疑問を抱く。スポーツすら対して才のなかったガクがそんな頂上的な力を使えるとは思えない。


「まぁ、何とかしてみます」


「おぉ……。なんか頼もしいな」


「まぁ9割は素質なんですけどね」


胸をドンッと叩いて自信ありげなことを口にするレナに期待した直後、予想通り才能がものを言うことを知り落胆。ガックリと肩を落とすガク。


「でも大丈夫ですよ。魔法が使えなくても剣術と武術だけで十分強い方も居ますし……」


「使えない前提で話進めんなよ!やってみるまで分かんないだろ!」


始める前から慰められ、軽く言い返す。ガクは、ワイシャツを脱ぎ捨てて真っ赤なTシャツになり準備を整える。


「よし、じゃあまず何をしたら良いんだ?」


「魔法って言っても幾つかの属性に分けられているので……。まずはガックンの得意な属性を見つけます。あればの話ですけど」


「一言余計だよ!」


そんなに繰り返し言われると本当に才能がないような気がしてくる。

そんな話をしていると、丘の麓から一人の老人ゆっくりとこちらへ歩いてきた。シャーロットだ。彼はガクの目の前で立ち止まると突然ガクの左胸に手を当てる。


次の瞬間、突然視界が暗闇に包まれ身体は雷が落とされたように痺れ出した。頭には自分の心臓の音だけが響く。段々と呼吸も苦しくなり意識が薄れていくのを感じる。


「回復」


嗄れ声と同時に全身の異変は吹き飛び、薄れかけていた意識も回復。目の前には自分に背を向けて去っていく老人。


「うーん……、まぁ何もないよりはマシですかね?」


「まぁ……、そうだな固有性はないがないよりかは……」


なんとも微妙な表情で此方へ歩いてくるレナとローガン。


「やっぱ俺に才能なんて無かったんだよな」


「ガクはマナの貯蔵量が尋常じゃないからなぁ。使いようによってはいいと思うぞ。あって困るもんでもない」


ローガンは落ち込むガクを励ますように話しかける。


「でも使い方が分からなければ意味がないです。それを今から特訓しないと!それに回復魔法も使えない人がほとんどですから!」


レナもすかさずガクをフォロー。しかし、どれだけ慰めの言葉を掛けられても事実は変わらない。手から衝撃波を飛ばしたり音速で移動できたりすると思っていたガクにとっては回復魔法など全く興味ない。


「とりあえずその回復魔法くらいは使えるようにしねぇとな。役に立つか分かんねぇけど」


「そうですね。ではまず手を前に出してください」


ガクは言われるままに両手を前方へ突き出す。刹那、レナが手にしたナイフをガクの左腕へ振り下ろした。血渋きが地面へ落下。状況を飲み込めず先に混乱が訪れ、痛みが遅れてやってくる。


「……ってめぇ、何すんだ」


急いで傷口を押さえてて止血。が、そこには切られた傷どころか血の一滴すらついていない。


「あれ……?お前今俺の腕斬ったよな?」



──確かに目の前で斬りつけられ血渋きも出ていたはず……これがレナの魔法なのか?


益々混乱するガク。だが目の前で自分が斬ったはずのレナもその隣で見ていたローガンまでもが口を開けて固まっている。


「これは驚いたな……」


「回復速度が普通じゃないですね……、本来であれば3分はかかるのに」


どうやらガクの力で自己回復したらしい。そんなこと突然目の前で言われても俄に信じがたいが。


「これが俺の力……なのか?」


「そのようですね。私からは教えることはもう無さそうです」


「いや、俺今どうやって使ったのか分かんねぇし!」


知らぬ間に使っていた力をこれから先使えるとは思えない。ガクは立ち去ろうとするレナを必死に止める。


「一度使えれば突然使えなくなることはありませんよ。魔法は基本的に術者本人の意思によるものなので今のように怪我を止めようと考えればいいだけです。」


「そういうものなのか……」


いくら説明を聞いてもなかなか自信は持てない。だが、分かりやすく城に帰りたがっているレナを見てこれ以上この場に留めておくことは難しいと察し、諦める。


「それなら次は俺の番だな!俺からは格闘術を叩き込んでやろう。自己回復ができるなら尚更都合がいいな」


ずっと横で見ていたローガンが待ち構えていたかのように羽織を脱ぎ捨て、関節をゴリゴリ鳴らしながら此方へ向かって歩いてくる。


──いや、あんなやつと戦うとかマジでごめんだ……今日は終わりにしてもらおう


「すまん、今日はちょっとここで終わりにしてくれねぇか?」


顔の前で両手を合わせる。こんな奴と稽古なんてしてたらどう考えても体が持たない。ローガンは軽快なステップをふみながらシュッシュッとシャドーボクシングでアップをする。


「俺のどこまで耐えられるかなぁ」


──耐えられるわけねぇだろ!一発であの世行きだ……


ガクの話に耳を傾ける様子もない。完全にスイッチが入ってしまっているようだ。

アップを終えると多少火照った顔にニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「さぁ、稽古を始めようか」





















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