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焚き火

「焚き火は必ず大人に付き添ってもらえ。風の弱い日、燃えるものの無い広い場所を選ぶ。焼く前に火の始末をするための水を用意すること。栗には茶色い皮に切り込みを入れる。浅くではなくしっかりと深い切り込みをな。でない弾ける。怪我したら大変だからちゃんと護衛にやってもらうんだ。

 火がついたらから目を離すな。風が強くなってきたら迷わず火を消す。

 焼き上がった後の火の始末を忘れるな、って言っても食べるのに夢中になるんだろうな。焚き火に砂を被せて、地面が冷めたのを確認して最後に水をかける。いいか、子供だけで勝手に焚き火をするなよ。必ず大人に見てもらえ」


 ぱちぱち音をたてる焚き火の前で説明を聞きながら栗が焼き上がるのをじっと待つ。

 はぜる火の粉を眺めるのは少し楽しい。ちょっとだけ目が痛いが。


 しばらくしてしっかり焼き上がったほくほくの栗を頬張りたかったが、熱い上に、なかなか割れない。息子の甘露は歯で器用に殻を取り除いている。


 きいぃー悔しい。


 さんざん苦労してやっと一つかじれた。


「お、おいしー」


 ただ焼いただけでこんなにほくほくおいしいなんて。甘く煮た栗もいいがこれも十分おいしい。


 一つ自分で食べた後は夫が割れ目を広げてくれた栗を渡してくれた。


 一緒に焼いたじゃが芋と甘芋もちょうどいい具合に出来上がった。じゃがいもにバターをつけて食べる。

 カンロが甘芋を少しミルクに浸して潰す。


「な、何やってるの」


「苺もこうするとすごくおいしいぞ」


 そう言って一匙分を私の口許に突き出してくれた。はしたないと思いつつもぱくついた。

 甘芋の繊維と味が柔らかくなりおいしい。


「ああ、これが届いていたぞ」


 夫から差し出された封筒には『アン・マロン・シュー・モンテブラント様』と書かれている。封ろうは王家の紋章。この時期に送られてくるのなら・・・

 侍女が差し出してくれたペーパーナイフであけると、中身は予想通り舞踏会の招待状だった。


「幼さを理由に欠席することもできるが...」


「まあ、あなたはせっかくの里帰りの機会をふいにするつもりですか?結婚した以上は一応成人扱いですからね」


 意地悪く言ってみる。


「帰りたいのか」


 ぽつりとこぼれた夫の声がほんの少し心配そうだ。


「いえ、私の目標は意地悪な継母になって、息子を追い出...」


 そこで夫の険しい表情と息子の怪訝な顔がこちらを見る。

 強気に大丈夫だと伝えたくて、余計なことを口走ってしまった。


「いや、絵本の見すぎだろ。高笑いの練習やれば?見ててやるよ」

「お、おーほぉおほ。オーほほほ」


 もうこうなったら、笑ってごまかすしかない。

 だが、茶化す息子に対照的に、夫の険しい表情はほどかれることはなかった。



 焚き火の後始末を終えて、屋敷に戻った私たち角が映えた悪魔だった。いや副料理長だった。


「おやつをそんなに食べてしまうなんて、ごはんが食べれなくなってしまいます。旦那様も!ちゃんと子供たちがおやつを食べ過ぎたら注意してください。ご用意していたデザートは私どもで食べさせていただきます」


