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29出会い

 その日アレクセルは王宮にて、裏庭に広がる花壇や池を横目に、艶やかに磨かれた大理の回廊を歩いていた。

 その時──



「よっこいしょっと」


 可愛らしい少女の声と共に、何かが上から降ってきた。

 ふわりと広がる白いローブ、陽の光の下でキラキラ輝く美しい銀の髪が軽やかに踊った。


 この時既にアレクセルは瞬時に柱の陰へと、身を隠していた。この行動はある意味職業病であり、騎士として王宮内で不審な者を見極め、観察するのは当然のこと。


 柱で身を隠したまま監視を続けていると、銀糸の髪の少女は辺りをキョロキョロと見渡し、呟いた。


「セーーフ」


 そして風のように走り去った。


 アレクセルは唐突に訪れた、理解の範疇を軽く超える状況に思考が停止する。

 もしかしなくとも「セーフ」という言葉は誰にも見られていなかった件に関してだろう。

 申し訳ないがばっちり見てしまっていた。

 可愛らしい声でかけられた「よっこいしょ」というオッサンじみた台詞、上から降ってきた華奢な少女。それを恐ろしく美しい美少女が、一連の行動を起こしていたのだから、思考が噛み合わないのも仕方がない。


 非常に不均衡な出来事のせいか、その時見た光景が脳裏に焼き付き、アレクセルはいつまでも忘れられないでいた。


 王宮にいるとつい、あの時出会った彼女の姿を探し求めてしまう。

 着ていた制服から察するに、宮廷魔術師ということだけは分かった。

 自分の主君である王太子ギルバートが、宮廷魔術師を管轄しているからきっと彼女の事も知っている筈だ。後日、銀色の髪の少女について尋ねてみる事にした。



「それはレイノール伯爵令嬢のシルヴィアだ」

「伯爵令嬢……」


 思った通り、すぐに回答が得られた。

 しかし伯爵令嬢だったとは……。

 あの洗練された容姿から、高貴な身分とは推察出来るものの、シルヴィアは平民出身の女性でも、中々する筈のない行動が思い返される。

 何せ王宮の二階の窓から飛び降り、着地した後そのまま庭を走り抜けていた。



 貴族女性なら窓からの出入りはおろか、高い場所から飛び降りるなどもせず、安易に走ったりもしない。


 そんな貴族令嬢らしからぬシルヴィアに対し「レイノール家の令嬢であるなら、そこまで身分が釣り合わない事もない」などとアレクセルの頭には瞬時に過っていた。


「ああ、この国では珍しい銀の髪に宮廷魔術師のローブ。近道だからという理由で階段を使わずに窓から飛び降りる 、間違いなくシルヴィアだ。むしろそんな奇行種、シルヴィア以外いてたまるか」

「近道……奇行種……」

「本人はショートカットとも言っていた」

「……」

「誰が見ているか分からないのだから、王宮では止めなさいと何度もいっているんだがね、後で叱らなければいけない。兄として」


(兄としてとは……?)


 ちょっと言っている意味がよく分からなかった。お陰で子供の悪戯を、保護者にチクってしまった気分になっていた。



「ああ、そういえば丁度シルヴィアのことで、伝えなければいけない件があった。レティとシルヴィアが近々お茶会をする予定なんだが、その時に近衛を会場に配置しようと思っている」

「承知致しました」



 **


 レティシアとシルヴィア二人のお茶会当日。

 場所は王室専用の中庭で開かれることとなった。

 シルヴィアに一目会いたいアレクセルは、勿論お茶会での警備は自分が買って出ることにした。警備の仕事中、正面から見ることが叶ったシルヴィアは、実に洗練された所作でお茶を飲み、菓子をつまみ会話を楽しむ。正真正銘、伯爵令嬢の姿だった。


 銀色の髪にサファイアの瞳、落ち着いた雰囲気。全身から気品と可憐さが溢れ出ていて、髪と瞳の涼しげな配色からまるで妖精のようだとアレクセルは思った。それと同時に蘇ってくるのは、初対面での記憶。

 窓から降ってきたのは、単に廊下を歩いて階段を使うのが面倒で、窓から飛び降りたようだ。

 ギルバート曰く、シルヴィアは度々『近道』または『ショートカット』と称してこの様な奇行にでるらしい。


 シルヴィアは飛行魔法が使えるらしい。

 思い起こせば飛び降りたにしては、着地の際に落下音が聞こえなかった。


 確かに令嬢としては褒められた行動ではないが、折角魔法で飛ぶことが出来るのに、制限されながら生きるのは窮屈だろうとアレクセルは思ってしまう。



(初対面の時と随分印象が違うな。本当に同一人物……?しかしこの珍しい外見と銀色の髪は、そうそう見紛う筈はないよな)


 余りの印象の違いに、アレクセルは表情そのままに、内心戸惑う。

 目の前でお茶を嗜み、王太子の婚約者であるレティシアと微笑み合う様は、誰が見ても完璧な貴族のお姫様。

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