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第3話 選択

(そこだ!)


 少年は手にした弓から矢を放つ。

 矢はその小さな少年から放たれたとは思えないほど鋭く疾く目標に吸い込まれるように飛ぶ。

 一撃で身体を貫かれた目標、鳥は、ぐらりと枝から落下し、地面に落ちる。


「やったぁ!」


 少年は走り出し、その自ら撃ち抜いた獲物を手にする。

 なれた手付きで近くの木にぶら下げると、腰から外した鉈で鳥の首を刎ねる。

 垂れ落ちる血液も動物の膀胱を利用した水溜めに回収していく。


「今日はごちそうだな、皆喜ぶぞ……」


 幼い顔つきで笑う少年が、見事に狩猟の腕を発揮したとは、事情を知らない人間では信じないかもしれない。

 彼の名前はアレック。

 このウイストル王国、辺境の名もなき村に済むまだ7歳になったばかりの子供だ。

 しかし、その村では知らない人間は居ない。

 もちろん小さな村だから皆知り合いなのだが、そういう意味合いではない。

 アレックは有名人だ。

 身長は130メニク(センチメートルとほぼ同じ)、同じくらいの子供よりも少し大きい。

 両親から受け継がれた美しい黒髪を短めにまとめ、母親によく似ていると言われる優しい目つき、整った鼻筋に、ちょうどよい口唇。

 成長すれば女泣かせになると村の品のない男たちは酒の席で話題にする。

 しかし、彼が有名なのはその優れた身体能力、知恵、そして魔法能力だ。

 

 この世界で生まれた人間は皆魔力を持っている。

 その中で、10人に一人は魔力を利用して魔法という現象を引き起こすことが出来る。

 そして、その中でもさらに100人に一人は、一般の人間と比べて特出した魔力量を持つ。

 アレックは、その1000人に一人のレベルで魔法を行使できる。

 勉強熱心で非常に高い理解力を持つアレックは、村の医者兼薬師のドーラの弟子として、4歳から教えを受けている。

 すでにドーラの持つ全ての書物を読破し、能力知識共にドーラを超えている。

 剣や弓の才能にも非凡なものを持っており、村の大人でも勝てる人はいない。

 子供は入ることを許されていない村の裏にある山に入って狩猟を行えるのも、アレックだけだ。

 すでに山鳥を5羽、先程撃ち落としたデリ鳥、更に大型の鹿を仕留めている。

 

「よし、血抜きも終わったし、しまっておこう」


 デリ鳥はアレックの操る空間収納魔法に収められる。

 

「いやー、デリ鳥旨いんだよなー……今日はもう上がろう。幸運を使い果たしちゃう」


 子供らしい笑顔で獣道を村へと戻っていく。

 今日の戦果は十分だ。

 山菜、キノコに木の実、それに狩猟の獲物、アレックが狩りを始めてからは村の食料状態も著しく改善している。

 アレックは村中の書物を読み漁って色々なものを開発している。

 それら一つ一つが村の生活を豊かにしており、一部は町へと伝えられ、大きな利益になっている。

 

 いろんな点で、アレックは有名人だった。


 この世界は、人が暮らすにはとても厳しい世界だ。

 世界の多くを人間は支配していない。

 未開の土地が至るところに存在する。

 魔物と呼ばれる存在、魔神を崇拝する闇の種族、人間を害する生物が至るところに存在する。

 人間は集まることでそれら脅威から身を守っている。

 しかし、一部の力のあるものによる支配が、どの集団にも存在する。

 力なきものは労働でその力の傘の下で生きる権利を手に入れる。

 あまりに過酷な労働に耐えきれず、小集団を作って必死に生きる者たちも多い。

 そのうちの一つの村がアレックの村だ。


 自由を求め人々の生活は過酷を極める。

 比較的安全な場所は、強き力を持つ同胞が占拠している。

 未開拓の土地では、動物、魔物、敵対種族が舌なめずりをしている。

 なんとか辺境で足がかりを作っても、食料をまともに得ることが出来なかったり、水さえ手に入らないことも有る。

 森を切り開き、まもりを固め、水を得て、安定した食料を得られることは奇跡に近い。

 アレックが物心つく前は、彼の村も例外ではなく非常に厳しい生活を強いられていた。

 魔物が襲来して多くのけが人を出して辛くも撃退したことだって幾度も有る。

 それでも諦めずに少しづつ堀を作り、柵を作り、家を建て、道具を作って対応していった。

 

