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セインから旦那様へ報告

 下町でシルヴィアがアレクセルを偶然見かけてしまったあの日。夜遅くに邸に帰宅したアレクセルは、既に就寝中の妻に会う事は叶わなかった。


 邸に帰宅したらしたで、公爵家の仕事が待っている。流石に夜遅いこともあり、今夜は少し書類の整理をするだけに留めておこう。

 そう思いながら書類を手にしたアレクセルに、セインの口から本日のシルヴィアの様子が報告される。



「奥様がまた邸を抜け出して、下町を散策されていました」

「そうか」

「奥様は揚げたパンをお召し上がりになられた後、すぐに邸にお戻り頂けました」


 セインの報告に、アレクセルはつい口元が綻びそうになる。幸せそうに揚げパンを頬張るシルヴィアが、目に浮かんでくるようだ。


「護衛ご苦労。実は今日自分も仕事で下町にいたのだが、出来れば一目見だけでも見たかったな……。いつものようにシルヴィアの姿を探していたのだが、会えなかったのは残念だ。そうか、入れ違いだったのか」


 セインからのシルヴィアの報告を微笑ましく思う反面、ならばその光景を目に映したかったと、そこだけは残念に思う。



「いえ。タイミング良く、丁度旦那様が乗っていらっしゃる馬車と遭遇致しました」

「……何?」


 アレクセルの書き物をしていた手が止まり、形のいい眉が、僅かに寄せられた。


「更にタイミング良く、目の前の店から出てきた、長い黒髪の女性がアレク様のいる馬車へと乗り込んでいく様子を、奥様と一緒に目撃致しました」


 何だか話の雲行きが怪しくなってきたのは、気のせいだろうか。


「その一連の光景を目の当たりにされた奥様は、あの方が旦那様の愛人かと、ご質問されました」


 タイミング良く?何言ってんだ。全然タイミング良くない、むしろ悪いだろ。何だその言葉のチョイス?


 そう頭の中で独り言ちるアレクセルは、見る見る顔面が蒼白となっていく。手に持っている羽ペンがバキリと乾いた音を立てながら、無残にも真っ二つに折れた。


「愛人……だと……」

「愛人と」


 握りしめた拳を戦慄かせ、噛みしめるように呟く自身対し、さらりと復唱してくるセインにイラっとする。


「それで……ちゃんと否定したのだろうな?」

「いえ?」

「しろよ!」


 にべもなく答え、相変わらず表情一つ変えないセインは、更に淡々と答えていく。


「お連れの女性はどなたか存じ上げなかったもので、否定や説明のしようがありませんでした。それに任務の途中だと推察致しましたので、邪魔にならないよう奥様にお声がけしたのち、アレク様に見つかる前に場所を移しました」


(仕事と分かっているならせめてそう言えよ……まぁ、セインの判断が間違っている訳ではないが)


 確かに水面下での調査任務の途中であり、セインがシルヴィアに説明するのは不可能である。

 それでも愛人の可能性は絶対にないと否定して欲しかった。


 そもそも本来ならアレクセルが直接出向くような任務ではないのだが、婚約前に仕事に追われていた頃──気分転換に下町の調査に向かう部下に同行したその日、たまたまシルヴィアを見つけることが出来た。


 下町調査は本来近衛の仕事ではないが、王太子の命とあらば仕方がない。

 今日は下町で運営する質屋について調査任務が課せられ、久々に部下に同行した経緯がある。


 もしかしたらシルヴィアに、一目会えるかも知れないと思いを馳せながら……。

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