9. さらば友よ、また会おう ~早い再会、早い別れ~
テスト二日目最後です。
騎士団に連れられ、ジェノは無事ネージャッカの街へと帰ってきた。傷は、騎士団から回復薬をもらって治すことができている。
「おじいちゃん!」
騎士団の詰所から出てくると、そこにはマルティとジャックが待っていた。マルティは、ジェノを見つけると、声を荒げて駆け寄ってきた。
「おう、おう。心配させてすまんかったな。ようやっと帰ってこれたぞ」
「本当だよ!どれだけ心配したか!」
マルティの目は、少し潤んでいた。その涙に、ジェノは申し訳ないような感情を抱く。
一方のジャックは、ジェノの姿を見て駆け寄ってきたものの、ある程度近づくと足が鈍り、遂にはマルティの後ろからとぼとぼと歩いてきた。
「じいちゃん、マルティ、ごめんな……」
そして、申し訳なさそうにそう言った。無事、同級生らの襲撃を退けることができたことはうれしかった。しかし、それよりも自分のトラブルに二人を巻き込んでしまったことを後悔しているのだ。
しかし、ジェノはそんなジャックの気持ちを知ってか知らずか、にか、と笑うと。
「ジャック。ようやったぞ。鍛えた成果が出ていたじゃあないか!
お前さんは、もう強い。自信持って、ええぞ」
その言葉に、マルティの優しい笑顔に、ジャックは我慢していた涙腺を緩ませた。
騎士団の取り調べでは、ジェノよりもジャックの同級生のほうが拘束が長いようで、ジェノは一足お先に解放されていた。と、いうのもジャックの同級生は「たかがNPC」と侮った部分が強く、その点を騎士団に悪印象に受け取られていたのである。
もちろん、ジャックに対する行為や感情も馬鹿正直に訴えたため、なおさら取り調べが長引いていた。
一方のジェノは、騎士団の実物に会えたことからテンションは天元突破し、その点で困惑させてはいた。しかし、見た目から騎士団のファンの子供にしか見えず、騎士団の対応も、どちらかというと迷子の案内の対応のような様相を呈していたのは、ジェノの預かり知らぬところだ。
かくして、ジェノは無罪放免、ジャックの同級生組は余罪追及と相成っている。既に死に戻りした同級生組は復活ポイントで拘束され、騎士団の詰め所に放り込まれている。
既にログイン限界まで2時間を切っている現状、とりあえずジェノら三人はヨロ館へと依頼の完了報告へと向かった。
今日の担当もアダであった。
「お疲れさま、ジェノくん。依頼の完了を確認しました。報酬はカードとインベントリを確認してください」
無事完了報告を終え、報酬の振り込みを確認する。装備も(貸出)の追記が抜けて譲渡完了していることを確認した。
マルティは別口の受付で完了報告をしている。
「ところでジェノくん。治安騎士団から連絡をもらっているんだけど」
ホイきた。ジェノは、騎士団の方から「ヨロの方にも連絡が行っている」と聞いていたので、必ず聞かれるだろうな、と予想していた。ありのままに事の顛末を報告する。
すると、聞き終えたアダは大きなため息を吐いた。
「ごめんなさい、ジェノくん。今回の事件だけども、元はと言えばこちらの監督不行き届きね」
「ん?どういうことじゃ?」
せいぜい報告くらいで終わると思っていたところ、雲行きが怪しくなってきた。アダの言葉に思わず聞き返すジェノ。
「まず、異邦人は全員がヨロズとして登録されるのだけど、問題を起こせば除名処分になる、ということは話していたわね」
「うむ」
「ただ、事前説明の際に問題が起きそうなヨロズについては、問題防止のために他のヨロズへの行動を制限する処置をされるの。人格に問題があっても、戦力として使えるなら可能な限り活用したい方針だから」
その点について理解はできる。それほどまでに、この世界はモンスターの被害が根深い。しかし、他のヨロズに対しての行動の制限があるとは知らなかった。これもヒプノシア・オンライン独自の改変か、追加要素なのか。
「そして、彼らはその制限対象だったの」
ジェノの思考が明後日の方向に行こうとしたところで、アダの言葉に意識が戻る。
「ほう?しかし、俺らと戦闘になったが」
「おそらく、クランメンバーがパーティにいたからでしょうね。ジャック、だったわね。彼がパーティにいたことで、制限が一時的に解除されてしまっていたの。
行動制限は、同じクランの中には影響がないのよ」
クランは、プレイヤー同士で独自に組むことができる組合のことだ。もともとヒプノシアシリーズに存在しないシステムで、ヒプノシア・オンラインから実装したオンラインゲーム的な仕様である。
条件は簡単で、フルパーティ6人とフレンドであり、かつパーティリーダーを組んだことがあるプレイヤーが、新しくフレンド登録をする時にクランの設立ができる権限が解放されるとのことだ。
クランの恩恵は、パーティメンバー以外でもクランメンバー間で連絡が取れることだ。フレンド登録者同氏は1対1でしか連絡が取れず。パーティ連絡ではパーティを組んでいなければ連rなくが取れない。
大人数での攻略には、クランの設立・登録が必要不可欠になるのだ。
そして、クランの登録こそヨロの管理範囲であるが、クラン自体はプレイヤー独自の組織なので、クランメンバー間の関係については、ヨロズの権限――この場合は制約のシステム――が及ばないのだった。
「彼らのクラン『県立西学術大学三番隊』はヨロ権限で解散、ジャック以外のメンバーはヨロズ除名処分になるわ」
「……三番隊?」
気になるワードが出てきた。あのような連中が後少なくとも二組は居るということなのか……?