 アレックがその頭角を表したのは、5歳のときだった。

 いくつかの薬草と木箱、それに魔法陣を利用して魔物よけと呼ばれる装置を作った。

 つまり、魔道具を作り上げたのだ。

 結果として、その箱が設置されて以来、猛獣の襲撃も、魔物の襲撃も起こらなくなった。

 更に地下に存在する水を吸い上げる装置を作り、村の水問題が大幅に改善した。

 地中の水を魔道具で高い位置の貯水塔に水をあげ、各家庭に分配するという方法で、誰もが家で自由に水を使えるようになった。

 

 そして、村の誰もアレックに勝てなくなると、アレックは森へ入り、獲物や魔獣を狩り、食料や魔石を集めるようになり、さらに高等な魔道具を作り上げていく。

 この村の人々は巨大都市の貴族のような生活を送るようになっている。

 

 もちろんこの村の評判も広がっていくが、安易に移民を受け入れるわけには行かない、基本的にアレックによってこの村の生活が成り立っていることを理解していない人間が増えるのは危険だ。

 さらにはアレックの力を奪おうとする存在も必ず出てくる。

 最近の村人の悩みは主にそういった悩みになっている。

 少しづつ、しっかりと人選をして緩やかに村を大きくする方針で、今は動いている。


「ん? 変な気配がするな……一応見ておくか……」


 アレックという存在が、村にとって何よりも重要なことは、アレック自身も理解していた。


「これは……ダンジョンか……? しかも、この気配は……溢れる……!?」


 この世界に存在する特殊な存在、ダンジョン。

 人間や闇の種族である魔人も恐れる存在。

 ダンジョンは生きており、成長する。

 本体はダンジョン核と呼ばれる魔石の上位的な存在だ。

 地面に寄生すれば洞窟、鉱石などに寄生すると建物のような構造になったりもする。

 神の奇跡を与えられており、魅惑的な財宝を餌に人間や魔人などの魂を食らうことで成長する。

 内部には特殊な魔物を作り出し、複雑な構造を作るが、手に入る財宝はそのリスクと立ち向かうのに十分に見合う物が手に入る。

 ダンジョンを制覇し、強力な核を手に入れることができれば、都市核として、神の奇跡で守られた都市を手に入れたことと同意義であり、王となれる。

 事実、王を名乗るほどの人間たちは、皆、都市核の支配者だ。


 そして、アレックの目の前に口を開けているダンジョンは、非常事態だった。

 誰にも見つかること無く、自然の動物や魔物の薄い魂を喰らい続けて、魔物が大量に内部で発生している状態、そして、これがダンジョンから溢れると、周囲に壊滅的な破壊をもたらすスタンピードを起こす。


「村からは……そこまで離れていない……こんなところに、こんな物が……

 どうする……村に帰って……いや、いくら皆を呼んでも、どうにも……」


 アレックの胸がどんどん早く脈打っていく……

 頭は思考で熱くなるが、指先は冷えていく。


 絶望的な現実が目の前にある。


「……どうする……どうする……」


 グルルル……


 内部の魔物の声が、アレックの耳に確かに届く。


「……守らないと……マモラナイト……ヒトビトを守ル……」


 アレックの中で、何かの鍵が外れた。

 次の瞬間、迷うこと無くアレックの足は、ダンジョンに踏み込んでいた……



 

 

 



毎週日曜18時に投稿するつもりです。

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