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「美味しくてお腹が満たされて、幸せです」

「それは良かった」



 幸せそうに料理を口にする妹を、シリウスは優しい眼差しで見つめている。

 目の前で調理されたローストビーフが皿に盛りつけられ、それをシルヴィアは受け取り、冷めないうちに出来立てを頂いた。ローストビーフを食べきると、空になった食器をシリウスがさり気なく引き取ったのち、それを給仕に手渡す。


「流石お兄様は、私のことをよく分かって下さっています」

「当たり前じゃないか。可愛いシルヴィアを一人にして、男の誘いから守らないなどといった、立たない契約上のパートナーと私は違う」


 それはもしかしなくても、旦那様の事かしら?と思いつつもシルヴィアはデザートを選び始めた。


「シルヴィア、こちらにいらしたのですね」


 ふいにアレクセルの声が聞こえて、シルヴィアは驚き振り返った。


「今晩は、シリウス卿」

「どうも。シルヴィアは私が側で見守っておきますから、私達のことはどうぞお気になさらず。公爵殿はお忙しいようですし」

「いえ、シルヴィアは私の妻ですので」


 一見穏やかな笑みを浮かべているように見えるアレクセルは、目が笑っておらず、対するシリウスは愛想笑いなど普段からしない部類の人種。

 自身の兄と夫の二人が相対するのを尻目に、シルヴィアはデザートを真剣に選び始めていた。デザートに夢中で、二人の険悪な雰囲気はあまり気になっていないらしい。


 マカロンやタルトなど、宝石のようなスイーツが並ぶ。小振りで食べやすい、一口サイズの可愛らしいスイーツは、淑女達が手に取るに相応しい華やかさだ。


(どれから食べようかしら。出来るなら、このお皿山盛りに取りたい。だけど流石にそのような端ない振る舞いは出来ないし……)


「シルヴィア」


 アレクセルに名前を呼ばれたシルヴィアは振り返った。


「知っていましたか?実は本日数量限定で、タリス産の高級ショコラケーキが用意されていたのです」

「え!?」


 タリスの高級ショコラ。それは乙女の憧れ。

 アレクセルに言われて確認するも、それらしきケーキは見当たらない。ということはもう既に、他の参加者の胃袋に収まった後なのだろう。

 アレクセルは何故わざわざそのような話を、シルヴィアに教えたのだろうか?食べられないと分かれば、俄然食べたくなってくる。旦那様は鬼なの?悪魔なの?ドSで鬼畜なの?


 絶望に染まるシルヴィアの表情を見つめながら、アレクセルは声を弾ませた。


「安心して下さい!こんなこともあろうかと、事前にシルヴィアの物を取っておいて頂けるよう交渉済みです」


 アレクセルの後ろからは、ショコラケーキが乗せられた皿を手にした給仕がやってくる。


「だ、旦那様……!?」


 一見シンプルなケーキだが、美しいショコラに覆われ、上にそっと金箔が添えられているのが、逆に気品を醸し出している。

 もはやケーキも給仕もアレクセルも、シルヴィアの目には光り輝いて見えた。


(旦那様、私のことを分かっていて下さるなんて……!)


 シルヴィアの「分かってくれている」の基準は、食べたい時に食べ物を与えてくれる人、なのかもしれない。


「ありがとうございます……!」


(ショコラ~!)


 妹から輝かんばかりの笑顔を引き出したアレクセル。嫉妬心から悔しさのあまり歯噛みするシリウスに、シルヴィアからは見えない角度でアレクセルはほくそ笑んだ。



 **


「今日は如何でしたか?疲れさせてしまいましたよね」


 帰路につく、馬車に揺られる道すがら、アレクセルが隣に座る妻シルヴィアに尋ねる。

 部下との話の後、すぐにシルヴィアの元へと向かおうとしたら、令嬢達に取り囲まれてしまった。

 申し訳なさそうに尋ねてくる夫に対し、シルヴィアは「とっても美味しかったです」と答えた。

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