7. 汝、心の赴くままあれ ~PvP~
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ジェノは、軽く視線を巡らせて周囲を確認した。
(剣持ちが2、斧と大楯が1、弓が1に無手が1……いや、斥候か?ダガーか投げナイフか……)
ジャックに命令口調で話しかけたのがリーダーだろうか?金属の全身鎧で顔は見えず、獲物は両手剣。ジャックが重装備になったらこうなるか、という見た目をしている。むしろ、ジャックが倣っている可能性はある。
重装備の彼の後方に、革鎧を身に着けた、片手長剣の青年。青い逆立った髪で露わになったおでこと糸目が特徴的だ。こちらはジャックというより、マルティの方に興味が向いているようだった。
ジェノたちを後ろから囲んでいるのが大楯の青年。こちらも金属の全身鎧の重装備だが、兜の前を開けている。隙間から見える顔は、不満げな表情を隠しもせずジャックを睨んでいる。ついでにちらちらとジェノの方にも胡散臭そうな目を向けてくる。
大楯の彼の後ろに控えるのが女性の弓使い。マルティと違い、きつめの印象を受けるおかっぱの子で、彼女はどちらかというと興味がないように胡乱気な目でこちらを見ている。
その隣は斥候だと思われる青年だ。焦げた抹茶のような色の髪は長く、顔の半分をマフラーで覆っているのでほとんど顔が見えない。が、そこからちらりと見える表情は、マルティを好色そうな目で見ている者だった。
「今日までにレベルを二ケタにはしとけっていったよな?ちゃんとできてんだろうな?」
とりあえず、ジャックの知り合いであることは確定だが、あまり空気がよろしくない。
「それは……でも、レベル8になったし、もうすぐ」
「はァ?お前二日も何やってたわけ?そんなんで俺らについてこれると思ってた?」
ジャックの反論をばっさり切り捨てると、リーダーらしい彼は大きくため息をついた。
「はー……つっかえ。お前もういいわ。
とりあえず有り金と装備とアイテムな、全部よこせ。それで許してやるよ」
「えっ……」
ジャックは、リーダーの男の物言いに驚いてジェノたちを見た。
「は?悩む権利あると思ってんの?ほら」
リーダーの男は有無を言わさぬ勢いでジャックに詰め寄る。おそらくジャックの眼前には、不平等なトレード画面が開いている事だろう。
「早くやれよ。死にたいのか?」
苛立ったような顔からいって、意地悪そうな笑みを浮かべてリーダーの男はそう言った。
「別にいいんだぜぇ?PKだと金は半分しかもらえねぇけど、経験値は入るし」
すると、一言もしゃべらなかった覆面の剣士が、にんまりと笑った。
「ああ、それいいねぇ。レベル8ならこの辺の敵より経験値入りそうだし」
周りの面子も続ける。
「おいおい、そこの女は勘弁してやれよ。俺たちのパーティに入るなら、だけどな!」
斥候の男がはやし立て。
「後衛二人なら楽できそうだね。ついでに買い出しとかもよろしく」
ぶしつけな口調で弓使いが注文し。
「だな。雑魚と一緒にいてもつまらないだろ。とっとと解散しろ」
盾持ちが命令する。
「じゃあ決定で。ほら、早くパーティ解散しろ」
リーダーの男がまとめた。
「う……」
煮え切らないジャックの反応に、リーダーの男が顔を歪め、口を開こうとした時。
ジャックの肩に、こつんと何かが当たった。顔を向けてみると、そこには杖の先をジャックの肩に当てたジェノの姿。本当は肩に手を乗せたかったが、身長差で諦めたのである。
「ジャック、お前が決めぃ」
まるで、突き放されたかのような言葉に、ジャックの顔から色が抜ける。しかし、それに気を留めずにジェノは続ける。
「たかがゲームじゃぞ。楽しい方を選べ」
最初に街の外で戦っていたジャックは、ただ無策に一人で突っ走って戦っていたわけではない。ただ命令され、有り金をすべて持っていかれて、放り出されて、何もできなかったので、がむしゃらに戦っていただけだ。彼には、策を考えることも許されなかった。
最初は、クラスメートに誘われて、このクローズドβテストに参加した。もともと学校であまり立場のなかった彼が、そうやって誘われたのは初めてだった。
