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公爵邸にて晩餐を一人で食べ終わった後。
しばらくしてからアレクセルが帰宅した。
帰宅したアレクセルと共に、寝室でお茶を飲むことになり、最初の話題はやはり本日の王宮での出来事。
「今日はわざわざ騎士サロンまで足を運んで下さり、ありがとうございました」
「いえ、私が変な誤解をしてしまったのが原因です、申し訳ございませんでした。クリス様にもわざわざウィッグや衣装などで再現して頂けて、凄く納得致しましたりでも、口頭での説明でもよろしかったのに」
元々今日はギルバートの呼び出しがあったため、登城した後は出仕するつもりでいた。
「口頭よりも実際に女装させたクリスを間近で見た方が、疑惑は確実に払拭されるでしょう」
「確かに」
「少しでも疑惑の芽は摘んでおかないと」
とても納得したが、そこまでして誤解を解こうとしてくれるなんて心底意外だった。シルヴィア自身は、自分はお飾りの妻だと思っているのに。
（旦那様って、知れば知るほど誠実な方ね……）
既に彼は人として、騎士として、貴族として、そして何不自由ない暮らしを与えてくれる優しい夫としても尊敬している。
自分に対して政略結婚で仕方なく娶った妻とは思えぬ程、優しく誠実に向き合ってくれているとシルヴィアは感じていた。
「今日は丁度ギルバート殿下にも用事がありましたので、タイミングは良かったです」
「殿下……」
シルヴィアが口にしたギルバートの名に、アレクセルは眉根を寄せ、ギリリと歯噛みした。自分によく見せてくる爽やな微笑みとは真逆の、苛立った表情ですら、絵になってしまっている。見つめながらシルヴィアは感心していた。
「いいですか、殿下の言った愛人とかは全て嘘ですから、真に受けないで下さいっ！」
「殿下の嘘……！？」
「からかわれてるんですよ、私達二人まとめて」
嘆息と共に発せられたアレクセルのその言葉に、衝撃が走ったシルヴィアは絶句して固まった。
ギルバートとは長年の付き合いだが、こちらを弄ぶような悪趣味な言動は今に始まったことではない。それにしても今回はいつもより悪質な気がする。
「この際私に関して、他に何かひっかかることや、疑問や不満などあれば何でも言って下さいっ。勿論自分に限らず公爵家に対してでも、答えられる範疇なら解決しておきたいと思います」
真摯な瞳と表情で訴えかけてくるアレクセルに対し、シルヴィアは恐る恐る発する。
「で、では一つ質問をしてもいいでしょうか？」
「どうぞ」
「旦那様はお忙しくて、夜会などあまり社交の場にはお出になられないのですよね？」
「そうですね」
「では結婚前、一時期頻繁に夜会に出席されていたのは何か理由があるのですか？愛人ではなく、好きな方を探されていた……とか？」
思ってもいなかった質問に、次に言葉に詰まるのはアレクセルの番だった。
「それは……」
シルヴィアを探し求めてと言ってしまえれば解決するのに。婚約する前から既に一方的に知っていて、挙句探し回っていたと知られたら、気味悪がられるかもしれない。そう思うと真実は言えなかった。
「い、家の新しい事業について、売り出したい物がありまして」
妻に嘘をつかず、誠実にありたいと思うアレクセルからすると、実に苦しい。それより、嫌われるかもしれない、拒絶されるかもしれないという恐怖が優ってしまった。
「そうなのですね、成る程です！」
笑顔で納得するシルヴィアを見て、安堵と悔恨が合わさった感情が、アレクセルの胸中を渦巻く。
一方シルヴィアは、咄嗟に思いついた質問が「アレクセルの好きな人について」だったことに密かに戸惑っていた。
（わたしったら、いくら何でも今のは私的すぎる質問だったわ……）
