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「遅いよ」
「遅いか?」
何故か彼女の家の前で出迎えて呉れた美羽は、剥れた表情で俺を睨み付けていた。
はて。自宅から此処まで数分程度の道程なのだが……。
言われて見遣る車内の時計が示す時刻は、二時を少し回った所だった。
「集合の一時間も前じゃないか」
此処から病院まで十分と掛からない。時間は余裕だと思うのだが、彼女は首を振った後、助手席に遠慮なく乗り込んだ。
「お茶でも行こうかなって……」
然して、「おお」と、俺は言葉を漏らした。
「なら、然う言えば良かったじゃないか」
言って呉れれば、午前からでも予定を空けられたのに……。
だが、彼女は此方を睨め付けた儘、大きな溜息を吐いた。
「だからモテないんだよ。瑠璃くんは……」
エアコンの温度を勝手に調整しながら、彼女は何時もの様に強烈な毒を吐く。
「悪かったな。モテなくて」
聞き慣れた戯言だが、異性に言い寄られ慣れている奴の有難い言葉は、一味も二味も違うな。
まるで氷塊の様な戯言が突き刺さった俺は、何度目か分からない溜息を吐き出して、胸ポケットに手を突っ込んだ。
「別に、今から行っても余裕だろう」
「どこに?」
「喫茶店」
クラッチを踏み込んだ儘、俺は草臥れた煙草を取り出す。
「え。いくの?」
彼女は車窓を開きながら、俺に真顔で問い掛ける。
「お前が行こうって言ったんじゃないか」
ライターで煙草に火を点して、俺は窓の外に向けて溜息まじりの煙を吐き出す。続いて彼女を見れば、「いや」と一言、酷く呆れた表情を浮かべていた。
「そうだけど、そうじゃないんだよ」
呆れた様に言った後、「非モテ」と、彼女は小声で呟くが、俺には全く以て理解不能だ。彼女が何を求めているのか。毎度の如く分からないが、少なくとも此処で喫茶店に行かなかった場合、また負の烙印を押され兼ねない。
「ヨメダで良いか」
然う問えば、「ん」と、彼女は小さく頷いた。