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閑話. 例えばある受付嬢の場合 ~ネス=ミーファ回顧録~

本日の更新二話目になります。

一つ前と同時に更新しておりますのでご注意ください。

 かわいい。それがジェノ=ベーゼと名乗る少年への第一印象だった。

 幼い表情には不安の色はなく、中分けで前に流した前髪に隠れていない、くりくりとしたクリアな青い眼は興味と好奇心にあふれていた。

 私こと、ネス=ミーファはヨロの職員である。役職は受付嬢。悪く言えば雑用係。職員になって半年のペーペーなのである。

 書類の整理も終わり、昼休みに入ったので、使われていない一室で優雅なランチのお弁当を楽しもうとしたところ、上級応接間に人の気配がした。いくら空いていても、一般人の身の上で立ち入ることがはばかられるその場所をのぞいてみれば、いかにも新人のヨロズの風体の男の子がそこにいた。

 もっとも、彼がヨロズではないことは明白だった。()()()()

 たとえ、魔力伝達に定評のある長杖を傍らにしていたとしても、彼がヨロズであることは、ルール上あり得なかった。

 だから、てっきり彼はこっそりヨロに迷い込み、運よく応接間までたどり着いた、ヨロズにあこがれる男の子。無地の緑ローブは格好つけのため。そう確信した。

 そう思ったから、私は無警戒に部屋に入り、驚いているその子に話しかけたのだ。


「あなたどこから入ってきたの?ここは関係者以外立ち入り禁止よ?」


 私がそういうと、その子はこう言った。


「いやいや、ヨロズ登録をお願いに来たら、ここで待ってるように言われたんじゃよ」


 私はそれを一笑に付した……演技をした。動揺を誘われないように。


「あっはは、お姉さんにそんな言い訳通じないわよ」


 この子、めっちゃ声が渋い。それがジェノ=ベーゼと名乗る少年への第二印象。

 詳しく話を聞いてみれば、今日ヨロ職員が忙しい原因である異邦人の一人らしい。つまるところ、見た目と年齢が一致していない種族のようだ。何ともまぎらわしい。そして、異世界人が只者ではないことを示唆する人だろうか。

 もっとも、彼が幼く見えるのはそれだけではない。


「北の果てにある獄炎の谷には、ドラゴンが住んでるって言われてるの。もっとも、そこまでたどり着くのに星6のフルパーティ3チームで挑んだらしいんだけど」


「ほう!ほうほう!すごいのう!さぞや二つ名等も豪華だったんじゃろうなぁ!」


「そうねぇ……今でも存命なのは、辺境伯かしら。『血槍』の二つ名で、王国と帝国の戦争でも3度の窮地に陥って、率いた大隊を一人で守り抜いたと言われた豪傑よ」


「くうっ!かっこいいのう!」


「あとは西の霧の森に棲む賢者様ね。『錬金の金』『精霊の長』、二つの二つ名を持っている、錬金術と精霊魔術の雄よ。その魔術は、万軍に匹敵すると言われているわ」


「おおおおぉ!魔法最高じゃ!」


 生きる伝説と呼ばれる王国に住む英雄たちの話をすれば、見た目通りの目の輝きで反応してくれる。まるで孤児院の子供たちに絵本を読み聞かせているような。

 そんな無邪気さが、やはり見た目通りなのでは?と疑問を浮かばせる。


「でも、そんな賢者がなぜ森の中に?素材を取るのに面倒とかじゃろうか?」


 あはは。そういう理由だったら……よかったのにね。


「賢者様は、かつて生涯を誓った旦那様がいらっしゃったそうよ。でも、賢者様が獄炎の谷に向かって帰ってくるまでの間に旦那様が亡くなってしまわれたの。

賢者様の旦那様は、元々病気がちだったらしいわ。賢者様達が獄炎の谷に向かったのも、その薬の材料に、竜の唾液が必要だったからなの。

でも、パーティを半壊させて手に入れた薬も間に合わなくて……」


「なんと……」


「賢者様は、王国にいると旦那様のことを思い出してしまう、と霧の森にお姿を隠されてしまったわ。もし、王国に何かあっても、必ず助けに行く、と言い残して。

 旦那様が愛した国を守りたいけど、旦那様が愛した国だからこそ留まるのが辛いのでしょうね」


 賢者様の悲哀は、今でも王国の舞台になる逸話だ。舞台上映される理由としては、賢者様がそのお姿を隠す前に「私には、こんな素晴らしい夫が居たのだ、と残してほしい」と、王に言い残したからだと言う。

 ジェノは、先ほどまでのテンションが嘘のように、悲しそうな顔をしていた。しかし、その表情は子供特有の賢者様の寂しさ、語り手の伝える物語の悲しさに共感したものではなかった。

 それは、()()の感じる寂しさだ。経験によるものだった。

 彼自身にも、似たような境遇があるのか。明らかに、人生の酸いも甘いもかみ分けたような、そんな表情。聞いた通りの都市ならば、なんとなく想像もつく。

 見ているだけで、胸が締め付けられる切ない表情だった。

 だからこそ私は、彼が異邦人であり、見た目以上の人生経験を得てきた存在であることを確信したのである。

 ……とはいえ、そんな彼は私の膝の上にいるのだが。そして、私はそんな彼の頭を撫でているのだが。さながら、小さい子を慰めるように。


 正直に言おう。

 私が無理強いした。


 いや、正直サイズがジャストフィットしすぎてやばい。彼くらいのぬいぐるみがあればとても(ディ・モールト)よろしゅうございます(ベネ)。むしろ彼がほしい。絶対ぬくぬく寝れる。

 話を聞く限り、彼は80を超えているらしいが、全然許容範囲内だ。私のお父さんみたいに200歳を超えてないなら、たかが20歳年下なだけではないか。私が彼と同じ人間の価値観でいえば、ジェノくん――いや、ジェノさんは400を超える長老なわけではあるが。

 何にせよ、少なくとも今の見た目は私よりも幼いので何も問題がない。うん。

 もっとも、彼を膝の上に乗せるまでにはひと悶着あったのだが。英雄譚をエサにしぶしぶ了承させたくらいだ。彼の「しつこい……ひょっとして隠し依頼の条件とかなのか」という謎の独り言は、この際聞かなかったことにする。

 そうして調子に乗った私のジェノとの語らいは、唐突に入ってきたサブマスターにこの姿を見られることで、たんこぶ3個と共に終わりを告げるのであった。

 しかし、私はあきらめない。ジェノのサポートと、その他手取り足取りする権利を手に入れるのだ。うへへ。

 さしあたっては、あまりに少ない装備を整えてあげよう、と思った。

 どういうわけだか、彼の装備は、武器こそそれなりに上物だが防具があまりにも貧弱だった。この装備で、街の外に出すわけにはいかない。というか、訓練するのも危ないように感じる。

 幸い、ヨロには倉庫で眠る使われない装備がたくさんある。これらの処分の名のもとに、ジェノが立派なヨロズとしての責務を果たすための肥やしになってもらうのだ。


(ちらちらサブマスターがこちらを見るのも、私にジェノ君を任せてくれるアイコンタクトに違いない!)


評価ありがとうございます。

次の更新は明日の予定です。

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