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第5話 来客

「ん……!」


 アレックは空に向かって両手を上げて身体を思いっきり伸ばしている。

 早朝の澄んだ空気を思いっきり吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。


「よし、痛みがない……」


 アレックが目覚めてから、二週間、ようやく全身から痛みが引いた。

 アレックの両親は甲斐甲斐しくアレックの介護を行い、今までの罪滅ぼしかのように甘やかした。

 しかし、アレック自身は、その状態が不満だった。

 軽い運動もしたかったし、日課である狩りは、彼の楽しみでもある。

 結局、アレックの説得に両親は渋々頷くしかなかった。アレックは、頑固なのだ。


 アレックの体調はすっかり改善し、むしろ以前よりも動けるようになり、魔法に関しても向上しているようにも村人たちには見えた。

 村の大人たちは、アレックに良いように倒されてしまい、彼が再び狩りで森に入ることを止める口実が無くなってしまい、再びアレックは森へと向かうことになってしまった。


「でも、絶対に無理しちゃだめよ!!」


「や、やっぱり父さんも付いて……」


「もう、昨日話したじゃないか父さん。

 悪いけどついてこられたら獣が逃げるし、迷惑だって……」


「そうだな……すまん……」


「父さんはいつもどおり仕事に行って、母さんもいつもどおり帰りを待ってて。

 大丈夫、ちゃんと信号灯も持ったから」


 両親からの譲歩は信号灯の携帯だった。

 何か有れば上空に光弾を打ち上げ、有色の狼煙を発生させる。

 無理をせず、異常を知らせ、村を総出で問題に対応する。

 5歳の子供に頼っていた村人たちの罪滅ぼしだ。


「狩りは楽しいし、いろいろ勉強になるから好きでやってるんだから……

 でも、ちゃんと約束は守るから、安心して待っててね」


「気をつけてね」


「うん、行ってきます」


 アレックは魔法を発動し、風のように森へと消えていく……


「あの子は賢い子だ……」


「そう、そうよね……」


 幼い我が子に頼ることへの罪悪感、それに再び同じようなことが起きて、今度は助けられないかもしれない……両親の不安をよそに、アレックは久しぶりの狩りを楽しんでいた。


「なんだろう? 調子が良いのかな……?」


 アレックは困惑していた。

 明らかに感覚が鋭敏すぎるのだ。

 まるで森の様子が手にとるように理解できる。

 どこに何がいて、なにがあるのか、生物だけではない、果物やキノコ、薬草など、世界が、まるで全く別の物の様にアレックには見えるようになっていた。

 そのおかげで狩りの効率、採取の効率は別次元となる。


「凄い……けど、どうしたんだろう急に……それに収納魔法が妙に不安定だし……」


 もう3日狩りを行ったぐらいの成果を上げてしまったが、まだ日は高い。

 もちろん取り尽くすような採取もしていない。

 それでも、自分の体の変化に異常を感じる。

 魔力の通りも別次元に成長しているし、何より魔力量が桁違いに増えている。

 肉体的にも成長の範疇から逸脱している。


「そもそも、僕ずっと寝てただけだよ……?」


 結局、両親を心配させたくもなかったので、日が傾き始めた頃には村に戻ることにした。

 森を出ると師匠であるドーラが待っていた。


「先生!? どうしてここに?」


「ん? おお、アレック偶然だな? 儂は薬草が切れたのでな、少し集めにな」


「薬草ならたくさん採取できたので……

 よかったら一緒に戻りませんか?」


「おお、いつもすまんなアレック、ならまた甘えることにしよう。

 では、戻ろうか」


 アレックは師匠と話しながらゆったりと村へと戻る。


「そう言えば師匠、空間収納魔法が安定しないというか、うまく認識できないような、説明が難しいのですが……」


「次元や空間に関わる魔法は未だに謎も多い、成長期の魔法力の増大で扱いづらくなっているのかもしれんな」


「なるほど、そういう事が有るんですね! ありがとうございます!」


「とは言っても、アレックの魔法は特殊じゃから、儂もわからんのじゃがな……」


「いえ、すっきりしました。より気をつけて使うようにします!」


 村までの道中でも、数名の村人と偶然出会った。

 そんな温かい村人たちは、アレックの取り出した獲物の量に笑いがひくついてしまう……


「む、無理しちゃだめだよアレック……」


「ちゃんと俺たちでも食料は確保しているから、休んだことなんて気にしなくて良いんだよ?」


「いえいえ、なんか調子が良くて!」


「うう、情けない……こんな子供に気を使わせて……

 皆、これからもっと頑張るぞ!」


「ういっす!!」


 村人たちの早朝トレーニングに熱が入るようになった。

 しかし、アレックの能力の向上は事実だ。

 入る森を変えながら、以前よりも遥かに多くの成果を持ち帰る姿に、村人たちは自分の体をいじめ抜いて鍛え上げることで、罪悪感を薄めるしかなかった。


 そうして、しばらく月日が流れる。

 

「帰ってきたわ!」


「おーい! アレックー!」


 村に戻ると、アレックの両親が出迎えていた。


「珍しいね二人共」


「アレックを待っていたの!

 今ね、街の方からすごい人が来ていて……

 アレックに用が有るんだって!」


「僕に?」


「早く早く!」


 妙に両親のテンションが高くて、少し不穏に思ったが、アレックは連れられるままに村長の家まで連れてこられた。


「おお、アレック、待っておったぞ」


「こんにちは、貴方がアレック君なのね」


 55歳にして筋肉に目覚め、今では村でも屈指のバルクモンスターである村長と、まるで美女と野獣のような美しい女性がいた。


「はじめまして、私はケーネス。

 一応特級冒険者で魔法を使うわ、貴方と同じようにね」


 村では見たこともないような金髪の美しい女性に、アレックは少し気後れしながらも、差し出された手をそーっと掴む。


「は、はじめまして……」


 おどおどと見上げると、どきりとするような素敵な笑顔を向けてくれた。


「ちょっと暖かいかもしれないけど、びっくりしないでね」


 ケーネスはその掴んだ手を離さずに、アレックにそう告げた。

 次の瞬間、アレックはケーネスの手のひらから温かい何かが入ってくることを感じる。


「わ、わ、わ……」


「大丈夫、落ち着いて……凄いわ……

 こんなに大きくて、濃厚な……

 それでいて……均一な……」


 体全体までその温もりが広がっていき、しばらくするとケーネスは手を話してくれた。

 アレックは身体がポカポカする感じで違和感が有るが、悪い気はしなかった。


「かけてもらっていいわ」


 ケーネスは荷物からいくつかの道具を取り出して、サラサラと文字を書いていく。

 あっという間に書き上げて最期にパラパラと砂のようなものを紙にかけると判子を押した。

 砂が光を放って、紙に美しい紋様が浮かび上がった。


「特級冒険者ケーネスが保証します。

 アレック君は上級魔法使いになれる才能があります。

 王国の国立魔導院学園への推薦状になりますので、是非進学を提言します」


「さすがはアレック……ありがとうございましたケーネス様!!」


「いえ、この村から安定供給される魔石は質も高く、いつもお世話になってますから。

 採取者がこんな可愛い子供だとは思ってなかったけど、理解できたわ」


「アレック! 凄いじゃないか!!」


「さすがはアレックだわ!」


「何が何だか分からないよ……」


 周囲で大喜びの大人たち、当人のアレックは困惑していた。

 

 


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