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2. 真摯に徹すれば相手もまた紳士 ~謝罪~

 しばらく森の中を進んでいると、不意にジェノがマルティの行く手に腕を伸ばして足を止めさせた。


「どうしたの?おじいちゃん」


 不思議そうな顔で尋ねるマルティ。

 実は、ジェノはアビリティのレベルアップも兼ねて、【気配探索】を使いながら進んでいたのだ。そして今、その効果範囲内に何者かの反応を察知したのであった。

 気配探索では、何かしらが居る事はわかっても、それが何なのかが判らないのが困りものである。ひょっとすればモンスターかもしれないが、この道中に襲われたこともなく、またジェノたちが足を止めたことで謎の反応も動きを止めた。

 明らかに監視されている。であれば、何者かは自明の理である。


「おそらく、もうすぐエルフの村に着く。心配なら少しここで休憩するが、どうする?」


 ジェノがそう言うと、マルティは少しこわばった、それでも普段とあまり変わらない笑顔を見せて、「大丈夫」と親指を立てた。

 少しは吹っ切れている様子である。ジェノはそう判断すると、先へと足を進ませた。

 木々の隙間を縫うような獣道を抜けると、そこには見上げんばかりの丸太の壁がそびえたっていた。森を抜けてきたジェノたちの真正面には門のようなものがあり、その両隣に金の長髪をオールバックに流している男性が二人、簡易的な槍を持って立っている。彼らの耳は、ジェノたちのそれらに比べて随分と長かった。

 ジェノは、知らず緊張していた肩をほぐし、深呼吸を一つすると、門番に近寄った。


「止まれ。何用だ」


 ある程度近づくと、森に紛れ込んでたどり着いたのではなく、目的をもってやって来たのだと判断したのだろう、門番が声をかけてきた。

 ジェノは、マルティに渡してもらったエルフの斧を、インベントリから取り出して門番に見せる。


「これを納めに来た。申し訳ないが、統治者の方と話がしたい」


 門番はジェノの見せた斧を見て、ハッと息を飲むのだった。


 

 すぐさま、門番は何者かを連れてきた。


「ヴォーロゥ様。彼らです」


 ヴォーロゥと呼ばれたエルフは門番らよりも皺が濃く、年季の入った姿をした早老の男性のエルフであった。金の髪は同じくオールバックに流しているが、そこには何本かの銀の筋が見える。


(……うん?)


 不思議なことに、マルティを見た後ジェノを見たヴォーロゥは、ジェノから視線を外さない。それは、手元のエルフの斧のせいではないようだ。彼は、ジェノの顔を見て固まっているように見える。

 一方、ヴォーロゥを連れてきた門番は緊張の面持ちをしていて、ヴォーロゥの変化に気付いていないようだった。

 ヴォーロゥの表情は、一見穏やかな表情だ。落ち着いているようにも見えるが、その感情の読めなさに、ジェノは得体のしれない緊張感を持った。

 ジェノは、このままでは話が始まらないと感じた。またヴォーロゥのことを、村の長かそれに連なる者だと判断し、自分から口を開いた。


「俺はジェノ。こちらはマルティ。まずは顔通しさせていただいたことを感謝したい」


 ジェノたちの自己紹介に、ヴォーロゥは相貌を崩した。


「初めまして。私はヴォーロゥ。この村の管理をしております。

 何でも、ロチネの持っていた斧を持ってきたと聞いておりますが、それがどういうことなのか教えていただけますか?」


 彼の口調に咎める色は一切見えない。あくまで事実を元に考察できる御仁だと認識する。

 ジェノは一つ頷くと、斧を手に入れた経緯を説明した。

 その間、マルティは口を開かず沈痛な面持ちで傍に控えるのみだった。経緯をジェノが手動で話すことについては、前もって話していた。説明しているうちに感情が高ぶってしまいそうだったので、説明はジェノに任せることになっていたのだ。


