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 少女が一人、大理石の回廊をこつこつと音を立てて歩いていた。


 大きなステンドグラスから差し込む光に当てられ、さらさらと靡く真っ直ぐな銀糸の髪は、不思議な光彩を放つ。



 銀糸の髪の少女シルヴィア・レイノールは現在、王宮内にある王族専用の庭園へと向かう道中だ。


 銀の髪にサファイアの瞳という配色。

 妖精の如き可憐な容姿を持つ彼女は、レイノール伯爵家の令嬢である。

 しかし一般的な貴族女性とは違い、着飾った装いはしていない。

 シンプルなドレスの上から羽織る、純白のローブマントには金糸や銀糸にて、細緻な刺繍が施されている。いかにも魔術師といった装いに違わず、彼女はれっきとした宮廷魔術師である。


 それでも背筋を伸ばして堂々と歩く華奢な少女の姿は、淑女としての教育を受けてきた事が一目で分かる。

 良くも悪くも彼女の存在は王宮内で目立つ。


 等間隔に配置された金の燭台やステンドグラスが並ぶ廊下を渡り、王族専用の庭園へと足を踏み入れる。庭園では薔薇を中心とした季節の花々が、見事に咲き誇っていた。


 奥にある白の四阿が視界に入ると、そこにはシルヴィアを呼び出した張本人が既に座って待っていた。彼はこの国の第一王子、王太子ギルバートである。


「お待たせ致しました。王太子殿下」


「シルヴィア。二人きりの時はそんな堅苦しい呼び方ではなく、気軽にお兄様と呼びなさいといつも言っているだろう」


「失礼致します」と言ってシルヴィアは向かいの席に腰を掛ける。シルヴィアが座るのを確認すると、ギルバートは慣れた手つきで用意された二人分の空のティーカップにお茶を注ぐ。

 いくら機密の話があるため、侍女が周りにいないからといって、王太子自らお茶を注いでくれるとは。側から見たら信じられない光景だろう。


 だが長い付き合いなので、シルヴィアは特段驚くことはない。それよりも注がれたお茶と共に用意された、バターたっぷりの焼菓子に釘付けとなっていた。


「可愛いシルヴィア、今日はお兄様より提案があるのだが」


 この『可愛いシルヴィア』というのは、特に甘い含みがある訳でもなく、むしろ煽りに近いかもしれないとシルヴィア本人は判断している。

 故にシルヴィアも聞き流す事にした。

 そもそも幼少の頃より付き合いのある王太子は、何故か自分の兄を自称し、兄貴面をかましてくる。

 端正な彼の顔立ちの上に乗る、常に余裕ある思慮深い笑みを讃えた彼の表情は、昔からイマイチ考えを読み解くのが難しい。


 昔から突拍子も無い言動をすることも少なくない。

 心中では目を眇めつつ、上部は出来るだけ平静を装い、平坦な声で質問する。


「どのような御用件でしょうか、殿下」

「お兄様だよ」

「取り敢えずご用件は?」

「つれないね」


 不毛なやり取りを繰り返す中、彼は唐突にその言葉を言い放った。


「お前に縁談を持ってきた」

「はい?」


 余りにもサラリとギルバートの口から紡がれたその言葉は、流石のシルヴィアも予想の範疇を超えるものだった。

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