喜んで参加して、パーティ任せでチュートリアル依頼もすべてクリアした後、最初に言い渡されたのは買い出しであり、金稼ぎであり、情報収集だった。一日目が終わり、レベルの格差が開いた面々を見て。稼いだ金をすべて巻き上げられて装備を整える彼らを見て、自分がなぜ誘われたのかを理解した。
"一緒"に遊ぶ気など、なかったのだと。
しかし、彼には反抗する地位も、権力も、力もなかった。
そして、二日目。レベルを二ケタにして来い、と何の説明もなく剣だけ渡された。しかし、モンスターとの戦い方すらわからないジャックには、ウサギ一匹まともに倒せなかった。
無力感に打ちひしがれて、涙をのんで武器をふるっていた時に、声が届いたのだ。
「おーい!手助けは必要かのう!?」
ただ、苦戦しているプレイヤーを見かねただけなのはわかっている。しかし、一人はもう嫌だったのだ。気持ちでは気が引けていても、体はパーティ申請のボタンを押していた。
空元気と威勢のいいコケオドシでキャラを作り、それでも一緒に"遊んだ"のは、楽しかった。
そういうことが、したかったのだ。
「じいちゃん……俺、じいちゃんたちと遊びたいよ」
涙に震える声で、ジャックが答える。その様子を見て周りの面々が噴き出す。
「なんだこいつ、泣いてんのか」
「ははっ、笑えるわ。ビビってんのか~?」
「マジ使えないなこいつ。歯向かっても来ないしつまんないねぇ~」
そんな彼ら、特に勧誘を持ちかけた背後の二人の男に、マルティは嫌悪感むき出しで吐き捨てる。
「つまらないのはそっちよ」
「あ?」
笑い声がぴたりと止む。
「人がまじめにやってるのを、笑い飛ばすのがかっこいいとでも思ってんの?ジャックが離れて一人でいる方がマシと思うのも当然ね」
「――ンだとこのアマ。この雑魚がパシリしかできないのが悪いんだろ」
「一人で行動できるだけ、群れても何もできないあんたたちよりはマシって言ってるのよ。わからない?
わからないでしょうねぇ」
両手を頭の後ろで組み、大きなため息をつくマルティ。
ぶわり、と殺気立つのがわかった。
無関心そうな弓使いですら、ジャックより下に見られるのには我慢ができないのか、既に弓に矢をかけている。
逆に、キレているマルティにすらおびえるジャック。マルティが怒気をあからさまに出しているところなんて見たことがないのだ。いや、見目麗しい少女が喧嘩を売っている姿におびえているのかもしれない。そんな彼の姿に苦笑するジェノ。
自分の妻もそうだった、と。いつもにこにこしているくせに、一度切れると目線を合わせるのも憚られるのだ。綺麗な薔薇には棘がある、とはよく言ったものだ、と。
ジェノは、ジャックから目線を外し、ゆっくりと周囲の面々に視線を巡らせて口を開く。
「許されているから、と言って何でもしていいわけじゃない。
……ということを知るんじゃな若造ども。ここはゲームぞ?」
ジェノは、ジャックを見た。
「楽しい方が正しい」
「じゃあ死ね」
すかさず、リーダーの男が剣を閃かした。ジャックは、視線を外していた。
しかし。
「ジャック!防御態勢!」
ジェノの言葉に、体が動いた。大剣の柄を上に、刃を下に、剣に身を隠すように構える。墓地の道中に教え込まれた構えだ。攻撃も反撃も考えない、あらゆる攻撃を受け止める型。吸い込まれるように、リーダーの男の大剣が、ジャックの大剣と激突する。
同時に盾の男の背後から放たれた矢は、ジェノがその場で一回転させた杖に弾かれ、矢が半ばから叩き落された。
さらに、カウンターで放たれたマルティの矢は、狙い違わず弓の女の額を打ち抜いた。驚きに目を開く弓の女は、はたして矢を叩き落としたジェノに驚いたのか、矢を放つそぶりを全く見せなかったマルティに驚いたのか。
「下手くそ」
少なくともドヤ顔を決めるマルティを、憎々しく睨んだのは間違いなかった。そのまま、弓の女は吹き飛ばされて地面に転がる。
「なっ……」
「バレバレなんじゃよ小僧共。奇襲ならもっとばれないようにせいよ」
ジャックを追い詰めていた時に、目の前のガキどもが「ジャックの行動の云々に関わらず」全員をPKする気でいることを確信したジェノは、こっそりパーティチャットで指示をしていたのだ。
かつて、娘に教えてもらった「授業中に机の下でメールを打つ技術」がARパネルを見ずともチャットを打つ技術を実現していた。
