3. 急がば回れとはよく言ったものだ ~マルティのクエスト編~
500PV行きました。ありがとうございます。
今後も楽しんでいただけるよう精進いたします。
ネージャッカの街から離れて徒歩4時間。時たま戦闘を挟みつつ、ジェノたちはネージャッカ旧共同墓地へとたどり着いた。
ちなみにマルティの依頼は、ジェノの受けたものとは違い採取が目的である。が、目的の物は墓地に存在するため、ジェノの依頼と重複できたのである。
「まずは、マルティの依頼から終わらせようかの」
彼女の依頼は墓地の入り口近辺で終わらせられる程度のものである。ジャックと共に、目的のものを画像で見せてもらう。
「ほら、これ。『彼岸百合』っていう花で、私が集めているのはこれの七分咲きの根っこ。
採取できたアイテムの説明を見たら、何分咲きかはわかるから。面倒だけど、よろしくね」
「ほほう、綺麗なもんじゃな」
まずは散り散りに分かれて目的の彼岸百合を探す。彼岸百合は、彼岸花のような深紅の細い花弁をしているが、その雄しべは百合のように真っ黄色になっている。その姿は、ほの暗い墓地において非常に目立っていた。
ジェノは、次々に目につく彼岸百合を、根ごと摘んでいく。不思議なことに、根っこごと摘んでいるはずだが、ものの5分もたたないうちに新しい彼岸百合が生えて咲いている。
「採取し終えて二日三日待つようなものじゃなくて助かるわい」
摘み取った彼岸百合をアイテムボックスの中で確認する。しかし、早10房ほど摘んだが、目的の七分咲きのものはわずか二房であった。なんと、すぐに生えてきたものを積んでも、その咲きぶりはまちまちであったのだ。
マルティの依頼目的は、この根を13個である。中々進まない進捗に首をひねるジェノは、試しに他の面々の具合を聞いてみた。
「うーん、私は15こ摘んだけど、1つしかなかった」
「俺は0だ。厳しいな、これは」
やはり、同じ程度のドロップ率だったようだ。レアだと思っていた十分咲きの彼岸百合も摘んだ総量からすると3割を超えており、全くレア感がなかった。
さらに、この場所は安全地帯ではないので、モンスターとエンカウントしない場所ではない。集まって進捗を確認している端から、さっそくモンスターとエンカウントした。地面から片腕が欠損した人骨が生えてくる。その姿異思い当たる名前があったジェノは、ぽつり、とモンスターの名前を言い当てた。
「む、リビングスカルか」
地面から抜け出してきたモンスターは、理科室の骨格標本を連想する姿をしていた。その頭蓋は、人間の者とは思えないほど吊り上がった眼窩をしており、その歯抜けの口の両脇には、サーベルタイガーのような鋭い牙が生えている。
墓地という地理上、現れるモンスターはアンデッド系のモンスターばかりになる。この辺りにコウモリウサギなどの動物系のモンスターは出ないのだ。
欠損した片腕は、もう片腕がこん棒のように握っており、これを振り回して攻撃してくるタイプだ。その後立派な牙は、なぜか使ってこない。もっとも、顎がないので噛むこと自体ができないのかもしれない。
「骸骨ならまかせろぉい!」
ジャックが喜び勇んで飛びかかっていく。肩まで担いで振り回した大剣は、しかしてリビングスカルの持つ腕の骨で受け止められてしまう。
「うえっ!?」
多少太いにしろ、所詮は骨だ。気持ちよく吹き飛ばす目論見だったのだろうジャックの攻撃は、リビングスカルの骨半ばで止まってしまっている。
リビングスカルはヒプノシアシリーズの皆勤賞を飾るアンデッドモンスターだ。その見た目に反して、性能は重戦士の様相を呈している。アンデッドならではの鈍重な動き、見た目に反した物理攻撃耐性。攻撃力こそ、同レベル帯のモンスターに比べれば低めではあるが、持久戦を余儀なくされる面倒なモンスターである。
しかし、ジェノにとっては既にカモであった。
「ようやった、ジャック!」
【自然魔術(風)】【投擲】【魔力操作】!」
墓地に来るまでの間こまめに戦闘を経由したことで、晴れてレベルが6にまで上がったジェノは、ショートカットできるアビリティの組み合わせが3つになっていた。そのため、アビリティによる魔法の射出が可能になっていたのだ。
投擲に命中補正があれば、ジャックのおかげで動きが止まっているリビングスカルに対してであれば百発百中、かつ一撃必殺である。訓練所で最大まで鍛えた【自然魔術(風)】【魔力操作】の火力は、当たれば中々の火力を生み出すことができていたのだ。
また、アンデッドは物理攻撃にはめっぽう強いが、魔法攻撃に弱い特性があった。結果、ジェノの放った風魔法で、リビングスカルは四散して虚空に消えていった。
「うおお、すっげぇ!じいちゃん強ぇ!」
自分ができなかった一撃必殺をやり遂げたジェノに、ジャックが忌憚ない称賛をする。その言葉に、ドヤ顔で答えるジェノだった。
墓地でエンカウントしたのは全部で二種類のモンスターであった。リビングスカルと、もう一体のレイスミストに対して、ジャックは完全に無力であった。というのもレイスミストは物理攻撃の効きがひどく悪いのである。
全く効かないことはないようで、刃が体をすり抜ける際にダメージ判定と一瞬の硬直が入るのだ。しかし、やはりほとんどダメージがない上、硬直も一瞬過ぎて嫌がらせのようなことすらできない。
