5. インターミッション ~テスト四日目終了~
お待たせしました。
「咲森さん、本日のログインは控えてくれ、と連絡がありましたので」
「はぁ。何ぞ、問題はありましたかの」
問診の際に、担当医の方からそう言った言葉が出てきた。
念のため、確認してみる。とはいえ、十中八九、昨夜のログインの際に前田から注意された内容だろう。
「いえ、身体的には問題ありません。健康そのものだ。
しかし、咲森さんのゲーム中の内容に関して、運営側からの要望で確認する項目が増えましてね。結果が出るのがどうも明日の朝になってしまいそうでして」
前もって、前田から話を聞いていたのでうろたえることはなかったが、それはそれとして丸満は悪あがきをした。
「むぅ……早めにわかったら?」
「いや、Goサインが出る結果はもう夜ですので」
ちょっと粘ってみたが、ダメの様だった。やはり今日も待機組になってしまったようだ。
とぼとぼと問診室から出て、待合室の椅子にどっか、と座り込む。
「どうしたよ?なんか元気ないな」
待機組とログイン組で入れ違いの状態になっている進藤が、再び丸満を揶揄おうと近づいて、彼の様子がおかしいことに気付いた。ログインできないことが残念、というわけではないようだと当たりをつけたのである。
進藤にとって、丸満がゲームのこととプライベートのことで、落ち込み方が違うことを知っているのだ。今回は後者だと判断した。その機微ができる事が、進藤が丸満の悪友である理由である。
特に口止めもされていないので、丸満はエスカペのことを進藤に話した。当然だが、進藤も驚いて目を剥いた。
「マジか。透さんが……?」
「ああ。本人みたいだった。年甲斐もなくはしゃいじまったよ」
「そりゃあ……また怒られただけじゃねぇの」
「まぁな……って、おい!」
ノリツッコミで丸満が返すと、進藤は「やっと元気出したか」と笑いながら言った。おおよそ信じがたいことではあるのに、すんなりと事実であるように答えてくれることが、丸満にはうれしかった。
ふと、進藤がひらめいたように膝を叩く。
「ほんなら、今日は俺が確認してきてやるよ。
つまり、透さんのことを知ってるやつがいたら、そのエウロペって嬢ちゃんに透さんの記憶が出てくるかもしれないんだろ?」
ナイスアイデア!と進藤が歯を見せて提案するが、返す丸満は呆れ顔だ。
「お前、サーバー違うじゃろ」
「そうだけど、そうじゃねぇよ。それで、エスカペって嬢ちゃんに透さんの記憶がなかったら、諦めもつくだろ?たまたま、ゲームの仕様でお前の記憶が紛れ込んだだけだって」
どういうことだ?と丸満が理解に乏しい顔を見せる。その様子に、進藤は腕を組んで自分の考えを話した。
「そこで、俺がエスカペ嬢ちゃんに会いに行って、透さんの話を聞いてみるわけだ。その時に、俺の知らない知識を持ってる透さん……そうだな、お前さんとの"のろけ"でも聞かせてもらえばマジ物、そうじゃなかったらβテストの不具合ってことにならねえか。
話によると、多分バグなんだろ?なんのこっちゃ、って顔されて終わりだろうけどな」
なるほど、と頷きそうになって首をひねる丸満。のろけ話が話せれば本人?そんな確認方法でいいのだろうか。
「あー……そうなる……のか?」
「そういうこったよ。まぁ、俺が透さんと会うのを指咥えて見てな」
「てめぇ!そういう腹積もりか!?」
進藤の口ぶりに、席を立って怒りを示す丸満。ちなみに、進藤は透の従弟である。それでいて、かつては丸満と透の意中の相手として争った仲だったりする。
しばらく、やいのやいのとじゃれあってすぐに、年寄りの体力らしく二人で息を切らせてみっともない争いは幕を閉じた。
「しかし、ネージャッカの南じゃぞ。距離的に一日で行けるのか?
お前、今どこだ?」
「クラマターキーだからネージャッカの北だな」
それを聞いて、ため息をついて計画の穴を突く丸満。
「真逆じゃあないか。それにクーミナ・マラミは、ネージャッカから半日はかかるぞい?
