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7. 持つべきものは友 ~魔法行使~

 一般的なオンラインゲームと同じく、ヒプノシア・オンラインには『フレンド機能』という機能がある。簡単に言うと、ゲーム内のみ連絡の取れるアドレス交換をする機能だ。

 フレンド登録をしたユーザーとは、直接面と向かわなくても連絡が取れる。文字通り、友達付き合いをするための連絡手段機能というわけだ。

 急なフレンドの申請に驚いていたジェノだったが、やがて頭の中が現状に追いついてきたのか、にんまり、と破顔した。


「……うむ。こちらこそよろしく頼む」

 

 こうしてジェノに、初めてフレンドができた。

 しかし。

 

「じゃあ、俺も!」「私もフレンドになって!おじいちゃん!」「俺も俺も!」「これで俺にも拍が付く!」「うちにはフレンドを待っている三匹の金魚が待ってるんです」


 その後騒ぎになって、フレンドが50人ほど増えた。



「なんだったんじゃ、あの騒ぎは」


 フレンド依頼が一通り終わると、周りのプレイヤーは再び自分の訓練に戻っていった。


「おじいちゃん、レアキャラ扱いになってたからね」


「俺はツチノコか」


 笑いながら、青年サーバーのジェノの扱いを話すマルティ。それを聞いて、年甲斐もなく拗ねたふりをするジェノ。そこに不快感もなく、冗談を笑いあっているような感覚があった。

 余談だが、オンラインゲームではフレンドの数や、フレンドになった有名人の数で競い合うプレイヤーもいるという。今回、ジェノのフレンドになり違ったプレイヤーが多かったのも、そう言ったオンラインゲームというコンテンツの地方性のようなものだ。

 当のジェノは、というと。


(うーん、ええのう。こういう、気の置けない関係とゲームができるのは久々じゃ)


 ジェノは、決して若い子供たちにちやほやされたい、というわけではない。たとえ、そういうよこしまな気持ちが無きにしも非ずだとしてもだ。

 丸満(ジェノ)は、ゲーマーである。それは年を取っても変わることはなかった。

 しかし、ゲームの方はというと、年々進化していった。それは、現実と変わらないリアリティと経験をもたらしてくれる一方で、体感型のシフトしていったゲームの内容は、人を選ぶものが多くなってきていた。丸満の年の近い知り合いは、ゲームが体に堪えるだとかで一緒にプレイできなくなってきた。逆に若い知り合いを誘ってみようにも、年齢差のせいか遠慮がちなプレイヤーしかいないので、これまた気軽な口も訊けない。

 だからこそ、こうやって若いプレイヤーと笑いあって仲良くプレイできる空間が嬉しいのであった。

 実は内心でマルティはハラハラしていたりもするのだが、ポーカーフェイスが上手いのか、ジェノに気取られることはなかった。


「さて、落ち着いたところで。とりあえず教えてもらった通りに"スキル"を使ってみるかの」


「うん、がんばれー!」


 マルティの応援を背中に聞きながら、改めてアビリティウィンドウを開く。

 マルティの実演を鑑みると、スキルの発動には二つ以上の【アビリティ】の選択が必要だ。まず選ぶのは、もちろん【自然魔法(風)】。問題はもう一つなのだが、これはすぐに目星がついた。

 と、いうのも覚えたつもりのないアビリティが一つ、アクティブアビリティ欄に増えていたのだ。その名も【魔力操作】。

 

 【魔力操作】

   魔力を自在に操ることができるようになる資質。

   発動キーワードは『在れ』。

    ※魔法関係のアビリティを取得した際に自動取得。

 

 最初に見た時は、何に使うのかわからないアビリティであったが、今ならわかる。

 端的な説明ではあるが、【自然魔法(風)】を取得したから覚えたアビリティであるなら、組み合わせてスキルにしろ、と言いたいのだろう。

 どういった形で発動するのかはわからないが、とりあえず順番に選択しよう。まずは、【自然魔法(風)】から。


「ARアイコンを手作業で選んでる……本当におじいちゃんなんだなぁ」


 アビリティを選んでいると後ろから、ぼそぼそと何かが聞こえた。今更気にすることはないが、やはりひそひそ話されるはすごく気になる。

 とにかく気にしないようにしようとして、二つ目【魔力制御】の項目を選択する。すると、先ほどと同じように左手が淡く緑に輝いて、風が生まれる。しかし、今後は風の向きが違う。

 的に向けた手のひらに、軽く圧力を感じた。それは、手のひらにゴムボールを押し付けられているかのような感覚。

 以前のアビリティを使用した時のような、風が生み出されるような外側向けの風圧ではない。手のひらに風が集中して、結果風の球が手のひらに生まれていっているように思える。

