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 現在ルクセイア公爵夫妻は、公爵家自慢の見事な庭を並んで歩く──それも手繋ぎで。



(どうしてこうなった!?

 窓から外に出ようとしたら、何故か旦那様に捕まってしまったけど……。そもそも旦那様はいつからそこにいらしたの?

 まさかずっと窓近く、それも外に待機していた筈もないし、もしかして忙しいフリして、ずっと邸に潜んでた?

 ……そんな訳ないですよね?分からない、誰か助けて下さい!)


 シルヴィアの頭の中は大混乱に見舞われていた。手を引かれ歩く道中、薔薇を眺めながらアレクセルが呟く。


「綺麗に咲いてますね」

「そうですね」


 二人の手繋ぎ散歩を侍女達は遠巻きに、微笑ましそうにこちらを眺めてくる。


(何だか微笑ましそうにされているけれど、これまでに至る経緯を知ったら、ドン引きされるでしょうね)


 下町にある露店の串焼き食べたさに、こっそり窓から出て更に柵を飛び越えて、脱走しようとした。なんて言えるはずがないのだが。



「シルヴィアはどんな花が好きですか?ここになくて取り寄せてほしい花などはありますか?」

「好きな花ですか、花は全般に好きですね。

 控えめな小さな花も好きですし薔薇園も大好きです。あと花というかハーブ」

「ハーブですか」

「ハーブは観賞用にももちろん可愛くていいですし、それぞれ色んな効能があります。薬にもなりますし、料理やハーブティーなど食べても飲んでも美味しいなんてとっても効率的です」


(思わず力説してしまうところでした……)


 基本的に魔術師はハーブの知識を得ている。そのためつい魔術に関連する「ハーブ」の話題を口にし、語ってしまいそうになる。



(普通の令嬢なら、もっと可愛らしい話題を提供できた筈)


 色気も可愛さも微塵も感じ取れないと、アレクセルも呆れているに違いない。そう思いながら視線を上げると、彼は神妙な表情で顎に手を当てていた。


「なるほど、確かに」


 意外にアレクセルはシルヴィアの話を興味深く聞き入り、何やら思案中だった。


「では庭師に相談して空いてるスペースに、シルヴィアが好きなハーブを植えさせましょう。ああ、ハーブ園なんかもいいですね」


(私のために……?)


「そうだ、シルヴィアは青薔薇を見た事がありますか?」

「いいえ。青い花自体珍しいですし」

「実は魔法大国の実験結果で、青薔薇の品種改良に成功したようなのです。シルヴィアの瞳の色にちなんで、庭園に植えてみたいと思うのですが、どう思いますか?」


「えっ?とても素敵だと、思います」

「本当ですか!良かった。そちらも早速手配しますね」

「あ、ありがとう、ございます」


 嬉しそうに破顔するアレクセルに呆気にとられたシルヴィアは、そう返すのが精一杯だった。


 今までシルヴィアはもしかしたら、夫から嫌われているのかもしれないと、漠然と考えていた。それなのにアレクセルの様子を見ると、嫌われているどころか、好意を持たれているかもしれないと錯覚してしまうほど。


(それか天性の女タラシとか……?)


 そのまましばらく二人で庭園を散歩した後、アレクセルは何やら用事があるらしく私室へと篭っていた。

 そして夕刻前には、再び王宮へと戻はなくてはいけないらしい。


 アレクセルを見送るため、シルヴィアは使用人達と一緒にエントランスへと足を運んだ。


 出立前のアレクセルが、シルヴィアの前で立ち止まる。


「申し訳ありません。また王宮に戻らなくてはいけなくて」

「はい。お身体に気を付けて下さいね」

「ありがとうございます!では行って参ります」

「行ってらしゃいませ」


(初めて行ってらっしゃいが言えました……)

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