それじゃあ、早くても二日はかかる。いつものパターンだと、明後日はお前ログインできないじゃろ」
しかし、進藤は「へっへっへ」と気持ち悪い笑みを浮かべた。
「実は、ダンジョンに潜ったんだが」
聞き捨てならない単語が出てきた。
「ダンジョン!?そういうのもあるのか」
「おう、依頼受けたとかじゃなくて偶然見つけちまってよ。見つけちまったから、つい味見したわけよ。
そこで、【転移】の魔法スクロールを手に入れたのよ」
「ほう!ほうほう!」
夢のある話に目を輝かせる。
【転移】はアビリティでは取得できない能力だ。ヒプノシアの過去作シリーズにおいても、イベントで定められたアイテム以外に使おうとするならば、裏技じみた手段が必要な物であった。
いわずもがな効果は、「離れた場所にあるワープポイントに、一瞬で移動する」というものだ。そこでふと、首をひねる丸満。
「……しかし、どこでも行ける、ってわけではないじゃろ?流石に」
「ああ。一度行ったことがある場所にしか行けないらしい」
「お前のパーティにクーミナ・マラミに行ったことがあるメンバーがいるのか?」
「いないなぁ」
「だめじゃないか」
今回の制約は訪問済みの場所でなければ、対象に選べないことだった。ちなみに過去作においては、決まった街の行き来しかできない、というイベント専用アイテムであった。
それに、転移にはワープポイントが設置されていることが条件のはずだ。クーミナ・マラミにワープポイントのようなものはなかったはず、と丸満が訪ねてみると、どうやら使うことで目的の街の入り口に移動する、と言うのが今作の効果らしい。
一から十まで計画が破綻している、と首を振る丸満だったが、進藤は、どや顔のまま話を続けた。
「ところがどっこい。クーミナ・マラミを知ってるNPC捕まえりゃ、一発で飛べる、ってわけだ」
この発想には驚いた。
ヒプノシア・オンラインのNPCは非常に柔軟性が高い。とはいえ、持っているアイテムを使わせる、ということができるとは、発想が思いつかなかった。
しかし、そんなことができた現場を見たことのない丸満にとっては半信半疑の裏技だ。本当に可能なのかと問えば、進藤は可能である、と答えた。
進藤のパーティは既に、この件について他のアイテム問題なく効果が出ることも確認していたということだった。
しかし、どっちにしろその【転移】アイテムを使うという根本的な部分には変わりがない。
実現可能な内容だと理解するにあたって、しかし丸満は進藤の計画を渋った。
「いや、しかし。それじゃ悪いわい。レアアイテムじゃないのか?
それに、お前パーティメンバーもいるじゃろ。俺の都合に合わせてもらうわけにもいかんて」
そう言って遠慮する丸満だったが、進藤は変わらず話を続ける。
というのも、透の件に関しては、完全に丸満の未練であり、私事である。進藤を透に近づけさせたくない、と言う感情も無きにしも非ずではあるが、何より自分のわがままに進藤のみならず他の面子も巻き込んでしまうのが申し訳なかったのだ。
丸満としては、ゲームを遊ぶプレイヤーは、好きにプレイしてほしかった。自分であれば迷惑だと考えることを、他の人に強要はしたくなかったのだ。
しかし、進藤も譲らない。
「攻略メインで動いているわけでもねえし、メンバーも分かってくれるさ。それに、魔法だって覚えれるかもしれないんだろ?うちの弓職が、お前が魔法使える事羨ましがってたからな。
釣り出す口実にはちょうどいいぜ」
もはや、そこまで言われてしまえば、是非もない。
「頼む」
丸満はそう頭を下げた。それを見た進藤は、「これもテストの一環だぜ」と親指を立てるのだった。
その日の夜。やはり『ログイン不可』の文字が赤く輝く電光板にため息をついて、ドリームキャッチャーに滑り込む丸満。
眠れない頭で考えるのは、やはりヒプノシア・オンラインのことであり、エスカペのことであった。もし、エスカペが本当に丸満の妻であったとしたら。
丸満は、そう夢想して虚空を見上げる。
(実際に死んだ人と会えたら、それはそれで大問題じゃよなぁ……)
一昨日の健康器具とはレベルが違う一大発見だ。このまま、霊界だの地獄だのと繋がるんじゃないぞ、と人知れずビクビクしてしまう。信心こそないものの、丸満はお化けはいる、と信じているタイプの人間である。
それはともかく、何もしていないと取り止めのない未練ばかりが生まれては零れ落ちるのを感じる。
気になるのはエスカペのことだけではない。クローズドβテストは一週間の日程だが、最終日の夜は解散と懇親会であり、実質今日はセミファイナルだ。この貴重な日に、ログインができないのは非常に残念であった。
せめて、明日はログインできて合ってほしいと願いを込めながら、丸満はゆっくり瞼を閉じた。ドリームキャッチャーは、変わらずログイン不可の状態で静かな駆動音を立て、丸満を眠りの世界へと誘う。
やがて、静かな寝息が部屋の中に聞こえてきた頃、丸満の横たわるドリームキャッチャーのログに、追加が刻まれた。
<route -a HO_Server
check...... not found to access.
...... serach ...... serach ......
found to access.>
ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。
次回の更新は明日の予定です。