 左手を的に向ける。先ほどと違い、周りに及ぼす風はほとんどない。

 風の向き、周囲の雰囲気に、周りが手を止め口を止め、ジェノの方を向いている。

 しかし、高揚した彼は気にも留めていなかった。

 これは、いける。確信を持って、ジェノは発動キーワードを口にする。

 

 「【自然魔法(風)】(風よ)【魔力操作】(在れ)!」


 圧縮された風の塊が、ぽとり、と足元に落ちた。


「は?」

「え?」


 間抜けな声を出すジェノとマルティ。その場の空気が、一瞬止まった。

 ジェノは手のひらを的に平行――つまり、地面と垂直になる様に向けていた。

 ジェノの使った魔法は、【魔力操作】を使ったことで周囲に拡散せず、球体状に圧縮された。

 それだけだ。その球をどうする、とかそういった指定も指示もしていない。ジェノは、そこまで思考がたどり着いたところで、ようやく次の展開を察した。


「まっ」


 ジェノの静止の言葉は発せられることなく。地面に"着弾"した風の球は、やはり周囲に暴風をまき散らした。

 


 かくしてジェノはまた正座する羽目になってしまうのだった。しかし今回は、不可抗力ではないかなぁ、と釈然としない気持ちもあったりする。

 しかし、ようやく思い出したことがあった。『ヒプノシア・ファンタジー』版では、棒人間のようなキャラクターが画面でわちゃわちゃと動く戦闘画面だったのだが、最初に仲間になる魔法使いは攻撃魔法を使うと、何かの球を相手に投げつけるのだ。

 それに対して「魔法じゃないじゃん!石じゃん!」と当時、文句を言っていた丸満(ジェノ)だったが「あれ、本当に魔法だったんだな」と納得する羽目になるとは思わなかった。

 ジェノは、心の中でそっと謝罪した。そうとは知らず、罵倒して済まない。えーと、最初の魔法使いの人。

 二度目の反省をした後、改めてスキルの練習だ。素直に手のひらを上に向けて"スキルの行使"をする。今度は無事に風の球が暴発もせずに手のひらに乗った形で生み出された。


 「【自然魔法(風)】(風よ)【魔力操作】(在れ)!」


 風の球をアンダースローで投げれば、何とか訓練の的にぶつかり、風をまき散らした。今度は周りに被害が出ることもなかったし、的の隣のガラス板にはちゃんとダメージが表記された。

 チュートリアルの依頼も残すは訓練所の師範を倒すのみ……なのだが。ジェノには念願の魔法が効果を見せたというのに浮かない顔をしていた。懸念点があったのである。それは。


「……こんなしょっぱい魔法で勝てる気がしない」


 のである。

 何せ、ジェノには剛速球が放てるわけでもない。的に表示されたダメージもマイティの【スパイラルアロー】の半分程度しかない。当たるかどうかも、当たっても試験に合格できるダメージが期待できるのか。

 まして発動までに時間がかかるこんな魔法一つでは、返り討ちに合う未来しか見えない。

 しかし、マルティはそんなジェノを励ます。

 

「大丈夫だよおじいちゃん!

 ここの的に"スキル"を当て続けるだけでも、アビリティレベルを上げられるんだから!」


 マイティが言うには、スキルの効果はそのままアビリティの習熟度に大きく左右されるらしい。ジェノはまだゲームを始めたばかりのペーペーだからこんな威力なのかもしれない。

 なるほど、とジェノは沈んだ気持ちを持ち上げる。先達の言う通り、後輩はその指示に従ってみよう。

 彼女も今、打倒師範代のために弓の練習中とのことで、彼女と肩を並べてジェノも魔法の練習をするのだった。

 


 魔法の練習というより的当てでもしている気分だ。的も、風の球が当たったら両手を振り上げて「がおー」とでも言ってくれないものか。肝心の腕はないが。

 一方、目に見える結果としては、アビリティのレベルアップの恩恵がシステム的にあるおかげか、ボール投げの命中率や、的に与えるダメージが少しずつ伸びていく。

 作業感はあるが、成長している様子が判るのは楽しい。

 

「おじいちゃん、どんな感じー?」


「そうじゃなぁ……もうすぐ【自然魔法(風)】のレベルが2になるかの」


「そっか。私も【精密操作】がレベルアップしそう」


 なにより、作業感あふれる行動しかしていなくても、隣で話ができる人間がいるというのはいい。

 うーむ。楽しい。ジェノは、黙々とスキル上げの作業を繰り返す中で、何とも言いようのない充足感を味わっていた。

 

