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第8話 入学

 合格発表の日、アレックは再び水場のそばで日課をこなしていた。

 

「おはようアレック君。よく眠れた?」


「ラーナさんおはようございます。

 やっぱり試験で疲れていたのか、すぐに寝ちゃいました」


 アレックの可愛らしい素振りにラーナの心がトゥンクと鳴った。

 思わず抱きしめそうだったがぐっと我慢をして要件を伝える。


「昨日の試験の合否を伝えるので、学校長室まで行きましょう」


「一番偉い人ですよね?」


「試験結果を見てアレック君に興味を持ったみたいよ」


「こ、怖い方ですか?」


「怖くは……なくはないけど、失礼なことしなければ平気よ、さ、行きましょう」


「は、はい」


 本校舎に連れられ、どんどんと階段を登っていく、アレックはこんなにも高層で巨大な建物に入ったことがない。

 最上階、教室から中央のエリアへと移動すると、ふかふかで真っ赤な絨毯が敷かれている。

 明らかに高級なものであることはアレックでも理解できた。


 コンコン


 ラーナが重厚な扉をノックする。

 年季のある見事な木の扉、強力な魔法が付与されており、とんでもない強度に強化されているところまではひと目でわかるが、それ以外にも多数の魔術が組み合わさっていることまでは理解できた。


「アレック君、あんまり解析しちゃ駄目よ」


 少し低く冷たい声でラーナが忠告する。


「そうですね、すみません思わず見ちゃいました」


「ごめんなさいね、先に行っておけばよかったわ。

 学長も()()()駄目よ?」


「はい」


 二人のやり取りが終わると同時に中から声がかかる。


「入れ」


 その声は、若い女性のように聞こえた。

 その理由はすぐにわかる。

 アレックが部屋に入ると、まるで少女に見える女の子が待っていた。

 しかし、その耳をみるとピンと長く、その少女がエルフであることは理解できた。

 エルフは長寿な種族、外見と実年齢は相関せずに当てにならない。

 

「失礼します!」


 アレックはすぐに頭を下げて挨拶をする。

 反射的に()()()としてしまったのを強制的に止める意味合いもある。


「ふむ、危なかったの。アレック。

 まぁ、座ってくれ」


「失礼します」


「それでは、私は外で待っています」


 ラーナは部屋の外に出る。扉が音もなく閉められ、アレックは学長の正面に座る。

 座り心地の良い柔らかいソファーだが、緊張からどうにも居心地が悪く感じていた。


「さて、緊張しているようだが、私が学長のヒイラギだ。

 想像通りエルフ、一応ハイエルフだ」


「……本当に、存在したんだ……」


「ふむ、そういう感想になるな。その通りだ」


 アレックが思わずつぶやいてしまうほど、ハイエルフが人前に現れるのは珍しいことだ。

 エルフもあまり人間の前に現れるの良しとしない、一部の聖職者や冒険者を見かけることがある程度だ。その上位種族であるハイエルフなんて、普通の人間が見かけることは殆どない。


「まずは……学園にようこそアレック、君は合格だ」


「ほっ……良かったです……」


「しかし、君は何者だ?」


「え、いや、別に何も偽っては……」


「そうだろうな、しかし、我らに親しいほど魂が静かだ……

 始祖様に親しいほどの安らぎを感じる……

 人間で……過去帰り……? いや、しかし、半神に近いのか……?」


 ブツブツとつぶやきながらヒイラギはアレックを観察している。

 

「あ、あのー?」


「ああ、すまんな。実際に会ってみて、余計に興味を持った。

 君がこの学園でのびのび学んでくれることを期待する、ラーナ」


「はい」


 いつの間にかアレックの背後にラーナが立っていた。

 アレックも、驚いていた。


「あとは頼む」


「わかりました。さ、アレック君、行きますよ」


「は、はい。ありがとうございました!」


「うむ」


 学長室をでると、ラーナはスタスタと歩き始める。

 アレックもそれについて歩いていく。


「どうだった?」


「緊張しました……本の中の存在だと思っていたので……」


「へぇ……覚えているんだ……

 学内でその話題はしないほうが良いわよ、たぶん周りの人から変な人間扱いされるわよ」


「……認識阻害……」


 ピタッとラーナが歩みを止める。

 そして、くるっとアレックを見つめる。

 その視線は、普段の温かいものではなく、平坦、少し怖いとアレックは感じた。


「本当に凄いわね……貴方、何者なの?」


「さっきも聞かれましたが、自分では自分自身であるとしか……」


「ごめんなさいね、これからの予定を話すわね」


 またスタスタと歩き始める。

 それからアレックは寮に個室を与えられ、生活に必要なものが全て揃っており、アレックの家よりも遥かに素晴らしい魔道具が利用された家具に驚きを隠せなかった。


「それとこれが制服、なくさないでね。高いわよ。

 教科書や資料は全て魔道具に収められている。

 本の方が高くなるから魔道具を利用しているけど、この魔道具も高いから壊さないでね」


 次から次へとポンポンと説明していく。

 そして最後に。


「アレック君、明日からA-3クラスで学ぶことになります。

 月の日から金の日まで、毎朝2の鐘から8の鐘まで、土の日、太陽の日はお休みよ。

 そして、これは村の皆さんからの生活費、あとは土の日と太陽の日に稼ぐ学生が多いわ。

 これから、大変だと思うけど、貴方なら立派に卒業できるわ、頑張りなさい」


「はい! いろいろとありがとうございました!」


 こうして、アレックの学生生活が始まるのであった。




 

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