「同郷の者が愚かなことをしてしまったことを詫びさせてほしい。本当に済まなかった。」


「ごめんなさい!」


 最後にジェノが頭を下げると、やはり話を聞いているうちにこみあげるものがあったのだろう。声を上げて頭を下げるマルティ。

 今まで黙っていた少女が、大きな声で謝ってきたので、門番らはひるんだように驚いた。ヴォーロゥは、そんな二人を優しく見守る。


「頭を上げてください。あなたたちが、ロチネを傷つけた者たちと同じような者とは思えません。

 それに、わざわざロチネの斧を持ってきて、彼女の話をしてくれた。その義理立てに感謝いたします」


 ヴォーロゥはそう言って、頭を下げた。その腰の低さに、どうしたことか、とジェノたちは慌てる。


「少し、込み入った話もあります。村の中にお入りください」


 彼は顔を上げてはそう言って、ジェノたち集落の中に促した。二人は、招待を快く受けることにするのだった。

 ふと、ジェノはマルティと共に村に入ろうとした時に、あることを思い出して門番に声をかけた。


「あいや、済まぬ。ここに来る途中、斧の持ち主と思われるエルフの亡骸を見つけたので、勝手ながら俺の故郷の形で簡単な埋葬をした。

 エルフの風習に合っているかわからんが、土葬で問題ないか?」


 ジェノの言葉に、門番の男はくしゃり、と顔を歪めた。


「そうか……ありがとう。我々エルフは、樹に生まれ、樹に帰る。土の中に埋めてもらったのなら、何も言うことはない」


 門番は、ジェノにそう、感謝を告げた。

 


 ヴォーロゥの案内に任せるまま、村の奥の館にたどり着いたジェノ達は、館のリビングのようなところに通された。


「すみませんが、持ってくるものがあります。少々お待ちくださいね」


 ヴォーロゥはそういうと、扉の一つの向こうに姿を消した。

 ジェノは、待たされる間に依頼の確認をしてみた。

 

 【エルフの里へ謝罪行脚】

   報酬:(成功・失敗に関わらず、結果により変化)

   エルフの行商人が害されたことで、エルフとの交流が途絶えてしまった。

   エルフの里へ事情を説明に行こう。

     エルフの森へ到達 [達成]

     エルフへの謝罪 [達成]

     エルフからの許しを得る [達成]

   エルフに許しをもらった。依頼の報告で報酬がもらえます。 [new!]

 

 どうやら、依頼自体は完了したようだ。あの門の前のやり取りだけで話が終わってしまったので、マルティと二人して安堵の息を吐くことになった。


「はー。依頼終わってる。これって、許してもらってことでいいのかな」


「おそらくそうじゃろうな」


「そっかー……許してもらえたんだ。解ってもらえる人で良かったね」


 マルティは、ようやく安堵の笑みを浮かべた。確かに、どうやらつつがなく問題が終わってくれたようだったので、その点はジェノも安心した。


「お待たせしました」


 やがて、ヴォーロゥがその手に何かの紙を丸めたスクロール持って現れた。


「ロチネの話について、詳しく聞きたいのもありますので、今夜はここに泊って行ってください」


「む、良いのですか」


「ええ。それと、これをクーミナ・マラミのヨロに持って行ってください」


 ヴォーロゥが渡してくれたスクロールは封がしてあり、中が読めないようになっていた。こういうアイテムなのだろう、と判断し、ジェノは書類を受け取る。


「これは、ロチネが居なくなったことで途絶えた我々との進展について書いてあるものです。これを持って行ってもらえれば、我々はまた、あなたたちを受け入れる事でしょう」


「承知しました。確かに」


 一言断りを入れてインベントリに入れて、アイテムの名前を確認する。

 

 【ヴォーロゥの書類】

   エルフの村の長がしたためた書類。今後のエルフとの共存する方針についての記載がある。

 

 いわゆるクエストアイテムだろう。これをヨロに提出することで報酬がもらえる。恩赦の証を手にしたことで、その実感がわいてくる。ようやく、一つ重い荷物が取れた気分だ。

 達成感に浸る二人に、ヴォーロゥが口を開いた。

 

