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30出会い②

 

 お茶会の日から数日後。


 ギルバートの執務室を訪れた際、お茶会時のシルヴィアの話題が上げられた。


「どうだった?シルヴィアの印象は」

「ごく普通の貴族令嬢に見えました」

「そうだろう。でも実態は、王宮の二階の窓から飛び降りる奇行種伯爵令嬢、シルヴィアだ」

「……」


 シルヴィアの二面性には驚かされたが、歴史あるレイノール家の養女なだけあって、きちんと教養が身に付いているのにも頷ける。


 そんな一面を知ってしまい、より一層アレクセルはシルヴィアを思う時間が増え、更に積極的にその姿を追い求め始めた。


 今まではあまり乗り気ではなかった夜会にも、頻繁に参加するようになった。伯爵令嬢であるシルヴィアは、もしかしたら何処かの夜会に参加していて、偶然会えるかもしれない。もし会えたら話し掛けたり、ダンスに誘ってみようか。

 普段なら声を掛けることが叶わなくとも、夜会でなら問題ないだろう。そう思うと、いつも煩わしく感じていた社交界が、途端有り難く思えてくる。



 だが目論見は外れる結果となってしまった。

 シルヴィアが参加していたら、きっとすぐに気付くはずだが、中々夜会で見つけられないでいた。


 夜会でシルヴィアを探すのは諦めようとした矢先──王太子生誕の式典が、王宮にて催される時期に差し掛かった。

 流石に王太子の生誕祭となると、否応なく強制参加である。



 生誕祭当日の夜、王宮では煌びやかな夜会が開かれていた。その夜、アレクセルはいつものようにシルヴィアを探しながらも、あまり期待はせずにいた。


 すると宮廷魔術師と思われる人々の中に、探し求めていたシルヴィアの姿があった。


 オーガンジーとチュールを使用した、薄桃と白のAラインオフショルドレスは、上品にフワリと広がりシルヴィアの可憐な容姿を引き立たせていた。


(魔術師の制服姿も神秘的で素敵だが、着飾ったシルヴィア嬢は何て美しいんだ……あんな美しい姿、きっと他の男のからすぐに声をかけられてしまう……いっそ他に声をかけられる前に自分がダンスに誘ってしまおうか)


 しかしアレクセルの予想に反して、宮廷魔術師の面子は身内で固まったまま、部外者を寄せ付けまいとした雰囲気を放っていた。

 というのも女性参加者とのダンスを避けるべく、レオネルやテオドールといった面々が、職場仲間を社交避けにしているのが理由なのだが。


 しばらく観察しようと見守っていると、シルヴィアは宮廷料理を大いに堪能したり、長時間皿を離さなかったりして、中々話し掛けられる機会は得られない。


 どうすれば自然に接触出来るのかとアレクセルが逡巡する中、そうこうしている間にシルヴィアは同僚達と夜の庭園を眺めるべく、テラスへと移動してしまった。


 悲しげにシルヴィアの背中を見送るアレクセル──一方で、そんな彼を遠目で見ながら笑いを必死に堪える、一人楽しそうなギルバートの姿もあった。



 こうして声すら掛けられないまま日々が過ぎていく。

 最初は思いもしないような出会いだったが、ここで再び運命のような偶然が起こった。


 それは、気晴らしに町で調査する部下に着いて行った時のこと。


 馬車の中から部下を待ち、外の風景を眺めていた時、フードをスッポリと被った小柄な少女が、手に持った串焼きの肉を食べながら歩いていた。


(シルヴィア嬢ー!?)


 常にシルヴィアを追い求めているアレクセルは、すぐに気付いてしまった。


 フードから僅かに見えた可憐な顔立ち。歩きながら串焼きを頬張る姿。

 貴族のご令嬢が食べ歩きなど、聞いた事がなければ想像もした事もなかった。



 貴族の社交の場では中々会えないのに、下町で出会うなんて……。

 知れば知るほど、見かける度に彼女は新たな一面をアレクセルに教えてくれる。

 勿論シルヴィア本人はアレクセルなど、一切気に掛けたことはない。



 それ以降も例の場所にシルヴィアがまた落ちてこないかと休憩時間になると足を運んだり、暇を見つけては王宮や庭などで姿を探していた。


 偶然王宮の庭のベンチで読書に耽っているシルヴィアを見つけた時は、神に感謝した程。

 緑や花々に囲まれて静かに読書するシルヴィアの姿は、芸術そのもので是非自室に飾って毎日愛でたい。


 どんな本を読んでいるのだろうか。妄想は膨らむ一方だった。



 **


「ちょっと待って下さい」


 アレクセルの話を聞いていたセインは、手をあげて言った。


「何だ」

「色々ツッコミ所はあるんですが、特に後半につれどんどん不穏な空気に」

「何がだ?」


 実に微笑ましい記憶を、不穏などと表現するとは何事か。暖かな思いが溢れこそすれ、セインの見当違いな受け取り方に、アレクセルは眉根を寄せて訝る。


「完全スト……」

「言うなーー!!」

「まだ言ってませんよ、アレク様がストーカーだなんて」


 侮蔑を色濃く宿した瞳で言われ、アレクセルは立ち上がって抗議する。


「言った!言ってるだろうが!! 誰がストーカーだ、見守っていただけだ!」

「ストーカーは皆そう言うんですよ、多分」

「多分とかそんな曖昧な言葉で、人をストーカー呼ばわりするなっ」


 必死に否定の言葉を口にする主人と、冷然とした様子のセイン。そんな二人を見ながら、トレースは平静に疑問を紡ぐ。


「旦那様がストーカーかはともかく、奥様に対して普通に声をかけたりは、なさらなかったのですか?」


「そんな、ナンパみたいな軽はずみな真似出来る訳がない。ナンパなんて、軽々しい男だと思われてシルヴィアに嫌われてしまうだろう……きっとシルヴィアはそういうのが嫌いだろうし」


「そこの配慮は出来るんですね」


 トレースは嘆息しながら呟いた。

 ストーカーも中々ヤバいです旦那様とは言えずに。

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