視覚入力では、どうしても視線の動きでチャットを打っている、ということがわかってしまうのだ。手動入力だからこそのジェノのファインプレーである。
そして、パーティチャットは"パーティ"を組んでいるプレイヤーにしか見えない。マルティの挑発は、突然開いたパーティチャットのウィンドウに驚いてしまったジャックの反応から、周りの面々の注意を引き付けるためにやったことだった。
もっとも、彼女自身が怒りに震えていたことは間違いない。
先ほどの矢も、マルティが横目で把握していたのだ。マルティのタイミングでジェノが上手く振り払ったのである。ちなみに、上手くできるかどうかはジェノのみぞ知ることだったので、内心マルティはハラハラしていた。
そんな彼女の内心もつゆ知らず、ジェノが指令を出し、パーティが動き出す。
「ジャック。そのまま抑えとれ。マルティ、妨害優先で頼む」
「なん……ぶあっ!?」
苛立たし気にジェノを押しつぶそうと立ちはだかってきた盾の男を、至近距離からの風の球で吹き飛ばしながらジェノが指示を飛ばす。盾の男は、突然圧しかかってきた想像以上の障害に足をすくわれ、衝撃に体勢を崩して転がっていく。
「あぁ!?なんだこのスキル!?」
そういえば、魔法はまだプレイヤーの覚えられるアビリティではないんだったか。ジャックもジェノのことを知らないのであれば、彼らもまた、ジェノの存在を把握していないことは明白だ。
そんな感想をジェノは抱いた。とりあえず、驚かせることには成功したようだ。
「なんだ!?このチビガキがリーダーかよ!?」
「でも、リーダーアイコンはジャックだぞ!?」
リーダーアイコンがジャックにあるのは、単に最初にパーティ申請を各々に飛ばしたのがジャックだっただけである。
だが、それだけでジャックがパーティの要であると思ってしまった。だからこそ、彼らの中でジェノとマルティは、ジャックのレベルでしかないという思い込みが生まれた。
彼らの油断はそこにあったのだ。
「なんなんだてめえは!」
混乱に声を荒げる覆面の剣士。慌てて戦列を整えようとするが、既に二人戦列から外れている面々が混乱しながら十全な動きができるはずもない。
マルティの矢に行く手を遮られ、思うように動けないようだった。そのまま、足を止めたところにジェノの風の球が直撃してやはり吹き飛ばされる。
「バグキャラ、かなぁ」
「その言い方は、ちょっぴり傷つくぞい」
ぽつりとつぶやいたマルティの言葉に、口をとがらせるジェノ。
「くっそ、どけよ!」
視界に入る散々たる有様に、慌てて攻撃を繰り出すリーダーの男。しかし、ジャックの防御を突破できなかった。ジャックは攻撃に合わせて小刻みに大剣の角度を動かし、ダメージや衝撃を逃がしているのだ。その姿を見て、ジェノがリーダーを煽る。
「なんじゃあ、大口叩いてその程度か。
ジャックー、数字だけの雑魚じゃぞそいつ」
「なんだとコラぁ!邪魔だ!【サウザンドスラッシュ】!」
子供のような身長のプレイヤーに煽られたことで、怒りにリーダーの男がスキルを使う。キンキンとした金属の当たる甲高い音が、ガガガガと削岩機のような音にまで変化する連続攻撃。ジャックはだんだんとその場に立っていることができず、足を使いださざるを得なかった。
しかし、ジャックは実際ジェノの言う通りだと思っていた。
彼の比較対象は、墓地の最後に遭遇した、モンスターラッシュだ。3体以上のリビングスカルの攻撃を実直に受け続けることができるわけもなく、捌き、躱し、受けを繰り返すことになった。
ジェノに教えてもらった立ち回りや、一緒に考えたアビリティビルド、スキルが彼の自信へとつながっていた。
「ああああああ!なんで死なねぇ!?」
苛立ちに、リーダーの語気がぶれる。押しているのは自分なのに、ジャックが倒れる気配がしないのだ。まるで自分の攻撃が、全く効いていないような気にもなってくる。
対するジャックの心にも「勝てるかもしれない」という気持ちが芽生える。
その時。視界がブレた。
「ぐあ……っ?」
吹き飛んだジャックの胸には、矢が突き刺さっていた。
ご拝読ありがとうございます。
今回のおじいちゃんの言うスタンスは、うまく表現できた気がしないのでそのうち見直すかもしれないです。
次の更新は連休中にはできると思われます。