「さて、もう一つ私が聞きたい話がありまして、ここにお連れさせてもらいました」


 ヴォーロゥが口を開いたことで、再びマルティの背筋が伸びる。そんな彼女の様子を見て、ヴォーロゥは苦笑を浮かべた。


「そう固くならないでください。私が聞きたいのは、なぜあなた方がここにやってきたか、ということです」


「なんで……って、それは、謝ることと、斧を持ってくるために」


 言っていることが理解できず、マルティは首をひねりながら答えた。


「ああ、いえ。言い方が悪かったですね。

 まず、今回の事件はあなた方に非があるわけではなく、一部の愚か者の行った事故だ。それは、理解しています。おそらく、ヨロでもそう言った処分がされている事でしょう」


 まずは、ヴォーロゥが事件に対する感想を告げた。言葉を切り、ジェノとマルティにその意図が伝わっているかを表情から判断し、言葉を続ける。


「しかし、それが我々に伝わるかは未知数の筈です。ともすれば、謂れのない中傷や、理不尽な敵対行動をとるかもしれない。ましてあなた方は異邦人だ。この世界の人間とかかわりなく生きてきたはずだ。

 それがわかっていて、何故、この村へ来ようと思ったのですか?」


 ジェノは、ヴォーロゥの聞きたいことに合点がいったようだった。つまり、危険を顧みないで、結果のわからない依頼を受けた理由が知りたいということだ。ともすれば、石でも投げつけられると思わなかったのか、と。


「……ご心配は、確かに。しかし、それも受け入れるつもりでおりました。

 親しい者が傷つけられれば怒って当然。替え難い者が害されれば怒って当然。それを、自分たちは関係ないから、と見過ごすことも可能だったでしょう。

 しかし、俺はそれはできない」


「それは、どうして?」


 心底不思議そうに尋ねるヴォーロゥに、ジェノはにっか、と笑みを浮かべた。


「……俺は、この世界がすっかり気に入ってしまいましてな。そんな、気分が悪いことは見過ごせんのですよ」


 正直にジェノが言うと、マルティははにかむ様な笑顔で同意した。

 ヴォーロゥはというと、一瞬呆気にとられた表情を見せるものの、ジェノが嘘やごまかしで言っているわけではないことを察して、再び苦笑を顔に浮かべるのだった。

 空気が軽くなったことを感じて、ジェノはもう一つの打算も口にした。


「それに、エルフの方々ともお会いしたかったというのもありましてな。これ幸いと飛びついた依頼でもありました。

 俺は魔法使いなんですが我流なもので。エルフの使う魔法にも興味がありまして、どうにか師事したいと考えておりました」


 これにはヴォーロゥも破顔した。


「ははは、なるほどそうでしたか。異邦人の方で魔法を使われるのは確かに珍しい。

 いいでしょう。私の姪を使ってください」

 

 ヴォーロゥはそう言うと、手を叩いて声を上げた。


「エスカペ!こちらへ!」


「はーい!」


 階段を下りる軽快な足音がして、誰かが近づいてくるのがわかった。待っている間に、ヴォーロゥが一言注意と提案をした。


「我々の魔法は、魔法の祖であるルナフルム=カールーボ様の理論を元にしておりますので、異邦人の方とは違うかもしれませんがな。

 何か手ほどきができそうであれば、勉強中の者の復習にも手伝ってもらえればと思います」


「おお、十分ですじゃ。ありがとうございます」


 ジェノが受け入れたところで、扉を開いて一人の少女がやってきた。おかっぱのピンクの髪の毛がに合った少女だ。年のころは、ジェノよりも少し上という見た目をしている。


「おじさま、何か御用?」


「ああ。こちらは異邦人の方で、魔法の手ほどきを受けたいそうだ。貴方が教えてあげなさい」


「解ったわ」


 彼女はそう言うと、くるりとジェノたちの方を向いた。


「初めまして、異邦人の方々。私はエスカペ――」


 彼女は、そこで言葉を止めた。


「……?エスカペ?」


 口を止め、呆けた顔を見せるエスカペに、訝しげな声を投げかけるヴォーロゥ。しかし。


「おじいちゃん?」


 一方、同じ表情のジェノに、マルティもまた疑問の声を上げるのだった。

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次回の更新は明日の予定です。

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