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3. 甚だ解らぬことばかり ~ヨロズ(仮免許)~

昨夜は家に帰れませんでした…遅れてしまって申し訳ありません。

「改めまして、先ほどは失礼しました。ジェノさんの担当をさせていただきます、アダ=ニーロと申します。

 先の私の対応に不手際があった、とお考えになると存じます。あなたのような外見と年齢が一致しない種族はこちらに少ないものでして、判断がつかなかったことが原因になります。

 誠に申し訳ありませんでした。」


 粛々と書類を手に話を進めるアダ。ネスはしょんぼりとした顔でアダの背後に立っている。

 どうやらネスは、サボってこの部屋に侵入していた常習犯らしく、アダの「またですか……」という底冷えのする一言以降、この調子である。

 とはいえ一般職員であるアダが、ジェノに特例を認めるこの場に居られることは本来異例の事態でもある。これは、ネスが特別な職員であるとか破格の対応というわけではない。

 ジェノがこの場に居ることを見てしまったことで、ジェノの特例とやらについての口止めの意味を含んでいるのだが。

 ネスに対するアダの対応が、ジェノの昔の上司がよく飲み会の場で放っていた「お前この話バラしたら埋めるぞ」的な空気を感じたので、とりあえず話を円滑に進めるため、アダに謝罪を受け入れる旨を伝える。

 

「いやいや、俺が見ての通り誤解されるような見た目をしているからのう。

 ところで、先ほどの話からすると、この世界にも俺と同じような見た目の種族がいるのか?」


「はい。エルフやドワーフ、まとめて『精霊種』と呼ばれる、魔力を多く持って生まれる種族が該当しますね。皆さま、とてもお若い外見をしていて羨ましい限り……コホン。

 ただ、あいにくこの辺りに住んでいるという話は聞きませんね。王都には、いく人かの方がお住まいになっていらっしゃるそうです」


(ほう!ほうほう!

 王都の精霊種となると、前作までのキャラが生きていれば『魔法大臣』か『研究バカ』、あるいは『頑固イッテツ』あたりかの。機会があれば、見に行きたいものじゃ)


 アダの回答に、テンションが上がるジェノ。思いつく限りのNPCの名前を思い浮かべる。いずれも長命種の種族であった。ひょっとしたら、この世界にもいるかもしれない。


「ふむ、会えるものなら会ってみたいものじゃ」


 ジェノが思わずそう漏らすと、受付嬢は困ったような笑みを見せた。ジェノの思い浮かべた名前をズバリ当てたわけではないが、アダの知っている長命の存在は、いずれも高貴な地位にいる存在だ。そうそう会える地位ではないのである。

 アダは、ジェノの言葉を子供のあこがれのようなもの、と判断したのである。


「……それで、こちらが改めまして、登録用の書類になります。」


 話を遮って机の上を滑らせるように渡された書類を受け取る。その中には、簡単な記述でジェノをヨロズに登録することを認める、といった内容が記載されていた。

 後半になると、空欄の所もある。


「最初に書いてある部分については、ジェノさんが見た目に反した経験をお持ちであることを認めるものになります。主にヨロの主神であるシューター様から、特例を認める神託があった旨の証明となります」


「神託による特例!?」


 想像以上の大掛かりな改変があったことが匂わされ、ジェノは驚きに声を荒げてしまった。


(話をつつがなく進めるという配慮であろうけど、無理やりすぎやせんか!?管理チーム殿よ)


 よくよく読んでみると、確かに"神の名において"という宣誓がしてあった。

 

