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0. 嗚呼、遥かなる新天地よ ~残念~

久しぶりのあの人が登場。

 今回もさわやかに目覚めることができた。丸満は、ドリームキャッチャーから抜け出すと、大きく伸びをしてコリをほぐす。


「……ん?」


 不思議と腕が水平以上まで上がった。体の調子もすこぶる良い。


「……これも、ヒプノシア・オンラインの影響かね?」


 ゲームができて、体の調子が良くなるとはなんという副次効果だろうか。これは今日の健康診断も無事に終わることが期待できるだろう。


 

「だめです」


「えっ」


 ドクターストップがかかった。丸満は、予想外の事態に呆然するしかない。


「血圧も心拍数も昨日よりいい傾向です。筋肉も落ちていないし、脳波も正常です」


「なら、よいのでは?」


「いえ、どれかが微量によくなっている程度なら誤差の認識にできるのですが。

 咲森さんの場合は全体的に体調の改善が目に見える。このままでは、日常生活に影響が出るようになってしまうと考えられます。

 ですので、これが瞬間的な物か、計測ミスか、実際に体に影響があったのかを調べる必要があります」


 しかし、良くなっているのに貴重な一日をつぶされるという事実に納得がいかない。


「……そこをなんとか」


「だめです」


 しかし担当の医者は、そう言って丸満の懇願をぶった切り続けた。

 とぼとぼと面談室から出てきた丸満は、待合室でにやにやと笑みを浮かべている進藤と遭遇した。


「なんだ、今度はお前が止められてんのか」


「そういうお前は許可されたのか」


 売り言葉に買い言葉で返すと、進藤は丸満にドクターストップがかかったことを確信して、指をさしてこう言った。


「ぷげら」


「こいつ!」


 しばらく見苦しい争いがあった後、看護師にこってり怒られた結末だけを伝えておこう。


 

 かくして経過観察になった丸満は、のんびりとお茶を飲みながら一人で談話室のテレビを見ていた。ちなみに進藤は喧嘩別れの後、今日のスケジュールをパーティメンバーと打ち合わせに向かった。羨ましくは……ある。

 ふと、談話室の棚に用意された新聞に目が行った。


(そういえば。世間から隔絶された施設なのよなぁ、ここ。ニュースとか何やっとるんじゃろ)


 適当に新聞を手に取って、ばさり、と開いて中身を見る。気になる記事はいくつかあれど、どの新聞もヒプノシア・オンラインの記事――ではなくドリームキャッチャーの危険性を訴える内容が必ず入っていた。


「うーん、検閲しろとまではいわないが、こうやって不安を煽るものをこの施設に置いとくのはどうなんじゃ?」


 否定一色の記事ばかりで辟易していたところ、そんな愚痴が漏れてしまう。


「記事は記事、使ってみれば素晴らしいものだというのは、ユーザーが一番分かっておられるでしょう?」


 誰ともなく言った言葉だったので、返事があるとは思わなかった。開いていた新聞を下してみると、机の真向かいに白衣の男が座っていた。


「……おお、前田君じゃないか」


「ははは、前田です。改めまして、どうも」


 フレンドリーに話しかける丸満に、照れくさそうに頭をかいて答える前田。彼は、丸満のバグキャラに対応担当になった男である。


「体の具合はいかがですか」


「医者に止められるくらいにはすこぶる良いよ。これもアバターが現実より若い影響なのかのう」


 つまるところ、このままテストが続けられるのか?という不安である。クローズドβテストのキャラクターデータは、実際のリリース時に使用できない。だとしても、このままテストが終わってしまうのは、丸満にとって不完全燃焼であった。

 もっと、あの世界を堪能したいと思ってしまうのだ。


「それは、これからの結果次第になります。

 ……実を言うとですね。僕自身は、咲森さんにテストを続けてほしいと思っています」


 こそり、と前田が答えた。


「ほう……?その心は?」


 特に意味はないが、まるで悪だくみをするように、丸満も声を抑えて問い返す。その丸満に苦笑しながらも、前田も合わせるようにぼそぼそと、しかし周りを気にしないような声量で答える。


「もともとは、アバターの肉体年齢を変える機能についてはテスト予定でした。若い人は早く大人になりたい、年を取った人は、もっと若くなりたいと期待するのは想定内ですから」


「しかし、その機能は見送られたから、か」


 サポートデスク的な役職かと思ったら、企画か開発か、もっと深いところの人間だったようだ。


「はい。主な原因は、ドリームキャッチャーに対する世論が予想できたからです。夢の中をつなげる……わからない人にとっては、まるで脳をいじられてるように聞こえるからでしょう」


「む、違うのか」


 何を隠そう、丸満も脳に電流と流している機械だと思っていた口である。誤解は当然、と笑いながら前田は続けた。


「そんな技術でヒプノシア・オンラインは作れませんよ。むしろ、そんな物理的な手段で脳を繋げるなんて、どうやって接続するか知りたいですね。

 ドリームキャッチャーはその名の通り"キャッチする側"なんです。……すこし専門的な話になってしまいますが、いいですか?」


 興味津々といった表情の丸満に、前田は一言断りを入れた。


「どんと来い、と言いたいところじゃが、いいのか?そんな話して」


「構いませんよ。理論だけなら既に発表済みですいし。

『集合的無意識クラウド』サーバーを実現する技術さえ秘匿してしまえば、そう容易には再現はできないでしょうしね」


 事もなさげに前田はそう言い放った。問題がないのであれば、遠慮する必要はない。丸満は続きを促した。


「では。少しファンタジーな物言いになってしまいますが、人は"夢の世界"に向かう時に、微弱な電波を発します。その微弱な電波を、"夢の世界"にアクセスを試みている通信を開始していると仮定します。

