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第7話 試験

 翌朝、アレックが目を開くと、見慣れない天井。


「そうか、学園にいるんだった……」


 静かな室内に響く自分の声に少し寂しさを感じてしまう。

 思ったよりもぐっすりと眠れた。森で狩りをしながら仮眠を取ったり、眠れる時にしっかり眠るクセは身につけていた。隠形を含めて、驚くほど自然に行えていた。


「さて、確か外に井戸があったから顔でも洗ってこよう」


 周囲の説明は昨夜ラーナから受けていた。

 初々しい反応をするアレックで遊んでいたが、必要な情報はきちんと伝えている。

 アレックも赤面しながらチラチラと色んな所を見ていたが、大事なことは聞いていた。

 井戸から慣れた手付きで水を汲み上げ、桶にためていく。

 口を濯ぎ、顔を洗い、身体を拭きさっぱりとする。

 動きやすい服に着替えて、本日の試験に向けて、頭をシャッキリとさせておく。

 

 アレックは普段どおり身体を動かし、魔法の鍛錬に移る。

 魔力を高め、集中し、体中を移動させ、体外に放って操作する。

 小さな魔力の塊を、一つ、二つ、三つ、四つどんどんと数を増やしていく。

 そして、次に属性を増やしていく。

 火・水・風・土・光・闇、基本的な属性の魔力を球体に保ちながら空中で操作していく。

 魔力操作、属性操作、移動操作、同時操作など様々な魔法にまつわる能力を鍛錬できる。

 普段どおりの準備運動をしていると、気がつけばたくさんの人間が建物の窓から、水場を囲うように観察している。そして、ざわついていた。


「アレック君……なにしてるの?」


 ラーナがその囲いを割ってアレックに近づいてくる。

 アレックは全ての魔法玉を体内に戻してラーナに向き直る。


「おはようございますラーナさん。今日の試験のためにちょっと準備運動をしていました」


「じゅ、準備運動……?」


「はい、魔法も身体も毎日基本をしっかりやれ! ってのが師匠の教えなので」


「き、基本……? いや、たしかに、魔力操作は基本だけど……数が……」


「それにしてもラーナさん、どうしたんですか?

 もしかして、もう試験が始まってるとか!?」


「い、いや、まだなんだけど……

 そ、そうだ、朝食が食堂に準備されているから今のうちに食べておいたほうが良いわよ。

 今1の鐘だから、3の鐘から試験開始なので、あの大きな建物に入って待っていてね」


 ラーナが指差す先に大きな建物がある。

 食堂は寮の一階にあることも教えてもらっている。

 あと2時間ほどで試験開始、アレックは気を引き締めるのであった。


 食堂にアレックが入ると、たくさんの視線がアレックに集中し、そしてザワザワと騒がしくなる。

 アレック自身は、まぁ知らない人が来れば少し気になるだろうし、これぐらいの年齢の子供が集まればこれくらい騒がしいのはきっと普通なことだろうと考えた。

 そもそもこの考え方が、アレックの年齢からしたら少々達観しすぎたりしているのだが……

 実際にはアレックはすでに学園集の噂になっている。

 信じられない数の属性魔法を同時に自由自在に操る新入生が来た。

 まだ試験の前ではあったが、生徒たちはアレックの入学を疑っていない。

 それは、当然だ、教師であっても、あのような芸当を行った者を見たことがないからだ。

 自分自身で試した生徒も少なくなかった、結果として魔法玉を二つ三つ、無属性の物を作り出せば、操作不能に陥ってしまった者がほとんどであった。


 食堂内は二階層になっている。

 中央は吹き抜けになっており、アレックが座った席は上のテラス席からよく見えていた。


「……ふーん、あいつがねぇ……」


 5色の魔力玉を指の上で転がしながら、アレックを見つめる男。

 指先に魔力玉をまっすぐ乗せて積み上げている女。

 二階席にいる誰もが、複数の魔法玉を見事に操っていた。

 彼らの全てが、アレックから目を離せなかった。


 アレックの学園デビューは、試験前から派手に始まっていた。


 ラーナから教えられた建物に入り、アレックは教師からテスト会場を指示された。

 言われた先の廊下を抜けていくと広い空間に出た。

 周囲を高い壁に囲われ、その上には沢山の席が用意されていた。

 アレックが会場に入ると、すでにその席の殆どが生徒たちによって埋められていた。


「うわ、凄い……こんなにたくさんの人……

 みんな生徒なのかな、僕ここにいて良いのかな?」 

 

 全員がアレックに集中しているので、あまり人の視線に慣れていないアレックは尻込みしてしまう。

 

「アレック君だね。噂は聞いたよ、楽しみだね」


「よ、よろしくおねがいします」


 会場に現れた教師は、本当に魔法使いなのか? と疑問に思ってしまうほどの巨漢。

 筋肉の壁がアレックの前にそそり立った。

 ニカッと笑う歯の白さが際立つ。


「さて、凄い見学者だが、気にせずいこう」


「わかりました」


「まずはじめにこちらの魔道具に手を載せて、魔力を循環させるんだ!」


「はいっ!」


 会場の端に置かれた巨大な魔道具、いくつもの魔石が組み込まれており、アレックの手元には金属製の板があり、そこに手の形が描かれている。

 手をその絵に合わせて、魔力を循環させる。

 魔道具内をアレックの魔力が通っていく。


「……アレック、今何歳だ?」


「8歳です」


「……80歳とかの間違いじゃないのか?

 どれだけの練度が有ればこんなに澄んだ魔力が練れるんだ……よし、オーケーだ」


「はい」


「魔力量、魔力の安定度、魔力循環のスムーズさを今の道具で見たわけだ。

 それでは次だ」


 それからは、各属性の魔法、精度、威力、量などを細かく審査された。

 試験が終わりに近づくと、物見遊山で眺めていた生徒たちは恐ろしいほどの静けさに包まれていた。


「以上だ……結果は、どう考えても明らかだが、一応明日発表となる……」


「お疲れさまでした!」


「参考までに聞くが、今魔力はどのくらい消費している?」


「うーんと、3割ぐらいは消費していますね……緊張して無駄に消費しました」


「そ、そうか……今日はゆっくりと休んでくれ!」


「はい! ありがとうございました!」


 こうして、アレックの試験は終了した。

 アレックが去った後、試験会場は、騒然とするのであった。

 

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