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 テオドールはレオネルと合流した途端、先程の焦燥感を纏った姿とは一変し、堂々たるものとなった。


 それはレオネルも同じだった。


 レオネルは女性と話す事については抵抗はない。だが彼は没落した家を立て直すため、勉学に励んでいた期間が長く、今も宮廷魔術師の研究室にて、研究職をしている。


 つまりダンスレッスンに励む時間が幼少期にはあまり取れず、ダンスに自信がないのだ。


 女の子とダンスを踊るのが恥ずかしいテオドールと、ダンスが下手くそすぎるレオネルとで、二人離れずに夜会の時間を過ごすのは互いに利害が一致している。


 それぞれダンスと、女性への上がり症という課題をまず克服すれば?と当たり前の意見を、シルヴィアが持ってしまうのは仕方がない。


 そんな微妙な心境を抱えた妻の顔を、隣のアレクセルは気遣わしげに覗き込んだ。


「どうされましたか、あちらが気になりますか?」


 あちらとはレオネル、テオドールのこと。アレクセルの質問にシルヴィアは「いえ、全く」と答えた。



 夜会が始まり、まずは夫婦でファーストダンスを踊る。

 注目されながらのダンスは緊張したが、アレクセルの巧みなリードで安心して踊る事が出来た。


 一曲踊り終えると、二人は早々に中心から離れた。


「お上手ですね。会場中貴女に釘付けでしたよ」


(どう考えても皆様、旦那様を見ていたと思うのですが……?)


「トレースの特訓のお陰でしょうか?」

「ああ、トレースの。成る程、私の留守中もシルヴィアはずっと努力をして下さっていて、頭が上がりませんね」

「いえ、努力だなんて」


 公爵家に泥を塗りたくないという思いは確かに持っているが、トレースに「レッスンは厳しめでお願いします」なんて頼んだ覚えはない。

 勝手に厳しくされているんですと、強く訴えたい。


 マナーやダンスは貴族として、必要最低限の領域なのは理解しているが、トレースは間違いなくスパルタレッスンに該当するだろう。


 二人で会場を見渡しながら話をしていると、後ろからアレクセルを呼ぶ声がする。


「団長」


 振り返ると騎士服に身を包む若い男性が立っており、本日も騎士として王宮で働いていることが伺える。


「少しだけお話が」

「こんな時に……」


 柳眉をひそめて、怪訝そうな表情を見せるアレクセルのこのような表情をシルヴィアは初めて見た。

 そんな彼に、シルヴィアは密やかに耳打ちする。


「わたしは喉が渇きましたので、端の方で飲み物を飲みながら休憩しておりますね?」


「すみません……。なるべく早く切り上げて、すぐに迎えに来ますから。気を付けて下さいね」

「え?……はい」


(気を付けるとは、一体何を気を付けるのでしょうか?)


 **



 給仕からグラスを受け取り、壁の花になるべく移動するとすぐに、ぞろぞろと若い令嬢達がシルヴィアの周りを取り囲んできた。


(え、何?)


 当事者になってみてテオドールの気持ちがようやく分かった。確かに一人一人は可愛らしい令嬢であっても、群れられると中々の圧力を発揮してくるのである。シルヴィアは動揺しつつも、微笑みを引攣らせないよう平静を装った。すると、取り囲んできた令嬢達の中から、金茶色の髪をハーフアップにした令嬢がまず口を開いた。



「シルヴィア様。ご結婚おめでとうございます。グリス家のマリエッタと申します。

 結婚式にも呼んで頂きましたが、本当に素敵な式でした。本日もお二人のお姿を拝見出来て、感激しております。お二人は私達の憧れですわ」


(グリス侯爵家といえば、代々優秀な文官を輩出している家系で、領地には大きな貿易港も所持しているのよね)


 嫁ぐ前に貴族名鑑一冊を頭に詰め込んでいた甲斐があり、マリエッタの父君にあたるグリス侯爵の顔も、記憶からすんなりと引き出す事が出来た。

 勉強の暗記やら記憶力なら自信はある。


「ありがとうございます」


 マリエッタが話し掛けて来たのを皮切りに、一緒にいる令嬢達も口々に話し始めた。


「本当に素敵な方、それに何て見事な御髪!今まで夜会でお見かけしなかったのが、不思議でなりませんわ」

「シルヴィア様がいらしたら、きっとすぐわかりますものね」


 (たまにいましたけど……)


 きっと同僚達に紛れて気付かれていなかったのだろう。何せレオネル、テオドールといった面々が女性陣から隠れたいからと、シルヴィアや同僚の女性魔術師を盾にするのだから。


(わたしはその程度の存在感です)


 それにわたしは防波堤ではないんだけど?と何度いっても奴らは自分自身を改善しようとしない彼らへの呆れが蘇ってきた。


 ぐるぐると頭の中で思案し初めていたシルヴィアに、一見大人しそうな令嬢がおずおずと話し掛けてきた。


「あの、シルヴィア様が社交界に中々お姿を表さなかったのは、もしかして結婚式が終わるまで、公爵様が他の方の目にシルヴィア様を晒したくなかったとか……ですか?」


(ん??)


「まぁ、公爵様の独占欲ですの?羨ましいですわっ」


(勝手に妄想の話が展開されているけれど、社交界から遠のいていたのは自分の意思だし、旦那様とはスピード政略結婚ですから。何て言ったらよいのやら……)



 政略結婚が基本とされる貴族社会ではあるが、若いご令嬢達は結婚に恋愛やロマンスを求めているようで、妄想が止まらない。

 再びマリエッタ嬢が口を開く。


「でも公爵様以上に素敵な方なんていませんわ、他の男性がよって来たとしてもシルヴィア様には公爵様がいるんですのよ?相手にされる訳がありませんわ。

 ところでシルヴィア様と公爵様とは恋愛結婚ですの?」

「いえ、政略結婚です」

「そういえば公爵様もそこまで、夜会には参加なさらなかったのに、一時期頻繁に夜会に顔を出されてる時期がありましたわね。誰かお目当ての方がいるのかと、話題になっていましたけれど。

 ご婚約が決まって、またピタリとお見かけすることがなくなってしまったんですよね」


 これはシルヴィアも初耳だった。


(結婚する前に誰か、気になる方でもいらっしゃったのかしら、もしかしたら旦那様に好きな方が……)


 婚約が決まってから夜会に顔を出さなくなったのは、偏に激務のせいだろう。何せレティシア公爵令嬢への嫌がらせが過激化していった時期と被っている。

 だから決して自分との婚約が決まったのが理由ではないと、シルヴィアは結論付けた。

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