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セインからの報告②

「言っておくが、部下にウィッグを被せて女性に見えるようにしていただけだからな。そもそも私がシルヴィア以外の女性に現を抜かすなど、ましてや愛人などあり得ない話なのだから、せめてそこだけは否定しておいてくれればいいものを」


 ウィッグを被せて女性に見立てた部下というのは産まれた時から、れっきとした女性であるクリスティーナだ。どんなに着飾ったとしても、彼女はアレクセルにとって女性という括りにないらしい。



「私の乏しい想像の範疇では、とても」

「……」

「やはりアレク様の口から、直接奥様に納得いくご説明をなさってこそだと思います」

「そうだな……」


 其の場凌ぎの、推察の域を出ないセインのフォローではなく、きちんと自分から全てをシルヴィアに話して誤解を解かないといけない。信頼しあえる夫婦になるには、向き合って話し合うべきだと、本当は言われなくとも分かっている。


「それと、奥様に何故愛人などという考えに至ったのか、お聞きしたのですが」


 セインの言葉に再び嫌な汗が背中を伝う。


「なんでもギルバート王太子殿下に、アレク様には愛人がいらっしゃるという噂を教えられたのだとか」

「殿下だと!!?」


 アレクセルは声を荒げた勢いのまま、座っていた椅子から立ち上がり、扉の方へ歩みを進めた。


「どちらに?」

「シルヴィアの元へと決まっているだろう!諸悪の根元である殿下の言葉を訂正し、今日見たことへの説明をしなくてはならない」


 言い放った瞬間、セインがアレクセルを制止する。しかもアレクセルの着ている上着を引っ張るという、中々ぞんざいな止め方だった。アレクセルは逸る気持ちの中振り返り、苛立ちを隠そうとせずセインを睨みつける。


「いけません。既に奥様はお休みになられておられます」

「起きているかもしれないだろう?寝ていたら、その時は諦める……」


 次の瞬間、室内に扉を叩く音が響き渡る。叩扉の後、部屋に入って来たのは資料を持ったトレースだった。

 トレースは二人の様子を見て瞠目する。


「如何なさいました?」

「アレク様が奥様の部屋にご乱入なさろうと」


 トレースの問いにセインが答えた。


「ご乱入って何だ!?シルヴィアは私の妻だ」


 二人のやり取りを聞き、トレースは眼鏡の奥の侮蔑を宿した瞳で、アレクセルを見る。


「夜中にですか、関心致しませんね」

「何だその目は。シルヴィアが、私に愛人がいると思っているらしいんだ。早く誤解を解かないと」


 主人の主張を聞いてもトレースは扉前から退かず、平静に言葉を重ねる。


「そのような理由がおありなら、お気持ちは分かりますが、かといって感情的になられてはいけません。ご就寝中にいきなり入っていかれては、奥様が驚かれてしまいます。日を改めてきちんとご説明致しましょう」


 既にシルヴィアとは婚姻を結んでいるが、彼女は未だ清い身体のまま。そんなシルヴィアが眠っている部屋に、断りもなくいきなり入っていくなど、止めない訳にはいかなかった。


「……分かった」


 しぶしぶと言った感じで納得したアレクセル。

 そして日を改める提案を了承した結果、次の日の早朝から、まだ熟睡中のシルヴィアのいる寝室へと向かった。部屋に入る時はもちろん侍女の監視下の元。


 違う、そうじゃない。とセインとトレースは心中で突っ込むと同時に、アレクセルはどうしてもシルヴィアの寝顔が見たかったのだと、二人は察した。

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