「「えー!?」」

「・・・すまない」


「ちなみに、デザートは...」

「モンテブラント領自慢のモンブランです」


 頭の中が本当に「ガーン」と鳴ったような気がした。


「夕食全部食べきったら、食べてもいいんだよね」

「食べきれれば、ですよ」


 夕食全部食べきるところで力を、胃の容量を使い果たしてしまいました。はい。


 そのうち自分でもやってみよう。幸い落ち葉は一杯ある。


 ◆


 その三日後の夜。

 タンバ・モンテブラントは赤灰色に染まる窓の明かりで目覚めることになった。


 ◆


「お前は馬鹿か!!」

「そうですよ!何かあったらどうするんですか!?」


 太鼓のように大きな夫の声が居間に響く。ついで侍女の声。ちなみに今はやっと空が白み始めた時間帯。

 未明に起こしたぼや騒ぎで私と警備のもの一同、玄関ホールに整列させられタンバ様からお叱りを受けていた。


 風がなかったし、水も用意していた。出入りして栗の簡単なむきかたも教えてもらって、準備万端で始めたのに、そこまで怒らなくてもいいじゃないか。


「姫のそばについていながら、異変に気づかなかったのか?」


 私へのお叱りの後は、モモと護衛も叱り飛ばす。


「姫をお預かりしているという緊張感が足りん!昨夜姫の部屋の番と門番、庭の巡回をしていた者は解雇だ」


「解雇!?...そんな」


 何人かわずかにが震える。山での迷子以降、私のことを特によく気にかけ、声をかけてくれた者達だ。

 いきなり解雇だなんて...。


「王城ならその場で首をはねられていてもおかしくない失態だ。失敗した者がどうなったか姫はよく知っているだろう?」


 刃のような目がこちらを射る。

 使用人の入れ替えはあったがそれは日々の流れの中にあって、私は特に意識することはなかった。ただの配置替えだろうと...そう思っていた。


「あなたの兄上は健やかにお過ごしか」


 失敗したものは相応の罰が下る。失敗した兄グレプは城を追われた。


 親しく接していたとは言えないまでも、顔見知りの護衛の解雇をこの場で言いつけたのは、私へ罰だ。


「私が浅慮でした。申し訳ありません。解雇だけは」

「嫁いでそうそう二度も問題を起こしたというのに、もう家中のことに口出しするつもりか?」


 思わず震えてしまう。まだ何一つこの家のことを掌握できていない。絆の構築も何もかも後回しにして栗のこと


「どうか彼らに挽回の機会を」


 再度、頭を下げる。


「すでに猶予はあった」


 私の迷子騒ぎのときも、私の知らないところで彼らは責任を問われたに違いない。

 自分が情けなくて涙が出てきた。手で涙をぬぐうが次から次へと溢れてくる。


「父さんいじめすぎ」


 そういったのはホールの二階から様子を伺っていたらしいカンロだ。


「カンロ朝食にはまだ早い」

「えー?目が冴えちゃったよ」


 カンロは特等席に居座って事の成り行きを見物するつもりだ。夫はそっとため息をついた。


「私のかわいい妻が涙を流して懇願したんだ。半年間の減俸だ。各自鋭意精進せよ。解散」


 夫の宣言と共に、ホールの緊張がほどけた。護衛たちはめいめい持ち場に戻っていく。


「ちなみに姫君にはまだ話が残っているからな」


 ◆


 一食抜きの上、部屋まで変えさせられた。当然監視付だ。


「今日から一緒に寝るぞ。夜中に山火事起こされたらたまらん」


「「えっ」」


 夫の宣言にはモモと私は固まった。


「手錠つけて寝るのとどっちがいい?」


 夫の目は本気だった。


 ◆


 その夜。ちゃんと予習して夫の仕事が終わるのを待った。


「はじめての夜って緊張します」

「寝付けないのなら絵本でも読んでやるが...」


 タンバ様は水で薄めたワインを一杯やって寝るのが習慣らしい。たぶん子供が飲めるくらいの薄さだ。私に渡されたのはただの水だったが。ちょうど夫がワインを飲むのをみはらかって前々から聞きたかった質問をする。


「前の奥さんとはどんな感じだったんですか」

「ごほ。どんな感じって...いいからさっさと寝てくれ」


 村の奥さま方情報ではあまり村とは交流は持たなかったらしいので奥さま方に聞いてもよくわからない。

 祭りには一応参加するが、普段はあまり姿をお見せにならなかったそうだ。

 はちみつ色の髪と瞳を持つきれいな女性だったらしい。


「彼女も迷子になっていたなあ」


 とりあえずわかったのは旦那様の前の奥さんは迷子仲間ということだった。


「きゃんきゃん吠えられたら眠れない。おとなしく寝ろ」


 問答無用で、ふとんをかぶせられた。


「先に言っておくが、逃げようとするな」


 胸がきゅーっとする。


 間近で顔を見られた。

 こういうときは...目をつぶるって書いてあった。


「なんだ怖いのか?」

「はじめてはこうするものと」


「ほう。どこでお勉強したんだ?」

「え」


「目を開けろ。ホールでのこと怖がっているのかと思えば、反省が足りないようだな」


「反省してます。ものすごく反省しています!」

「でどこでお勉強したんだ。侍女に教えてもらったのか」


 侍女に濡れ衣を着せるわけにはいかない。ふるふると首を振っておとなしく『男の落とし方16歳編』を渡した。

 夫はぺらぺらめくって内容を確認する。

「ぼっしゅー。」


 それだけ言うと私の本を取り上げてしまった。

 きっちり大人一人分の間を空けて眠りについた。


 もっとも夫が共に寝てくれたのは数日だけだ。仮眠をとっているのか。



 翌日、十歳編までは残してくれたが、それ以降は同じく没収されてしまった。


 ※当作品はファンタジーです。作者は焚き火やキャンプの経験はほぼありません。当作品の説明を参考に焚き火しないでください。






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