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「よいしょ」


 公爵家での暮らしも慣れてきたとある日。

 シルヴィアは数日振りに、趣味である露店巡りを実行しようと、裏手に面する窓を開けて窓枠に身を乗り出した。


 その時──


「シルヴィア」

「え」


 甘くて涼やかな声が降って来た。誰にも見られないように、確認してから出ようとした筈なのに。しかし目の前には濃紺の騎士服に身を包んだ、この屋敷の主人が立っていた。


 ワインレッドの美しい髪がサラリと揺れ、紫水晶の瞳とばっちり目が合う。


(だ、旦那様ー!?)


 その瞬間、驚いたと同時に腰掛けていた窓から体がバランスを崩してしまった。


「きゃっ」

「シルヴィアっ」


 アレクセルはとっさにシルヴィアの身体を抱きとめた。


「大丈夫ですか?外に出たいのですか?」と尋ねながら抱き上げらる。


(近っ!)


「えっ!?あ……ハイッ!!お庭に出ようと思いまして……あはは」


 苦し過ぎる言い訳だったが、それ以外咄嗟に言葉が思いつかなかった。

 庭園に出たいからといって、窓から出入りしようとする貴族女性などいる筈がない──普通は。



「分かりました」


 アレクセル穏やかに微笑むと、シルヴィアを軽々と抱き上げた。

 一見細身のように見えても、やはり彼は騎士。鍛えた身体に抱き上げられ、シルヴィアは一瞬時が止まったように錯覚した。


 足が地に着くように降ろされたが、未だ互いの体はまだ密着していて、アレクセルの腕はシルヴィアを抱き寄せている。


「うちの庭はいかがですか?」

「イイと思いますっ」


(何か動揺しすぎて変な喋り方になってしまいました。落ち着くのよわたし。とても素敵なお庭ですわオホホ~とでも言えばよかったですわ〜……)


 シルヴィアは脳内の処理が追い着いておらず、それどころか心臓が壊れるのではないかというくらい、早鐘を打ち続けている。


(壊れて止まってしまったらどうしましょう)


「それは良かった」


 アレクセルはそう言ってふわりと微笑んだ。


「!」


(こんな間近で、しかも密着状態での美形のキラキラ笑顔は本格的に心臓に悪い……本当に止まってしまったら責任とって下さい)


「どうしました?あ、そうだ。庭園を散歩予定なら、ご一緒してもいいですか?」

「……はい」


 シルヴィアは消えさりそうな程小さな声で、返すのがやっとだった。

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