レイスミストへの足止めはマルティとの連携で引き受けていた。レイスミストはリビングスカルより足が速いが、マルティが狙えないほどの速さではない。そこで、ジャックとマルティが交互に絶え間なく攻撃をすることで、リビングスカルの足止めと同じ程度に刃その場に留まらせることができたのだった。
しかし。
「ぐああ!めんどくせぇ!」
戦闘を終え、墓場にジャックの咆哮が響く。今回の相手はリビングスカルではあったが、ジャックにとってはこのマップの敵全てが面倒に感じていた。
リビングスカルは実体があるおかげか、物理攻撃でも行動の阻害が可能だ。足を止めさせた間にジェノの魔法で殲滅こそできれど、ジャックにとっては、いまいち攻撃の反応が薄いレイスミストも全力でも振りを止められてしまう爽快感のないリビングスカルも、ストレスフルな相手なのだった。
レイスミストでたまったストレスをリビングスカルで晴らそうとしては、非常にタフな相手と剣戟を繰り返してジリ貧となる。結果、ジェノに手助けを求める声が届くのが一連の流れなのだった。
とはいえ、ジェノが一人で墓場の敵を蹴散らせるかと言うとそうでもない。
「まぁ、相性が悪かったのは間違いないの。俺としては、安全に魔法で殲滅できる時間を稼いでくれるから助かるんじゃがな」
「うーん……そう言ってくれるならまだ役立たずじゃないだけマシかぁ……。
でも、根っこが全然集まらねぇな……」
マルティの依頼の進展のなさに、ジャックから愚痴が漏れる。都度、探索の中断が入るため、マルティの依頼のクリアが難しくなっていたのだ。経験値こそ稼げてはいるものの、このままでは目的の達成ができない。
「ごめんね。まさかこんなに時間がかかるなんて……。
これは明日までかかるかも。先に、おじいちゃんのクエストから終わらせる?」
さすがに申し訳なさが先に立ったか、マルティもそう提案をしてくる。
なぜなら、ログイン時間という時間制限もさることながら、墓地へ向かう際の情報収集で問題が一つ発生していたのだ。それは、夜間における墓地の難易度の上昇である。
やはりアンデッドという特性なのか、夕方以降、特に深夜はモンスターの能力が上がるのだという。まだ低レベル帯のジェノたちには荷が重いとして、夕方前には墓地を離れたかったのだ。
今日のゲーム開始時は午前8時程度であった。また、夜間判定の開始は20時である。最悪、今日のログアウトを野宿にするにしても、19時までには墓地を発っておきたいところだ。
既にログインして7時間ほど経つ。であれば、墓地を探索できる時間はもう3時間を切っていると考えていいだろう。
「むぅ、ありがたい話じゃが。
せめて、目的のものだけ見つかるような手段があればいいんじゃが……ん?」
実際、依頼用のアイテムのレアさに辟易していたジェノも、思わず同意の言葉を漏らし、気づく。
現実世界で、手作業で七分咲きの花を探すなんてことはしないの。よしんばやるとしても、元々そういった環境が整っているか、専用の機械でもあるはずだ。
それをこの科学の発達していない世界で行うのか?もっと、別の手段があるのではないか?
そして、ジェノはそれに等しいものを手にしている。
「ちょいと試してみるか」
手作業でARウィンドウを操作し、目的のアビリティを選択する。
<目標を指定して、『発動キーワード』を発言してください。>
目の前の彼岸百合を対象に、新しい組み合わせを試してみる。
「【鑑定眼】【魔力操作】。
……ふむ。これは六分咲きか」
【彼岸百合[ 六分咲き ]】 (重量0 / 素材)
説明 : 墓場に生える赤い花。赤く染まった花弁は辛みを伴う刺激があり、虫除けに使用される。
六分咲きの花言葉は「未練」。花弁が染まり切っておらず、虫除けに使用できない。
目の前の物は摘む前に鑑定できた。これが【鑑定眼】のみの使用では、以下のような内容しかわからず、咲き具合などの内容はわからないのだ。
【彼岸百合】 (重量0 / 素材)
説明 : 墓場に生える赤い花。赤く染まった花弁は辛みを伴う刺激があり、虫除けに使用される。
では、これを探すことはできるのか?
ジェノは、レベルが5になった時に1点だけ取得したアビリティポイントを消費して、新しいアビリティを取得する。
【気配探索】
周囲の状況を詳細に調べる資質。
ちなみに、似たようなアビリティでは【気配察知】が存在する。何が違うのかと言えば、気配察知はパッシブアビリティであり、探索範囲は動物に限られる。しかし、気配探索はアクティブアビリティであり、周囲の環境をも調べることができる。
何より重要なのはアクティブアビリティであるという点だ。つまり、スキルとして【魔力操作】と組み合わせることができるのだ。
なお、マルティとジャックはジェノが何をやっているのかわからないので、神妙にその様子を見守っている。
「では、まいろうか……。
【鑑定眼】【気配探索】【魔力操作】!」
スキルの発動と共に、ARウィンドウに周辺のマップが開く。探査済みの所に限りではあるが、いくつかの光点が刻まれていた。
ジェノは成功を確信すると、経緯を見守っていた二人を連れて光点の場所へと向かう。そして……。
「うおお!あった!じいちゃんすげぇ!」
「やったー!これで依頼をクリアできるよぉ!」
「かっかっか!どんなもんじゃい!」
そこには、ズバリ七分咲きの彼岸百合があったのだった。
ご拝読ありがとうございます。
続きは週明けの予定です。