 ドリームキャッチャーは、この電波をキャッチ、解析し、"アクセス先"を探します」


「アクセス先を、探す……?もしやそれが」


「ええ。そのアクセス先が、ドリームキャッチャーの基礎的理論『集合的無意識クラウド』論で提唱されているクラウドデータサーバーというわけです。このアクセス先をこちらで構築したクラウド空間、つまりヒプノシア・オンラインにするのが、ドリームキャッチャーのハード側の機能なのです。

 だから、そもそも人体に影響が出るわけはないんですよね。体の中をいじっているわけではないので。

 もし影響が出るとしたら、行くときよりも戻ってきた時、つまりログアウト時の内面……感覚の方だと僕は考えています」


「感覚か……とすると、俺の体調がいいと思っているのも」


「ええ。ヒプノシア・オンラインで若い体を動かしている弊害……体はそのままだけど、感覚で若いままのものを引きずっている可能性がありますね」


 それは危険だ。少なくとも、丸満がヒプノシア・オンラインの感覚でコウモリウサギと戦えば、ゲーム内ならともかく、リアルの体は10秒と持たずにぎっくり腰になるだろう。


「身体的に問題がないのは既にデータが出ているので、体調が良いのは精神性のものではなく実質的に快眠を得た結果、程度に医療版には説得が可能でしょう。

 そういうわけですので、申し訳ありませんが検査結果が出るまではおとなしくお願いしますね。せっかく、人体に無害であるというデータが出そうなんですから。

 おそらく、明日にはログインできますよ」


 前田は、前田の科学者側の立場で、下心満載の言葉を使って丸満をなだめているわけである。丸満が、今日のドクターストップに不満を持っているのは想像に難くなかったのだろう。


「ははあ。それはしょうがないのう。後は天に祈るだけじゃな。

 ……時に、本当に体が若返っていたらどうなるんじゃ?」


「それは健康になっているのだからいいんじゃないですかね。ドリームキャッチャーを美容グッズとしても出しますか」


 前田の冗談に、丸満は盛大に笑って返すのだった。


 

 昼飯の時間になり、前田を同伴に誘ってみたが、前田は会議の予定があるということで辞退してしまった。なんでも、ヒプノシア・オンラインでの迷惑行為を行うプレイヤーの対応について、ということらしい。

「いくら調査しても規制しても、いくらでも出てくるのが辛い所だ」と、前田は力なく笑った。

 その顔を見て、苦労しているのだなぁ、と胸が痛くなる錯覚を覚えた丸満は、栄養ドリンクを購買でおごってあげるのだった。

 今日の昼飯はざる蕎麦だ。薬味もそろっているが、丸満はそもそも薬味を使わない派なので、蕎麦つゆだけでいただく。


「……ほう!?ほうほう!」


 ふと目を向けた新聞の束に、一部気になるものがあった。その名も『日刊ヒプノシア』。

 単にゲーム内の情報をリアルでも得られるようなものなのだろうが、新聞という体で置いてあるとは思わなかった。

 何人かの異邦人がヨロズを除名になったこと、ネージャッカの住人が旧墓地へお参りに行くようになったことが目についた。


「おお、俺たちのやったことが記事になっている」


 他にも身に覚えのない内容が多々あるが、これは他のプレイヤーが終えた依頼によるものだろう。ひょっとしたら、旧墓地の話も丸満とは別のプレイヤーがクリアした依頼なのかもしれない。しかし、自分がやった依頼の結果のようなものが、こうして新聞に載っているということが、たまらなく気恥ずかしく、そして誇らしかった。


「……ん?ということは、まだやってない依頼のヒントがここにあるのか」


 その事実に気付くと、新聞に改めて向き直る。


「王都で怪盗……?まだ王都へ向かうことはないだろうからパス。傭兵団のメンバー募集、ヨロズ除名者でも歓迎……ここが受け皿か。ちょっと気にしておくとしようか。

 エルフの行商人、到着遅れる……エルフ!?」


 気になる記事をさっそく発見した。

 なんでも、ネージャッカの街に定期的にやってくるエルフが予定から二日ほど過ぎても到着しないということ。エルフの集落は、ネージャッカの南の方にある大森林の中にあるらしい。

 最寄りの村までは、乗合馬車でおおよそ一日。それからエルフの案内があれば森の中でエルフの集落に訪問することができる。しかし、エルフの案内がなければいつまでも森の中で迷う羽目になるのだとか。


「エルフか……ファンタジーの王道じゃのう!気になる!」


 次の目的地に目星をつけたところで、今日はログインできなかったことを思い出す。盛り上がったテンションもダダ下がりだ。


「ぬぅ……早く明日にならんもんかの」


 いざログインできる時は言わないであろう台詞すら口からこぼれる始末だ。

 ふと、適当な虚空を向く。具体的にどの方向にあるのかは知らない、成年組の棟へと思いを馳せる。


「マルティ達と差が開いてしまうのう……。あ奴らは、どうしているじゃろうか」


 攻略を優先するわけではないが、やはり一緒に遊ぶメンバーとは能力の差が大きくなるのは好ましくない。この一日で、彼らがネージャッカの街を離れてしまうようであれば、再び偶然出会うという確率は下がってしまうことだろう。

 しかしそれも仕方ない。出会いあれば別れあり。それも旅の醍醐味なのだ、と丸満は残りの蕎麦を片付けに入った。

 

ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。

次の更新は明日の予定です。


三日目は冒険しないので短い章になります。

そう都合よくバグキャラの動作が上手くいくものですか。7番目のアイテムにセレクトボタンを押しても、その内フリーズして進行不能になるのですよ(意味不明

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