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「ん?」
病院の廊下。何故か椅子に腰掛けた俺と、立った儘で此方を見下ろす三者。俺は周囲を見渡した。
「お前、何で座ってるんだ。ていうか、廊下?」
安曇が疑問符を浮かべて、周囲を忙しなく見返す。美羽も由紀も、何故か俺等は廊下に居た。
「あれ。階段に居た筈じゃ……」
「だよな」
義之の見舞いを終えて、俺等は階段を下りていた筈だが、此処は見た限り、病院一階の廊下だった。
皆々も同様に、此の状況に違和感を抱いている様子だ。四人全員の記憶が飛んでいる様だが……。
「おかしな事もあるもんだ」
「ですね」
暗所から明所に移って、脳が麻痺したのだろうか。然う思いながら、俺は椅子から立ち上がった。
「ともあれ、此の後は何するか」
眼前の三人を見渡して、俺は問い掛けた。
「メシ。メシ行こうぜ」
意気揚々と安曇が由紀の両肩に手を突いて、上に飛び跳ねる。其の手を由紀は叩いて、「ですね」と、同調する。俺は其の後ろで此方を見詰める美羽に、「如何する」と問えば、彼女は小さく頷いた。
「じゃあ、メシだな」
然うして、俺は待合室の方に向かって、一歩を踏み出した。
落日に照らされる待合室。未だに、人波に溢れていた。
良い一日だな。
陽気な気分で、横に並んだ美羽を一瞥して、俺は深く息を吸い込んだ。
摂氏です。梢の春が過ぎ去り、茹だる様な夏の気配が、直ぐ傍から感じられます。もう夏の陽気ですね。
今作は、溢れる衝動に駆られて書いた短編小説です。思い付きで書いた作品なので、テーマらしいテーマは在りません。
さて。突然ですが、此処で問題です。私達は本当に生きている生物なのでしょうか。此の世界に存在する物質なのでしょうか。そもそも、此の世界は、此の宇宙は、本当に私達が知っている通りの概念なのでしょうか。
あらゆる知識を得た瞬間、其の場に立ち止まって考えてみれば、あらゆる可能性が見えて来る。可能性に見る希望と絶望の両側面。今回は、絶望に焦点を当てた作品です。皆様の貴重な人生を費やして読んで頂けたのであれば、嬉しい限りです。ありがとうございました。
執筆中の長編、そして今後も不定期に更新される短編も、是非よろしくお願い致します。