第4話 封印
ダンジョン内を小さな影が走る。
目の前の通路から魔物が次々と現れる。
しかし、小さな影は全く臆すること無くその無数の魔物の群れに突っ込んでいく。
【火炎竜】
小さなつぶやきと同時に、豪炎が通路いっぱいに放たれる。
魔物たちは魔石以外の全てを灰に変えて、消えていく。
無数の魔石が通路に散乱するが、その小さな影が通り過ぎると全て綺麗に消え去っていく。
その後も全てを切り裂く嵐や、全てを凍りつかせる極寒の風、無残に切り裂かれる剣技、撃ち抜く弓技を駆使してダンジョンお奥深くに迷うこと無く進んでいく。
どんどんと凶悪化する魔物も関係なく、ただの狩る対象でしかないように、つぎつぎと魔石へと変えられる。
そして、とうとうダンジョンの最奥、ダンジョン核が自らを守るために作られた巨大な魔物のいる部屋まで到達する。
自らを守るために、その魔物はその小さな影、アレックへと襲いかかる。
アレックの表情は、無表情。
光のない視線を敵に向けると、片手を突き出し魔法を唱える。
「アースニードル」
土によって形成された大きな針が、アレックの前に立ちふさがる巨大なサイクロプスの足元から突き刺さっていく。
「グオオオオオォォォォ!!」
サイクロプスは手に持つ棍棒でアレックのいる場所を薙ぎ払う。
振り払った場所には人影が消え去り、自らの持つ棍棒で敵を粉砕したとサイクロプスは確信した。
その大きな一つの目は、自らの棍棒から逃れた物を捉えていない。
「レイ・ボウ」
思わぬ声に顔を向けると、棍棒の脇に、重力を無視して地面と水平に立っているアレックの身体、そしてまっすぐと向けられた人差し指の先が光るのが視えた。
サイクロプスが見た最後の映像であった。
目玉ごと頭部を撃ち抜かれた魔物は、子供の頭ほどの、今ままでに落ちたものとは別次元の巨大な魔石を残して灰となって消えていく。
アレックは興味なく収納魔法にその魔石をしまい、奥に続く扉を開く。
真っ白な部屋の中央に、巨大な魔石が浮遊している。
先程手に入れたサイクロプスの魔石とは別次元、大の大人が抱えるのも苦労しないほど大きい。
そして、美しく美術品のようにカットがされており、魔石とは別次元の存在感を放っている。
これが、ダンジョン核だ。
アレックは、つかつかとその核に接近し。
「ダンジョン破棄、コア回収」
そうつぶやくと、周囲を守っていた魔力の檻が消え去り、ゴロンと核が落下する。
興味なさそうに収納し、その背後に置かれていた宝箱も収納する。
背後に現れた魔法陣に乗ると、アレックの姿が一瞬で消える。
アレックがいなくると同時に、ダンジョンはガラガラと崩れ始める。
ここに、一つのダンジョンが終焉を迎えるのであった……
アレックは地上に転送された。
すでに外は真っ暗。
収納していた松明に魔法で火を付ける。
その背後では、ダンジョンの入口がガラガラと崩れ落ちる。
森の木々が松明の火に揺られている。
アレックは……松明を地面に突き立てると、膝から崩れ落ち眠ってしまう。
松明の明かりは、ゆらゆらと森とアレックを照らし出すのだった……
「……う……痛い……痛い痛い痛い!!」
アレックが太陽の光に照らされ、意識を取り戻す。
同時に襲う激しい頭痛と身体の軋むような痛み……
思わず頭を抑えもんどり打って、体の痛みに身体をすぼめて必死に堪える。
「い、癒やしを……ヒール……いたたたたたたたた!!!」
体の痛みを取るために魔法を詠唱すると、より激しい頭痛に襲われた。
ほんの少し体の痛みが取れたことと天秤が合わない痛みに頭を押さえて転がるしか無かった。
しばらくもんどり打って、一番ラクなのは身体を丸めてゆっくりと深呼吸することだと気がついたアレックは、なんとか痛みが過ぎ去ってくれることを待つしか無かった……
ようやく、頭痛が我慢できるレベルになって、ゆっくりと立ち上がる。
「……朝? 僕は……ここは……?」
思い出そうとするとまた鈍い頭痛が襲ってくるので、とにかく、近くにあった松明を掴んで歩き始める。ちょうどいい感じの木が落ちていたので杖代わりにして歩く。
ちょっとしたことで色んな場所の筋肉が痙攣を起こしそうになったり、攣りそうになったりする……
なんとなく村への方向はわかったので、ゆっくりゆっくりと進んでいく。
暫く進むと、人の声やガサガサと草木を避けて動く音がが聞こえてくる。
目を凝らせば村の大人たちが松明を掲げながらこちらへと向かってくる。
「おおい! グッ……」
大きな声を出すと、一段と頭が痛み、脇腹の筋肉が痙攣して悲鳴を上げた。
「おおい! こっちだ!! 居たぞ!!」
大人たちがアレックを発見し、集まってくる。
その事実に緊張の糸が切れて、アレックは意識を手放した……
そして、再び目を開けると、見慣れた天井が見えた。
頭にはひんやりと気持ちのいい濡れたタオルが置かれている。
身体を起こそうとすると、先程の激しい痛みは落ち着いていたが、鈍い痛みが走り、筋肉が痙攣しそうになるのは変わっていなかったので、無理せずそのまま身体をベッドに沈めた。
「ベッド、だ、自分の……」
横を見るとベッドサイドのテーブルに使い慣れた木製のコップが置かれている。
コップを見ると激しい喉の乾きに気がつく。
手を伸ばし、コップから水を得ようとしたが、ビクリと身体を支えた腕の筋肉が痙攣し、コップを落としてしまい、水を床に巻き散らかしてしまう。
「アレック! 目が覚めたか!」
その音を聞いて、隣の部屋の両親が飛び込んできた。
「父さん、母さん……」
「心配したんだから……」
「すまん、すまん……」
結構身体は痛かったが、抱きしめられ、アレックはホッとしていた……
「喉、乾いた……」
「待っててねアレック、すぐに用意するわ」
「父さんが悪かった。お前に頼りすぎていた。
まだ、こんな小さなお前に……すまん……」
俺を抱きしめる父さんの肩が震えている。
涙を流さず泣いていた。
「大丈夫だよ、今回は、僕が、調子に乗っちゃった……」
「いいんだ、お前がしっかりしてるから忘れてしまうが、まだ7歳なんだ。
大丈夫だ、これからは父さんがお前をしっかり守る」
「何言ってるんだよ、父さんはいつも僕や母さんのために頑張ってくれているじゃないか……」
「さぁアレック、お水よ。
ゆっくり飲むのよ」
父さんはゆっくりと僕の身体を離し、背中を支えてくれた。
母さんから渡されたコップの中には水が入っている。
ゆっくりと飲み込むと、熱っぽい身体に冷たい水が流れ込み、とても心地よかった。
毎週日曜18時に投稿するつもりです。