第9話 学生生活
教室にアレックが入ると、教室内の全ての視線がアレックに集中する。
階段状の扇状に配置された机の3割程度に生徒が座っている。
その生徒が全員アレックを値定めでもするように見ている。
「その……よろしくおねがいします」
アレックは、ペコリと頭を下げると、数名の生徒は手をひらひらと振って好意的に受け取ってくれる。
残りの殆どは、ふいっと目線を外し、授業の予習などに戻っていった。
「おはようなのだ!」
その中のひとりがアレックに気安く話してくる。
「やあ! 初めまして、僕はキット!
君がアレック君だよね! すっかり有名人だよ!」
背の丈はアレックと同程度、美しい金色の髪を肩まで伸ばして、顔つきも美しく目を引く。
飄々とした軽さの裏に、秘めたるものを感じる。
隙のない人物だとアレックは評価した。
「は、初めまして。そんな有名人になってるの?」
「学長が興味を持つなんてすごく珍しいからね!」
「そうだったんだ…僕からすればキットみたいに魔力量がある方が羨ましいよ」
その瞬間、教室内で話していた全員が息を呑んだ。
一瞬の静寂を破ってキットが発言する。
「どうして僕の魔力量が多いってわかったのかな?」
「いやだって、この教室で一番魔力が集まってるから」
「……驚いた、君はその年で魔力が感じられるってことか!
ハハっ! それは学長が気にいるわけだ!
……改めてグエンハイム=キットだ。これから末永くよろしくなのだ!」
「姓が……キットは貴族なの?」
「この学園ではなんの意味もないのだ!」
相手に姓があり、自分と立場の違う人間の可能性に、少し腰が引けたアレックの手をキットは両手で握りしめた。
アレックにとって初めての学園での友にして、親友となるキットとの出会いであった。
キットと会話をしていることで、他の学生とも自然と話せるようになり、アレックはその容姿と性格によってすぐにクラスと打ち解けるのであった。
「何を騒いでいる。早く席につけ」
朝の歓談を破ったのは教室に入ってきた先生の一言であった。
蜘蛛の子を散らすように全員が席につく。
「オホン、皆もすでに知ってると思うが、今日からそこにいるアレックが新たな学生となった。
共に魔術の深淵を目指すものとして仲良くするように。
アレック、前に来てもらえるか?」
「はい」
「さてアレック、例の複数属性を操るやつをやってくれるか?」
「わかりました」
アレックはすぐにポポポポポポっと6この魔力球を作り出す。
火、風、水、土、光、闇の属性をもたせて、くるくると複雑な動きをさせている。
挨拶が代わりに少し曲芸じみた動きをさせてみたが、生徒から歓声は上がらなかった。
教師を含めて、真剣な眼差しでその玉の動きを観察された。
「アレック、その魔力球の数は増やせるのか?」
「はい、出来ます」
同じ形状の物を倍にしてみた。
おお……
ようやく静かに歓声が上がった。
「どこまで増やせる?」
「……各属性10を増えると、少し不安定になりますが、単純な動きなら20ならなんとか……」
「20……驚いた。ありがとうアレック君」
「はい」
全ての球を消すと、ため息にもにた声が生徒たちから漏れる。
「皆、アレック君の実力はわかったな?
一限目は私の授業だったが、今日は特別、先程の魔力球操作についてのコツをアレック君に講義してもらおうか」
「ええ!?」
「説明できないかね?」
「い、いえ……出来ますけど」
「では、ぜひお願いしよう。
……私も聞かせてもらいたい」
そう言うと先生は生徒の横に腰掛けてノートを開いてしまう。
アレックは、諦めて魔力球による魔力操作についての授業をすることになってしまう。
「えーっと、一段階づつやっていきますが、まずは魔力を均等に球形にすることから始めていきます……」
その理論は、魔力を操ることを学ぶには非常に効率がよく、そして、とてもわかり易かった。
学問としての卓上の理論よりも、実践から得た生きた知識。
わずか1時間程度の授業で、学生たちも魔力球の基本的な操作を可能にした。
センスある生徒は属性分けや複数個の操作に到達していた。
「これは基本的には毎日、時間が有れば行っていると慣れていくので、ぜひ皆もやってみてください」
「ちょうど時間だな。
ふむ……非常に勉強になった。
恥ずかしながら私は火属性魔法に苦手意識が有ったのだが……」
先生はくるくると火属性の魔力球を操作している。
「実は属性による不得手は思い込みであることが多いんです。
もちろん得意だ!
って想ってる魔法が強くなることも有るので、それは大事にしてもらってもいいと思います。
好きだから強い! ってのは大事ですから」
「そうだな。いや、有意義な時間だった。
君のこの鍛錬方法は広めても構わないかな?」
「もちろんです!」
「皆もアレックからたっぷり学ぶと良い、彼は非常に面白い」
「ははは……」
それから毎日、アレックはいろんな生徒、別のクラスも含めて、いや、教師も含めて、質問攻めになるのであった。