5. その身に何を宿すのか ~戦力強化~
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まずジェノが取り掛かったのは、レベルアップによるアビリティの取得や、ショートカットの作成である。ジェノは、その過程で初めて見るウィンドウを見つけた。内容から十分に使えそうだと判断し、ショートカットを作成していく。
それが何かというと、持っていたアビリティのレベルが上がったことで、派生効果の付与が可能になったのだ。自然魔術に表示されている属性が増えることはなかったが、他の二つは劇的に使い勝手が変わった。
まず、【魔力操作】は、新たに分割と切断に形状が選べるようになった。分割は、風の球を本来の3分の1のサイズで3つ生み出すことができる。切断はその名の通り、風の球ではなくギロチン状の刃として形を整えることができるようになった。
【投擲】は誘導と変化球だ。誘導は、投げたものがある程度ホーミング性能を持つというもの。精度は高くないものの、動きの鈍いアンデッドには十分に百発百中の性能を誇る。変化球は、投げたものが一度だけ仰角90度までの角度で曲がることができる、というものだ。
これらの内、【魔力操作(分割)】【投擲(誘導)】を組み合わせることで3発のホーミングミサイルじみた魔法が放てるようになった。
一方の自然魔術もレベルアップにより操作できる属性が選べるようになっていた。一番得意な風魔法に比べると効果は劣るらしいが、複数の属性を使えるようになるのは劇的な戦力アップと言っていいだろう。
アンデッドが相手であることや、効果が小さくなってしまうデメリットを考え、ここは火属性を選択しておく。今回の相手に合わせて、ショートカットも1つを除いて全て火属性のスキルへと更新する。
ちなみに、ショートカットの設置は最大5つまでだ。今回の準備で、ジェノのショートカットは全て攻撃魔法で埋まってしまった。はたしてこれが、レベルアップでセットできる数を増やせるのか据え置きになるのかは、今後の進展次第となるだろう。
「じいちゃん、俺はどうしたらいいかな」
準備中に、ジャックが意見を求めてきた。詳しく話を聞いてみると、ジャックは覚えられるアビリティの方向性に悩んでいるようだ。
ジャックとしては、一撃に重きを置くタイプのダメージソースを担う『アタッカー』志望であった。しかし、このパーティであれば既にアタッカーとしてジェノがいる。であれば、現状は敵の動きを阻害する、あるいは味方を守る動きを重きに置く『タンク』と呼ばれる構成の方がいい気がする、ということだった。
ジェノは、ふむ、と一拍置いて答えた。
「ぶっちゃけ、どっちでもよい」
「えっ」
「そうだねぇ」
「えっ」
ジェノの突き放したような答えに驚くジャックだったが、それにマルティが同意したことでさらに混乱する。ジャックのビルドがどうでもいいように考えられているような気もするが、今更この二人がそんな人間でないことをジャックは知っている。
どういう意味なのか頭を悩ませていると、ジェノが苦笑しながら言葉を紡ぐ。
「というのもな。確かに、タンクの構成をしてもらった方が今はありがたい。それで、ジャックがそういう方向に興味を持って、進んでいくのもよいじゃろう。
しかし、ジャックがこの一週間のテストでずっと俺たちとプレイするわけでもないわけじゃし、そもそもジャックがアタッカーになりたいわけじゃったろ?アタッカーのビルドでタンクができないわけでもないわけじゃし。
何より、どういうプレイをしたら楽しいか、が大事じゃと俺は思うぞ。
強いて言えば、今の不満点を修正する方向が俺はお勧めじゃな」
自分の好きなプレイをすればいい、というジェノの言葉に、目を瞬かせるジャック。それでいいのか?と今度はマルティに顔を向ければ、彼女もまた笑って答えた。
「足りないところは私たちもフォローするし、私たちが足りないところにジャックがフォローに入ればいいんだよ。だって、パーティじゃない」
きょとん、としていたジャックも、だんだんと理解が追い付いてきたのかにんまり、と笑みを浮かべた。
「……そっか。それでいいんだなぁ」
ジャックの、何か吹っ切れた様子を、ジェノとマルティは微笑ましい笑みで見守っていた。
「よし、俺は防御強化だ!絶対二人を守ってやるからな!」
どうやら、防御強化の方向で行くようだ。
マルティが覚えたアビリティは【歌唱】。これにより、マルティは派生アビリティの【歌唱(鎮魂歌)】が使えるようになったのだ。
【歌唱】
うまく歌を歌うことができる資質。
【歌唱(鎮魂歌)】
歌により死者を鎮めることができるようになる資質。
問題は、具体的な使い方がわからないのが痛いところだった。というのも、単体起動ができなかったのである。試しに使ってみようとしたところ、<周囲に効果が及ぶ対象がいません>と表示されたのである。
このアビリティに関しては、土壇場のアドリブで対応することになった。とはいえ、少なくともアンデッドに対して何も効果がないことはないだろう、という認識で一致していた。
しばらく、あーでもない、こーでもないとみんなで互いのスキルの見せあいや、戦略を練る。その時間は三人の表情を見る限り、非常に楽しい時間になったようだ。
「準備はよいか?」
ジェノが最後の確認に二人に問いかけてみれば、心強いことに笑みを崩さずに二人とも頷いた。