「あ、じいちゃん。キャラクターがレベル1だと、アビリティレベルは2が最大だよ」


「む、そうなのか。ありがとうな」


「へへっ、いいってことよ」


「あー、それ私が教えたかったのにー」

 

 それに、時々他のプレイヤーも相談に乗ってくれたりする。何とも、"遊んでいる"という感覚に満たされていた。

 昼飯を食べてひと休憩した後も、一心不乱に魔法の練習と相成った。

 ちなみに、コウモリウサギの串焼きは、不思議とまだ暖かかった。どうも、インベントリか、焼き串を包むジャンボ笹の葉には保温の効果があるようである。例によって、非常に苦労して串焼きを食べ終えるジェノを見て、マルティはケラケラと笑っていた。少し、気恥ずかしい。

 マルティの指示の元、ひたすらスキルの練習をしていると、気が付けば【自然魔術(風)】と【魔力操作】にLv表記がついていた。ついでに【投擲】というアビリティも生えている。

 

 【投擲】

   狙った場所に攻撃を当てることができる資質。投げられたものの威力に補正が付く。

 

 こちらもLv1の表記付きだ。レベルが付くものとつかないものの違いはなんじゃろな?困ったときはヘルプを見よう……としたら、悩んでいるジェノの姿を見かねてか、マルティがちらちらとこっちを見ている。

 ふむ。

 

「マルティちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんじゃが」


「……!はいはい!なんでしょう!」


 ジェノがマルティに尋ねると、頼られるのがうれしいのか、マルティは笑顔で答えてくれた。


「アビリティにレベルがついているものとついていないものがあるんじゃ。

 アクティブとパッシブの違いかとも思ったが、【自然魔術(風)】は最初はレベルがついていなかったし、なんなんじゃろうかと思ってな」


「あーね。まずね、アビリティはレベルアップで増えていくアビリティポイントを使って覚えるものと、同じ行動を続けていくうちに覚える二種類があるんだ。

 レベルアップで覚えるアビリティは……なんていうか、レベル0で覚える感じかな。使っていくとレベル1になるから、レベルの表記が出てくるんだ」

 

「ははぁ。なるほどのう。それで【自然魔術(風)】は最初、レベルの表示がなかったのか」

 

「もう一つが、アビリティ持っていない行動をし続けるうちに手に入るアクティブアビリティね。

 私は、これを"アビリティが生える"って言ってるんだ。

 これは、動くことで覚えるアビリティだからアクティブアビリティしかないよ。その代わり、覚えられたアビリティは必ずレベル1以上で手に入るよ」

 

「なるほど。楽して覚えるとレベルが0から、苦労して覚えるとレベルが1からになるんじゃな」

 

 【投擲】は風魔法を投げ続けた結果、生えてきたアクティブアビリティというわけだ。

 改めて大まかなアビリティの区分を説明すると、能動的に使うことができるアクティブアビリティと、持っているだけで効果を発揮するパッシブアビリティがある。

 例えばジェノが持っているものでいえば、【自然魔法(風)】は発動しないと効果を発揮しないのでアクティブアビリティに属する。 一方の【言語理解】は持っているだけで言葉や文字が理解できるのでパッシブアビリティとなるわけだ。

 パッシブアビリティは"使う"という行動をすることなく効果を発揮するので、生えることはないということだ。

 

「あ、あとLv表記がついているアビリティは、アクティブアビリティだったら"スキル"を使うときにショートカットにまとめることができるんだよ」


「なんと」


 思い出したようにマルティが付け加えた。その内容に、ジェノは目を見開いた。

 今までは、スキルの発動にアビリティウィンドウを開いて、アビリティを選択して、魔法を使っていた。

 しかし、マルティの追加説明によれば、アビリティがLv1になったおかげで、アビリティをまとめて一つのスキルアイコンにすることができるというのだ。

 このスキルアイコンは、ARウィンドウからアビリティウィンドウを開かなくても、トップメニューにアイコンとして配置ができるのだという。つまり、ARウィンドウを開いてワンタッチでスキルが発動できるのだ。

 こうして、アビリティのレベル上げの効率が上がっていくわけである。

 面白い。ジェノは、いろいろな組み合わせを試してみたいと思った。さしあたっては、今使っている【自然魔術(風)】【魔力操作】だ。ついでに、せっかくなので命中率を上げるために【投擲】もまとめてしまおう。


「……おや?」


 しかし、試しに【自然魔術(風)】【魔力操作】【投擲】をまとめて登録しようとすると<レベルが足りません>と出てきた。

続きの更新は明日の予定です。

※ナンバリングを間違えていたので修正しています。

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