表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/42

9. 二回目の生は二度目の死を伴う ~エスカペ~

本日は、個人的にキリをつけたかったので少々短いです。

 この世界が削除されるということは、エスカペも消えてしまうのだ。

 前田は、きっと再びこの世界を作り上げるだろう。しかし、果たして再構成された世界で、進藤や玲子がいたとして。新しい世界に生まれたエスカペの中身は、同じものだろうか?

 それはわからない。

 少なくとも、それを確認することは丸満にはできないだろう。だとすれば、今また、愛する者が死ぬ様を目の前で見ていることになるのか。

 その事実が、丸満の足を止めてしまったのだった。そしてエスカペは、そんな丸満の葛藤を一早く察知した。

 彼女は孫の存在を強調して、死んだ者よりも生きている者を優先しろ、と叱咤したのだ。この言葉で、丸満は再び動き出すことができた。

 だが、それでもなお丸満の中には、エスカペが消えてしまうという未練がくすぶり続けていた。


「咲森様!通信圏内に入りました!」


 不意に、前田の声がして丸満はハッとした。未だノイズが走り、映像こそ見えないものの前田と通信がつながった意味。

 それは、周囲が未だエルフの森のような光景でも、集落の安全圏内に入ったということだ。すぐに、マルティに声をかける。


「よし、出られるぞ!マルティ、ログアウトするんじゃ!」


「うん!後でね、おじいちゃん!」


 視線入力のできるマルティは、すぐさまログアウトした。光の輪がマルティを囲むと、足元からマルティの姿が掻き消える。

 ほー、ログアウトってそういう演出なのか、と他人事のように感心していた丸満も、いそいそとARアイコンを操作して設定メニューを開く。


「咲森様、お孫さんのログアウト確認できました!早く!」


 丸満がまごついている間に、前田から玲子がログアウトできた報告がやって来た。

 ホッと息をなでおろす半面、上手くスワイプでログアウトの項目が引っ張り出せないことに焦る。サーバーの安定化ができていないのか、ARウィンドウが上手く丸満の動きを認識してくれないのだ。


「よし、もうちょい待っとれ!」


 ようやくヘルプメニューが引っ張り出せた。前田に急かされるように、ログアウトの項目を選ぶ。

 と、ウィンドウが引っ込んでしまった。「ん?」と首を捻る丸満だったが、現実世界の通信ウィンドウから、前田の元は違う叫び声が届いた。


「……?ああ、違う!咲森様、[閉じる]ボタンを押してる![ログアウト]はその一つ上!」


「なにぃ!?」


「丸満さん!?」


 丸満のドジに、思わず前田が名前の方で突っ込みを入れた。


「ええい、急かすからじゃ!ちゃんとやるわい!」


 恥ずかしそうに逆切れで怒鳴る丸満。

 その瞬間、丸満の手を止める事態を引き起こした。


「うぉ!」


 燃え盛る木々が倒れ、丸満の傍に崩れ落ちる。実のところ、オブジェクトによる当たり判定は既に解除されている。アバターである丸満の体に倒れてきた大木が当たっても、すり抜けるだけでダメージも影響もなくなっている。

 しかし、迫りくる燃えた丸太、と言う視覚情報の強さが、思わず丸満を飛びのかせた。うまく飛びのいて、脇に倒れる木の方に視線をやると。

 先ほどログアウトできるようになったことで、ログアウトする行動ばかりに集中しており、ついさっきまで意識から外れていたエスカペの姿が目に入ってしまった。


「咲森様!?どうされました!?」


 一向にログアウトされない丸満に、前田が再度催促をしてきた。しかし、丸満の手はログアウトのボタンの手前から動くことがない。

 エスカペは、はやく、と口を動かすだけで催促してきた。

 その目は、少し寂しそうに見えた。


「……すまん、少し時間をくれ」


「咲森様!?丸満さ」


 ぷつり、と通信を切った。

 再度、前田からのコールが視界の端で点滅しているが、無視する。丸満は、燃え盛る丸太を挟んでエスカペと目を合わせた。


「……透」


 丸満の呼びかけに、エスカペはくすり、と笑った。


「それは、今のミドルネームよ。たまたまかは分からないけど、それは種族の名前。

 私の名前は、エスカペ。貴方の知る『咲森 透』は、あなたに見守られて、死んだのよ」


 エスカペは、そう言いながら軽く跳ねて丸満の元にやってくる。【浮遊】の影響か、おおよそ常人には不可能な高さのジャンプだったが、軽々と跳んだうえで、ふわりと着地した。

 エスカペは、愛おしそうに彼の頬に手を伸ばした。丸満はその手を取り、ぬくもりを刻み付けようと目を閉じて感触に集中する。


「……夢とは思えん。幻とも思えん」


「そうね。この世界は私にとって現実だった。でも、それは貴方にとっては違うのよ。きっと」


 悲しそうに、だが確固たる意志を持って、エスカペは丸満の未練を一刀両断する。


「行って、丸満さん。

 そして、私のお墓に手を合わせるの。

 これは、夢なのよ」


 そっと、丸満の手から抜け出すように、その頬から手を放した。


「お供えは、龍屋(たつや)のようかんでお願いね」


「おう、好きだったもんな」


 思いつく限り高価なお供えを要求して、にっこりと笑うエスカペ。そして、涙をこらえるように笑い返す丸満。

 改めて、視界の端で出したままにしておいたログアウトのボタンに、丸満は手を伸ばした。

 

「エスカペ!無事か……と」


 突然背後から声をかけられた。そのエスカペを呼ぶ声に振り返ってみれば、そこに居たのはヴォーロゥだった。その姿は煤けており、集落も火災に捕らわれていることが見て取れた。

 自分の世界の人間の不始末を見せつけられているようで、思わず顔をしかめる丸満。


「おじさま!大丈夫ですか!?」


 エスカペは心配そうな声を上げて、ヴォーロゥの元へと駆けていく。ぺたぺた、と体を触り、その煤だらけの服を掃っていく。

 どうやら、怪我自体は見当たらない。煙に巻かれたことで、煤を纏ってしまっただけの様だった。ヴォーロゥの安全を確認すると、エスカペは丸満を見て、にっこりと笑った。


「こっちは、大丈夫だから。さあ、行って」


 丸満のログアウトを促した。しかし。丸満は、彼を凝視するヴォーロゥに戸惑っていた。


「おお……おお……」


 突然、茫然と立ちすくんでいたヴォーロゥが滂沱(ぼうだ)の涙を流して跪き、両手を掲げて丸満を拝みだしたのである。


「んなっ!?」


「おじさま!?」


 ヴォーロゥの奇行に、丸満とエスカペが困惑の声を上げる。


「森の危機に帰ってきていただけたのですね!貴方様の帰還を、心待ちにしておりました!」

ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。

次回の更新は明日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