<神の名において、異邦人ジェノ=ベーゼを我が加護の庇護に値することを認める。

 汝ジェノベーゼよ。

 我が名シューターの誇りを傷つけぬ振る舞いをせよ。我が名シューターの意向を知らしめんとす振る舞いをせよ。さすれば我は、汝に栄光と成功を約束する。

 汝がこの世界に降り立ったことを喜ばしく思う>


 少なくとも【言語知識】のおかげかすらすらと内容が読める。難しい言い回しを避けてくれていることも要因の様だ。

 書類の内容は想像通りのようだし、既に記載してある部分についてはキャラメイクで設定したものと変わりないことを確認する。


「下のほうに空欄の部分がありますが、こちらは通常のヨロズ登録の際に登録者に書いていただく部分となります。

 文字が書けないようでした、代筆も致しますが」

 

 ふむ、とジェノは考え込み、【言語知識】が読むためだけのアビリティでないことを思い出した。

 そこで、アダに「不要な紙はないか?」と尋ねた。


「不要な紙?ですか?」


「うむ。俺の書ける文字が読めるかどうか確かめてほしいんじゃ」


 アダは「なるほど」と頷いて、手持ちの書類をひっくり返してジェノに渡す。それで良いのか、と思いつつも、ジェノはその紙の端に自分の名前を書いて、アダに返した。


「……ええ、問題ありませんね」


 書く方も及第点をもらえた。【言語知識】は簡単な読み書きが可能とは書いてあったが、ちゃんとこういう場面で力を発揮してくれたようだ。

 つまり、筆記ができるスキルを持っていなければ、ここで余計な出費が発生したわけだ。もし、キャラメイクの時点で支度金を使い切ってしまっていればどうなったのだろう。借金だろうか?

 それはともかく、ジェノが記入する部分だが、ゲーム的な話をすると、これは持っているスキルの申告と、誕生月などの背景(フレーバー)設定だ。過去のヒプノシアシリーズでも、最初の名前入力画面で設定できる項目で、何かしらストーリーにかかわる隠し要素だと邪推したものだ。

 実際には本当に設定だけで、特に何も意味がなかったらしい。これについては、プレイヤー間の噂では「イベントを入れる容量がなかったため」と噂されていた。

 一方で、ゲーム雑誌や知り合いの話で、まことしやかに様々な裏技の話をしたものだ。

 曰く、ある王族の誕生日を入れると入れなかった宝物庫に入れるようになる、だの。

 あるNPCの誕生日を入れると、敵しか使えない魔法を使えるようになる、だの。

 ガセ情報を雑誌で仕入れて赤っ恥を書いた同級生は、「絶対に許さない」と抗議の手紙を件の雑誌社に送りすぎて、手紙代で親に怒られた、なんていう話もあった。

 今回で、その真実が明らかになることだろう。そう信じたい。

 とりあえずは得意距離は遠距離、得意スキルは魔術と記載する。誕生月は『武士の期(11月)』『力の月(11日)』、守護の血は『(B型)』。

 この入力値には理由がある。処女作『ヒプノシア』の内部データで発覚した設定値なのだ。

 ヒプノシアでは何のフラグにもなっていなかったが、イベントに関連付けられていなかっただけで、「ヨロに登録する時の入力で、上記の三つを選んだ時」を条件にイベントのトリガーが起動するのだ。

 問題は、このトリガーが何のイベントの開始にも引っかかっていなかったのだとか。発見報告の時の盛り上がりは、著作権上の違法行為だとしても、誰もが待ち望んだ情報であったのだ。実際、丸満も咎めることなく情報を待ち望んでいた。

 それ故に、最後の結果が分かった時の落胆は完全にお通夜のそれであった。

 その後、ドリームランドの関わった他のゲームで、唯一特殊な能力を手に入れることができる初期設定という形で再燃したのが、この入力値に触れた最後となっていた。

 もし、何かのイベントが起きると期待するなら、この設定以外はあり得なかった。


「……はい、不備はありません。

 では、次はヨロズになった際の注意点をお話しします。これは、通常のヨロズと異なり、今回の異邦人の方々のためのルールも含みます」


 アダに確認してもらい、書類の受諾が終わった。その後の彼女の話す内容については、いくつかの実例に基づいたものであった。

 

