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 朝。共に朝食を取るため、シルヴィアが滞在するフランベルク城塞の一室に、アレクセルはやって来た。

 窓際に置かれたテーブルにはパンや果物、スープなどが並べられる。まずは果物を一つ口に入れて飲み込み、喉を潤わせると、シルヴィアはアレクセルに向かって話し始めた。


「ギルバート殿下がこちらに来られるなんて、思わなかったですわ」

「早くレティシア嬢にお会いしたいから、迎えに来たそうですよ」

「まぁ、いい心がけですわね。殿下がレティシア様を幸せにして下さらなかったら、私は怒ります」


 やはりシルヴィアは、レティシアの事になるとムキになるらしい。

 そんなシルヴィアを見て、昨日のギルバートの言葉がアレクセルの頭を過ぎっていた。


(まずは自分自身がシルヴィアに相応しい夫となり、振り向いて貰わないといけない……)


 **


 ずっと働き詰めだった近衛騎士達だが、このフランベルク地方滞在中に、交代で休暇が出される事になっている。

 この日のアレクセルは、シルヴィアを町に誘っていた。フランベルクの町を二人で散策するため、持ってきていた制服へと身を包んだシルヴィアを、再び部屋まで迎えに来た。

 王都ほど顔が知られていないため、変装などはあまりしない事にしている。


「では行きましょうか?」

「えっと、何処へ行きましょう?私は、この地はあまり詳しくはないのですが……王都の下町なら自信満々に案内出来ますけど」


 指を唇に当て、考えあぐねるシルヴィアに向かってアレクセルは当然のように提案をする。


「ラム肉の串焼きを食べるのでしょう?」

「えっ、だ、旦那様がっ、屋台!?」

「シルヴィアが食べたいと言っていたので、私もご一緒するつもりです」


 意思が固そうなアレクセルの言葉に衝撃を受けつつ、シルヴィアは頷く。


「わ、分かりました……!」


 普段高級な食材しか口にしないであろうアレクセルを心配しつつ、なるようになる精神で開き直るしかない。


 城門をくぐり、二人並んでフランベルクの町を歩けば、花屋ではミモザなど季節の花が咲き誇っていた。


 国境に隣接する城塞都市は、石畳の穏やかな町並みだった。

 屋台が並ぶ一角に差し掛かると、直ぐにラム肉を見つける事が出来た。

 注文して店主に代金を支払い、ラム肉の串焼きを受け取る。肉には香草が振りかけられており、上品な香りが鼻腔をくすぐった。


「香草のいい香りがしますねっ」


 空いているベンチに腰掛け、アレクセルが手渡してくれたラム肉を目にして、興味津々のシルヴィア。そんなシルヴィアに、アレクセルは笑顔で嬉々として話し始める。


「この地方はハーブの産地でして、肉や魚を料理にハーブを使う事が主流なのです。

 土産でもラヴェンダーのポプリなどが人気らしいですよ」

「そうなんですね」


(観光ガイド?)


 さっそく肉を頬張れば、香草の風味と肉の旨味が口に広がった。


「美味しい……!」


 そしてチラリと隣に目をやれば、それはそれは美しい所作で串焼きを口にするアレクセルの姿があった。


(旦那様……串焼きを食べる姿も上品で優雅です……この世にこんなにも品良く、串焼きを食べられる方が存在していたのですね!もはやこのラム肉の串焼きが高級食材に見えてきました……)


 じっと見つめすぎたせいか、視線に気づいたアレクセルがこちらに目を向ける。そして焦るシルヴィアに微笑んだ。


「やはり香草の風味が良いですね」

「は、はいっ」


 ちょっと声が裏返った。


 屋台に満足したシルヴィアを連れて、しばらく町を散策してから、休憩する事にした。

 カフェでは、町中に流れる緩やかな川を見渡せるテラス席。時折ゴンドラが流れてくる。


 紅茶と共に出されたマカロンは、綺麗な薄紫をしていた。ラヴェンダーの香りを移した、ホワイトチョコのガナッシュが挟まれていて、こちらも甘みと共に仄かな香りを楽しむ事が出来た。

 紅茶を飲み終えたシルヴィアは、アレクセルに微笑みかける。


「旦那様、今日は私に合わせて下さりありがとうございました」


 そんなシルヴィアに、アレクセルも優しい眼差しを向けた。


「自分はシルヴィアとなら、何でも楽しいです。これからも、シルヴィアの好きな事を共有させて下さい」


(これからも……)


 シルヴィアは、夫婦生活最後の思い出だと言い放たれる覚悟もしていたのだった。

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