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 眼前でお茶を飲むアレクセルの所作は相変わらず、僅かな隙も無く、優美で美しい。

 ついその姿にシルヴィアが見惚れてしまいそうになっていると、長くしなやかな指を下ろし、彼はカップをソーサーへと置いた。


 暫くは他愛のない会話を話していたが、一息ついたところで一変し、アレクセルの表情が真摯な色を帯びる。

 シルヴィアもすぐに空気を察した。


 お茶を飲み一息ついたところで、アレクセルは言える範囲で、レティシア絡みの件を説明し始めた。


「ついで、という訳ではありませんが。折角なのでレティシア嬢の件について、進展をお話してもよろしいでしょうか?」

「お願い致します」


 やはりサロンではなく、寝室の方へお茶の用意をして貰って正解だった。自身の勘の良さに、シルヴィアは自分を褒めてやりたい気分になる。


「先日レティシア嬢の首飾りを手にしていた男についてですが、彼はブルゴー侯爵の次男です。ブルゴー侯爵家は長年ギルバート殿下の婚約者にと、自分の娘を推していました」

「では、一連の事件はブルゴー家の犯行ということでしょうか?」

「その線が濃厚とみています。他にも疑わしき件が多々ありますし、ですがブルゴー侯爵は次男のマシューは数年前、邪教へ身を落としたのをきっかけに勘当したと言い張っています。侯爵曰く、きっと邪教にレティシア嬢が怨まれているだけであって、侯爵家は一切関係ないと。そして息子は好きに処罰して貰って構わない。例え処刑でも、と言っているそうです」


 この国、この大陸に住む人々の多くが同じ神を創造主として信仰している。そして邪教とは古代の大戦において、神に封印された邪神イルザーブを信仰するという、神に背く思想を持った人々である。


(本心なのか、それとも計画に失敗した息子を切り捨てたのか、どっちかしら……。それにしても実の息子が処刑されても構わない、と思っているなんて……)


「邪教に堕ちた息子は死後の世界で、神により浄化して頂くしかない、そうブルゴー侯爵は言っていました」


 一見敬虔な考えではあるが、ブルゴー侯爵の本心などシルヴィアには知るよしもない。


「それにしても、どうしてあの人がレティシア様の首飾りを持ち出せたのでしょうか?」

「それが、レティシア嬢の部屋の掃除を担当する、あるメイドが共犯でした」

「メイド……」


 合法的にレティシアの部屋に入ることが出来る人間が、共犯だったことに戦慄してしまう。


「あのメイドが当直の時ばかり、レティシア嬢の部屋に異変があったのです。なので敢えて泳がせていたら、一緒に部屋を掃除していた同僚を魔法で眠らせ、一旦部屋の外に出て首飾りをマシューに手渡したようです。

 マシューが首飾りに呪詛をかけてから、またすぐ部屋に首飾りを戻す計画だったのでは、と思っています。急ぎの犯行だったからこそ、大胆な行動を取って、結果シルヴィアにまで見つかってしまったのでしょう」


「そうでしょうね……」


 つまり、メイドも魔術師だったということだ。

 そして呪詛掛けがマシューの役割。


 一つ気になったのが、メイドが魔術師なのであればシルヴィアは気が付く筈。だがレティシア付きのメイドに魔術の鍛錬を積んだ者がいるとは知らなかった。


 アレクセル曰く、メイドは普段王宮での出仕の際は魔封じの腕輪を装着していたらしい。

 犯罪を犯した魔術師のために作られた魔導具を、逆手に取られてしまった。


「すみません、いきなりこのような話になって。巻き込んでしまった分、貴女にも知る権利があるかと思いまして」

「いえ、お話して下さってありがとうございます。わたしもきちんと把握したいと思っておりました」



 飲みかけのお茶を飲み干すと、シルヴィアはポットから自分の分とアレクセルのカップへと二杯目を注ぐ。


「そういえば、先程もいいましたが今日のドレスもすごく似合っています」

「ありがとうございます」

「今度はドレスも宝飾品も全て、私がプレゼントした物を身に付けもらって、夫婦二人きりで出掛けたいです」


『夫婦二人きり』をアレクセルはかなり強調してきた。


 あまりに情熱的に見つめるのもだから、その視線に居たたまれなくなったシルヴィアが目を逸らそうにも、手を握りしめて顔を覗き込んでくる。


(本日も距離が近い!そして顔も近いです!)

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