 

 まずは通常のヨロズのルール。基本的な、ヨロがヨロズ達へ提供する依頼の種類についてだ。

 一つは定常依頼。この依頼は、ヨロや町の商店といった施設から出されている依頼だ。内容はモンスターの討伐や、薬などの素材の採取。これらは依頼をいちいち受けなくても、ヨロの窓口に持って来れば事後承諾で依頼が完了する。

 もう一つは、住人から直接依頼を受ける特別依頼だ。期日が決まっているものが多く、「失敗すると依頼受諾者の評価に大きくかかわってくるので、慎重に扱うように」と注意をもらった。

 これらの依頼を行って評価値をためることで、ランクを上げることができる。ヨロズ登録したばかりのものは、当然星1ランク。ランクが上がると星が増えていく。

 そして、異邦人は現状、このランクを上げることができないとのことだった。これは、均一の評価をするには情報が足りないということ。そしてシューター神の神託に「異邦人が長期間この世界に居座るものではない」という内容が含まれていたためだ。

 その代わり、定常依頼に関しては星2までの依頼を解禁、特別依頼に関しては(ランク)の制限を外しているらしい。もっとも、特別依頼に関しては住人達との交友関係が重視されるので、そもそも依頼を受けることは不可能だろうという判断とのこと。


「しかし、どこの世界にも騙し、陥れようとするような者は居るものじゃないかの?」


 ふと思った疑問を口にすると、アダはすこしためらったように答えた。


「……え、ええ。確かに。しかし、神の加護を受けた異邦人を騙そうとするような輩はいませんよ。もしそういう目的があって依頼を出すとしたら、もっと別の理由になるでしょう。

 その場合は、我々ヨロのスタッフが動きますのでご安心を」

 

 やはり子供と侮った部分はあったのだろう。そんな他人を邪推する意見を言われるとは思っていなかったのだ。

 ちなみにヨロ職員は、就職制限として星3以上のランクを持っている事、重鎮ともなれば星6クラスの実力がないといけないそうだ。

 実力に関して解説を受けたジェノの体感であれば、星3で物語の中堅に出てくるモンスター程度なら1対1で余裕勝ちできるレベル。星6は最終戦のスタ(スターティング)メン(メンバー)に入るくらいだった。

 そして、最後にはヨロズとしての心得。これは、普通の人としての常識を持ち、真摯に過ごすこと、という至って当然の内容であった。

 長々とした話ではあったが要点をかいつまんでいくと、ジェノには聞き逃せない部分が散見された。話の中に「ヨロズ同士のいざこざに、基本的に組織としてヨロは関わらない」という内容があったのだ。

 いざこざが発生した時点で、最低でもどちらか片方が「常識を持ち、真摯に過ごすこと」を犯している、という判断になるのだとか。ヨロが口出しするのは、全てが終わって背後関係もハッキリしてからの沙汰となるらしい。

 そして、その裁定はヨロだけが行うわけではない。第三者機関も含めての精査となるとのことだった。

 もちろん、喧嘩両成敗と同じ処分ではなく、加害者と被害者をはっきりとさせはするが、初動はどうしても理不尽な対応になってしまうことを認識しておいてほしいとのことだった。


「以上で、ヨロズ登録の際の注意を終わります。

 あなたが、この世界で良き旅ができますよう、お祈りしております」


 アダがそう言うと、アダとネスが頭を下げた。おそらく、先ほどの言葉がヨロズ登録の定例文であり、おじぎ行為自体までがテンプレートなのだろうな。


「ありがとう。こちらこそ、よろしく頼む」


 で、あれば。ジェノもまた頭を下げる。

 短い間になってしまうだろうが、この世界を堪能させてもらうために。

本日は、二話更新します。

更新二話目は閑話になります。


誕生日はフレーバーテキストです。特に意味はありません(笑)

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