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 悲しみのオーラを纏いながら踵を返したヒューイが、一歩踏み出そうとした瞬間──シルヴィアは、彼の制服のローブを引っ張ってそれを阻止した。


 首元がローブで締められ、ヒューイはくぐもった声をあげる。


「ぐぇっ!?」

「あ、ちょっとまって。何これ?」


 ヒューイから手渡された本やノートを確認していたら、明らかにこの場には不必要な薄い冊子が入っていた。


 その冊子をパラパラめくっていくと、スイーツの挿絵が並んでいる。カタログのようだ。

 首元をさすりながら、ヒューイが「ケーキですね」と口にした。


「あ、これ宮廷のパティシエが引退して、新しく町で始めたカフェのカタログだよ。持ち帰りも出来るらしくて、それ用に作られたものだ」


 テオドールは覗き込んで、カタログを確認しながら呟いた。


「詳しいですね」

「まぁな、何人も女の子から誘われてるからな」


 得意げにニヤリと笑うテオドールを、シルヴィアはジト目で見上げる。


「へぇ~。それで、行った事あるの?」

「あ、ある訳……忙しかったんだよ!」

「……」


 テオドールはその恵まれた容姿から、女性の方から彼に寄っては来ることは少なくない。だか彼は「女の子と二人きりでデートなんて、緊張してしまって絶対無理!!」

 などというシャイな理由から、未だデートは実現した試しはない。


 そんなテオドールに対し、後輩であるはずのヒューイは食ってかかった。


「女性から誘われるなんて状況、羨ましすぎるんですよ!僕なんかいくら待ってても誘われてないんですよ!?誘われたら速攻行きますよ!滅茶苦茶お洒落して!」


 ヒューイは今、僻みで心をドス黒い物に完全支配されている。


「受け身だからだろ?だったら自分から誘えばいいじゃん」


「テオドール先輩には言われたくないですよ。僕だって誘われたいし、誘ってみたい。でも誘った結果、振られたら傷つくじゃないですか。しかも王宮内の侍女とかを誘って、アイツに誘われたんだけど~キモすぎ~と、侍女仲間達と僕を見かける度に笑い者にしたり。

 そうなった場合、僕の心は死にます。完全に再起不能な程に」


「おい、悲しくなるような事を言うなっ。二人とも恥ずかしいから変な争いを始めるんじゃない。仕事中だぞ」


 青ざめた顔で二人の下らないやり取りを見守っていたレオネルは、ついに耐え切れず声をあげた。

 先程から恥ずかしさのあまり、チラチラ顔色を伺い確認していたのは、この場で唯一宮廷魔術師ではない人物。

 そしてこの場の男性陣の中で、唯一本当の意味で女性にモテ、女性をきちんとエスコート出来ると思われる人物、アレクセル。

 レオネルは頻りに気に掛けていたが、アレクセル本人は特に気にしていないようで、表情は変わっていない。


 そんな中、テオドールの一言がアレクセルの表情を変える。


「そんなに女の子とカフェに行きたいなら、同僚を誘えばいいだろう、シルヴィアとか」


(馬鹿なの!?)


 レオネルは最早、怖すぎてアレクセルの顔を確認する事を脳が拒否した。先程まで、あれ程顔色を気に掛けていた筈なのに。


「何言ってるんですか、そんな同情で仕方なしに付き合って貰っても嬉しくないですよ。大体シルヴィア先輩は既婚者じゃないですか」

「別に二人きりで行けなんて言ってないだろ、何人かで行けばいい話で」



 正論を返すヒューイの隣でカタログを熟読していたシルヴィアは呟く。


「私行きたい。どれも美味しそうですね」

「え」


 レオネルは、室内の温度が下がった気がした。ついでに時も止まったかのように錯覚させられた。


「良いよな〜、俺だってお洒落なカフェでケーキ食べたい!大体何で男だけでケーキ食べに行くと、奇異の目で見られるかもしれないと、気にしなきゃいけないんだ。女子はズルい」


 レオネルの心情を察することのないテオドールの、呑気な愚痴だった。

 話の趣旨が変わりつつあるテオドールに、シルヴィアは提案する。


「だから皆で行けばいいじゃないですか。男女混合なら、居た堪れない思いをすることはないのだし」

「そうですよねっ」


 シルヴィアにヒューイが同意する。

 完全に目的がケーキのみになったのは、ヒューイも同じだったようだ。意見がまとまりつつある中、テオドールがアレクセルへと尋ねる。


「公爵様もどうですか?午後からになりますが」

「旦那様は……っ」


 旦那様は忙しい方だからと、そう言いかけたシルヴィアに対し、顎に手を当てて思案していたアレクセルは呟いた。


「午後ですか……最近任務が深夜まで続いていましたからね。今日くらい早く切り上げられないか、殿下に聞いてみます。許可が下りれば、ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」


(え、まさか付いて来るつもりですか旦那様!?)

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