「ええ。『県立西学術大学一番隊』、『県立西学術大学二番隊』と続いて五番隊までいるわ」
「うへぇ。そうなると、今回の処分でジャックや俺は恨まれてるんじゃないか?」
辟易した表情でジェノが顔を歪めると、アダはクスクスと笑ってそれを否定する。
「いいえ。一応各クランに事の顛末と、連帯責任のペナルティがあることを伝えたけど、どこも粛々と受け入れてくれたわ。
むしろ、三番隊の所業を謝られたくらいよ」
「なんとまぁ……あ奴らが特別ひどかったということか」
「そういうこと。中にはジャックの心配をしていた人もいたわ。ジャックも、見ていて心配だったけど、もう大丈夫でしょうね」
何とも心強い話が聞けて、ジェノも笑顔で頷くことができた。
「「「カンパーイ!」」」
報酬を受け取った後は、祝勝会だ。前哨戦ではジェノの串焼きだったが、今回は酒場で打ち上げになる。酒を頼もうとしたジェノが、店員に止められたのはささやかな出来事である。
かくいうマルティもジャックも成人済みなので、三人とも飲んでいるのはエールである。試しにジェノが鑑定してみるが、特にバフや回復効果のない飲み物であった。どちらかというと、デメリットの方があるが、それも当然である。
【酒場のエール】(重量1 / 飲み物)
大衆酒場で提供されルエール。アルコール度数は低め。
使用回数を超えて摂取すると、状態異常(酩酊)になる。
酔わない酒などあるものか、ということである。使用回数を超えるまで酩酊しないということで、ジェノもエールを飲んでいる。しかし、アルコール、というよりビール的な風味は薄く、どちらかというとフルーティな果実酒のような風味がしたことに驚いた。
異世界のビールは、味も異世界であった。
そしておつまみは、ナッツ系の王道的なものに始まり、夕食も兼ねた大掛かりな鳥の丸焼きや、フライドポテトもどきまで出てきた。
いずれも味が濃いものの、エールとの相性はよく、ジョッキも食べ物もぐいぐい進んでいく。
話は冒険や墓地での戦いの感想で互いにほめたたえ、あるいは反省するものばかりになるが、やがてジャックの同級生の顛末に移る。
「あの、二人共。相談したことがあるんだ」
食べ始めてしばらくして。ジャックが意を決したように口を開いた。
多少言い訳じみた部分も入ってはいたが、話を聞いてマルティは内容をまとめて確認を取る。
「じゃあ、ジャックは明日は他のクランメンバーと北の方に行くのね」
そういう話であった。
明日以降の予定を決めようとしたところで、ジャックから申し訳なさそうに予定の話が出たのだ。今回の県立西学術大学三番隊事件について、他の同級生から別のクランから誘いがあったという。
実際、三番隊に手を焼いていたのは他のクランも同じだったようで、三番隊がリタイア同然の状態になったことで大手を振ってジャックを誘うことができるようになったらしい。
リアルの話は現金ではあるが、話せる範囲で聞いてみれば三番隊はいわゆる金持ちの子供が徒党を組んだクランで、ジャックはまさにパシリになるためだけに呼ばれたのだったそうだ。
「構わんよ。今のお前さんなら何があっても、きっぱり断ることもできるじゃろう?
そうではなく他のクランと一緒に、ということは、そのクランメンバーとも親交を深めたいということなんじゃろ?」
ジェノの質問に、ジャックは頷いた。
「僕と同じ被害者だった人たちもいたみたいで、この世界にいるうちにそういった人たちで集まって仲良くしていこう、って話になったんだ。
アイツらみたいなのに絡まれても、泣き寝入りするんじゃなくて、戦っていこう、って」
元々の口調に戻っているのだろう。すっかり柔らかくなった口調で、しかし、しっかりと強い意志でジャックはそう言った。そこに、マルティから横やりが入る。
「でもぉ、現実に戻ったらまた、親の権力とかぁ、使うんじゃないのぉ?」
ちなみに、マルティは既に『酩酊』の状態異常がついている。思ったより彼女のペースは早かった。
「うん。でも、僕らに力を貸してくれる、って言ってくれる人たちもいて。水面下で動いていた人たちの話だと、僕たちが立ち上がったことで、証拠も用意できるようになるから対抗できるようになる、って言ってた。
今までは、戦うべき僕たちが弱腰だったから動くに動けなかったんだって。それに、このテストプレイの内容ログも、問題行動を起こしたっていうことで別に運営からも行動があるって聞いた」
「そうか。あれだけ啖呵きって喧嘩しちまった手前、俺も心配してたんじゃが、ちゃんと味方もできたんじゃな。
問題ないようなら何も言うことはないわい」
別のクラスメートたちと合流する理由もしっかりしており、ジェノにはもはや引き留める道理もない。祝勝会は、お別れ会も兼任することになり、三人で飲めや食えやと、どんちゃん騒ぎをするのだった。
「でも、また一緒に冒険したいです。いいかな?」
ジャックが別れ際に言った言葉に、ジェノもマルティも、酔って赤い顔のまま、笑顔で答えた。
「「もちろん!」」
かくして二日目も終わり、マルティとも別れてジェノは宿に着く。
明日は明日の風が吹く。果たしてマルティとまたパーティが組めるのか、もしくはジャックについていくのか、第三の道を選ぶのか。
「明日も楽しみじゃわい」
ジェノはそう言うと、床に就いたのであった。
ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。
次の更新は、明日・明後日くらいにはできるかと思われます。
ジャック君のクラスメートらのゲーム内の出番は今後はありません。が、結末についてはそのうち閑話で差し込むかもしれませんが、ジェノに絡まない部分の話なのでこの小説内で語ることはないです。
この小説は、あくまでジェノに関わる物語なので。
ご了承ください。