ジェノは、意を決して宝玉を石碑に押し込んだ。すると、宝珠の輝きが一瞬、一層増すと間もなく。
「……ゥォォォォオオオ……」
怨嗟のうめき声のようなものが周囲から聞こえてきた。ジェノたちのいる石碑の周りの地面が盛り上がり、リビングスカルが次々に這い出てくる。更に木陰からは、レイスミストがジワリと浮かび上がってきた。
「ぬぅ、想像以上に多い……」
見た目リビングスカルが9、レイスミストは4だ。これで終わりか、はたまた増援が来るのか。早まったか、と冷汗を垂らすジェノだったが、ジャックが武器を構えつつ、ぽつり、とつぶやいた。
「……虫よけ炊いた時のゴキブリみたいだな」
「ちょっと!!」
余計な一言を吐いたジャックに、マルティは抗議の声を荒げるのだった。
戦闘は、ジェノの魔法から始まった。
「【鑑定眼】【投擲】【魔力操作】!」
ジェノの手から放たれた白い光は、リビングスカルの集団へと直撃した。瞬間、ジェノの眼前にARウィンドウが展開される。
【リビングスカル・トリオン】(アンデッド)
HP: <鑑定不能>
HP: <鑑定不能>
リビングスカルの集団。3体のリビングスカルが連携して行動する。その行動を統括する魂は一つである。
彼岸百合の一件から派生した、ジェノの魔法である。効果はズバリ、離れた相手のステータスを確認できるのだ。
「想定通りのアンデッドだね!試してみるよ!」
鑑定結果は、パーティで共有できたようだった。相手がアンデッドだとわかったので、マルティが【鎮魂歌】を発動する。すると、マルティの眉に皺が寄る。
「どうした?」
「『【歌唱(鎮魂歌)】単体の起動を確認しました。歌と音階、どちらを使いますか』……?」
どうやらヘルプウィンドウが開いているようだ。
「ちょっ……敵が来てるぞ!どっちか、早くしないと!」
すぐに効果が出なかったことに、ジャックが焦る。既に、リビングスカルがよろよろと、レイスミストはふわふわと近づいてきている。
「うわわ!?と、とりあえず音階で」
歌唱力に自信がなかったのか、音階を選択するマルティ。すると、マルティの目の前に新しくウィンドウが開いた。横長のウィンドウで、五線譜が描かれている。
「なにこれ?」
マルティが疑問を発すると、ウィンドウの左端が四回点滅した。
「えっ?」
再び一回。そして、右端から小さな光点が左へと流れてくる。その位置は、五線譜に沿って様々な高さで。
そこで、マルティは気づいた。
「音階ってそういうことかー!?」
俗に言う『音ゲー』。あるいは『カラオケ』であった。マルティは【鎮魂歌】の使用について慌てて二人に伝える。とりあえず、発動までにしばらく時間がかかりそうだということ。そして、うまくできるかわからない、ということ。
なにせ、このミニゲームの難易度がわからないのである。
とりあえず、マルティが【鎮魂歌】を終えるまで、慌ててジャックとジェノが足止めに入ることになった。
「【咆哮】【注目】!」
ジャックが使ったスキルは、周囲の敵の攻撃を自分に向けさせるものだ。俗に『ヘイトコントロール』と呼ばれるタイプの効果であり、本来であればランダムに攻撃目標を決める敵の動きを、ある程度自在に誘導させることができる。
このヘイトというものは、敵の動きを完全なランダムからある程度思考を持つ敵に昇華させるために用意されるシステムだ。攻撃力が高い者、回復や補助効果により継戦能力を受け持つ者など、戦闘のカギを握る者が狙われるのはある意味当然の思考回路だ。ヘイトという概念により、戦闘が続くことで敵がある程度の経験則を持って、攻撃目標を変えるようになってくるわけだ。
しかし、最初はそう言った脅威は経験していないので、全員がランダムに、あるいは決まったルーチンワークで動くことになる。ジャックが真っ先にヘイトコントロールを奪うことで、全ての攻撃を引き受けたのだ。
もちろん、そのすべてをさばけるわけでもない。また、ジェノもただ牽制をするだけではなかった。
「【自然魔術(風)】【魔力操作(分割)】【投擲(誘導)】!」
新しいアビリティであるところの【魔力操作(分割)】は、通常の【魔力操作】を使った時よりも威力が減衰するデメリットがある。しかし、鍛えられた【自然魔術(風)】のレベルのおかげで、威力が減衰した風の球でもレイスミストは一発、リビングスカルですら二発で仕留められた。
そして、数が減った敵をジャックが押しとどめる。
「ら~、ら~ら~、ら~~!」
その間、マルティはテンパりながらも目の前の譜面をなぞって声を出していく。実は音階のほかに歌詞こそ出ているが、周囲が騒がしくてそれどころではなかったのだ。
やがて、それは終わりを迎える。
「――ら、らら~ら~!……終わった!」
マルティが歌い終える。瞬間、マルティを中心に仄かに白く光る風が周囲に巻き起こった。これで楽になるか、と思ったマルティの目の前にウィンドウが出てきた。
<54点。もう少し頑張りましょう。
周囲のアンデッドのパラメータに「-5.4」%の効果を付与>
「……なんじゃ、そりゃあ~~!!??」
結果、ほとんど効果が見られず、マルティは怒りに弓を取る。その、珍しく激怒するマルティの姿に思わず目を見張るジェノとジャックであった。
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