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7. その言葉は世界を超えて ~別サーバーの彼女~

 丸満が向かったのは、トイレではなく進藤の部屋だった。


「おっす、生きとるかー?」


 そこには、ドリームキャッチャーの縁に腰かけて麦茶を飲む進藤の姿。


「はっはっは。死ぬかと思ったわ!何事じゃいこれ」


 なんでも、クーミナ・マラミの森で徘徊型のレイドボスと遭遇してしまい戦闘になっていたのだという。そして、戦闘中になぜか体が上手く動かせなくなり、あわや一撃を受ける所で強制的にログアウトさせられたのだとか。

 動きが遅くなったのは、攻撃によりラグが発生したからだろうか?と丸満は話を聞きながら思った。

 ヒプノシアに居た進藤は、当然、現実世界で起こったことの経緯を把握していなかった。

 丸満がかくかくしかじかと軽く説明してみれば、怒りをあらわにする進藤。

 

「そんなことであの世界からはじかれたのか」


 テロを行った奴らの所業がどうの、と言うよりもヒプノシアからログアウトさせられたことを怒っている進藤の様子に、「こやつ、怒るところまちがっとりゃせんか」と首をひねる丸満。しかし、彼も同類ではあったりする。

 ちなみに、進藤は強制ログアウトの後に、記憶の泉でスタッフと粘った一人であったりする。理由は、もちろん、初見のレイドボス戦が中断したためだ。

 一通り怒りを露わにした後は、躁鬱(そううつ)のように一気に意気消沈する進藤。


「はー……しかし、こりゃもうゲームできんのかー……」


 やはり、プレイが続けられないところにため息をつく進藤に、同感だと頷く丸満。

 さて、変にヒートアップしたことで目的が明後日の方向に行ってしまっていたが、丸満はようやくこの部屋に来た目的を進藤に尋ねた。


「あー。で、聞きたいことがあったんじゃった。

 エスカペには会えたかの?」


 その言葉に、進藤はがばり、と落ち込んでいた顔を上げた。


「ああ、その娘な!会ったぜ!」


「おお、そいつは重畳(ちょうじょう)。どうだった?」


「それがな……」


 もったいぶった言い方で進藤が話を区切る。その様子に、イラッとする丸満だったが、進藤は本当にもったいぶっていたわけではなかった。


「強制ログアウトのせいか、上手く思い出せんのよ。

 会えたのは間違いないんじゃけど、それが透さんだったか違ったか、でいうとわかんねぇ。

 話もしたんだけど、内容も覚えてねんじゃよ」


 あいまいな答えに、丸満はがっくりと肩を落とす。


「なんじゃそれは。使えんのう……何か覚えていることはないのか」


「あー……うーん」


「エルフの長にはあったか?ヴォーロゥという御仁じゃ」


「ああ、いたいた」


 悩める進藤に、何か記憶を呼び起こすとっかかりを与えようと、丸満は自分の記憶でエルフの集落のことを伝えてみた。

 

「その近くに娘っ子がいたじゃろ?」


「……あー、居た。気がする」


「その娘じゃ。それがエスカペじゃよ」


「おぅ……うーん、髪の色は桃色っぽい」


「そうじゃな。元気な感じで、ヴォーロゥ殿の姪っ娘じゃった。俺の時は、魔法の話をして、二階から降りてきた」


「……ああ、そうだ。うちのメンバーが魔法を覚えたい、って言って、それで呼ばれたんだ」


「おお、そういえばそうじゃったな。魔法は教えてもらえそうだったのか?」


「確か……確か、そうだ。それで、魔法を覚えるための依頼をもらった。そこで、エスカペの嬢ちゃんと話す機会があって……」


「おお、そうか!それで、何を話した!?」


 遂に確信に近づいた、と丸満が詰め寄ってみると、進藤はしばらく唸った後、バッ、と顔を上げた。

 

「――……忘れた」


 結果、がっくりと肩を落として四つん這いで落ち込む丸満であった。


「収穫はなし、か。しょうがないのう……んじゃ、またな」


 聞くことは聞いたし、もう準備ができたころか、と残念そうに部屋を出ていこうとする丸満だったが。


「ああ、そうだ。伝言あったわ。

『案内するから近くで待ってる』だったか」


 今の今まで、何も覚えていないと言っていた進藤が放ったその言葉に、丸満はぴたり、と足を止めた。


「誰からじゃ?」


 振り向かずに、進藤に尋ねる。


「誰って……誰からだっけか。あれ?」


 進藤は、口を開いたものの、伝言を頼まれた相手の名前が出てこない。さっきまで覚えていた夢の内容が、霞のように記憶から抜けていくようだ。

 自分でも不思議だ、と首を捻る進藤のその様子に、人知れず口元を緩ませる丸満。


「……ありがとよ」


「お、おう」


 丸満はそう言って進藤の部屋を出て行った。後には、首をひねる進藤の姿が残されていた。


 

 部屋に戻ると、いくばかのスタッフと前田の姿があり、丸満の使っていたDC機はいくつかの危機が接続されていた。前田は、部屋に入ってきた丸満に気が付いた。


「咲森様、こちらの準備は整いました」


「うむ。よろしく頼む」


 丸満のドリームキャッチャーは、いつものカバーが外され、DC機のコネクタに幾つも新しいケーブルが接続されていた。更には、そのいくつかがスタッフの用意した機材に接続されている。

 スタッフは忙しそうに、持ってきた機材のモニタと、DC機のランプとをせわしなく目線を走らせていた。

 いつも通りの感じでドリームキャッチャーに横になる丸満に、DC機の脇に控えた技術者が、リング状の器具を渡しながら説明する。


「これを頭に着けてください。今回は、記憶の泉を経由せずに直接飛ぶ形になります。

 まだ、こちらではお孫様の位置は確定できていません。お手数ですが、ログイン場所の近くにNPCがいるようなので、話を聞いて探してください」


「あい、わかった」


「それと、外部からの操作を受けないようにするため、今回丸満様にはGM権限を付与しております。

 強制ログアウト命令がこちらから出せませんので、ログアウトの際は丸満様が直接ボタンを押さないといけませんので、よろしくお願いいたします。」


 管理側のシステムはNPCには影響を及ぼさない。その前提仕様が足元をすくった形になったようだ。管理システムを使ってNPCに指示を出したり、操作したりができないので、運営側から連絡の取れない玲子を、運営の代わりに探すことができないのだ。

 更に、最初に被害拡大を防ぐため現実との接続を可能な限り切断してしまった。そのため、現在の現実世界からの管理範囲は、街周辺のみになってしまっている。

 そして運営側のアバターは、監視ラインを通してでしかログインできない縛りがあった。攻撃を遮断するとはいえ、ラインを切断するのに勇み足を踏んでしまった結果、マルティが取り残されても手出しができない現状ができてしまったのだった。

 丸満は、言われたとおりにリング状の機材を頭に着けて、横になった。幸い、低反発枕に接触しないような形になっていたので、いつも通りの寝心地は約束されているようだった。


「よし、行ってくる」


「ご武運を」


 前田のその言葉を最後に、丸満の意識は闇に沈んだ。

ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。

次回の更新は明日の予定です。


今更ですが、察している方も多分いらっしゃるでしょう。

現在、最終章になっております。

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