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1. 旅は道連れ ~テスト二日目 開始~

毎度自分でつけたナンバリングがプロットのままになってる……本当に申し訳ない。

「ぬぅ……まだ子供のままか」


 丸満は、記憶の泉に映るジェノ=ベーゼ(自分)の姿を見てそう言った。水鏡の向こうにある少年の顔は、くしゃりと悩みに顔を歪ませている。

 とはいえ、「まだ」とは言っているが、体が青年から子供になってしまったことについて、運営から特に連絡は来ていない。ひょっとしたら、青年になることもできないのではない可能性もある。


「その時はその時と、腹をくくるしかあるまい」


 ジェノは、そう自分を納得させてヒプノシアの大地へと向かった。

 目を閉じて泉に飛び込めば、次の瞬間は灼熱の日光が余すところなく差し込むネージャッカの街のメインストリートだ。


「ぬっ……うぅ」


 強すぎる日光は、閉じた瞼の裏からですら眼球に差し込んでくる。あまりの光の強さに、思わずうめき声が漏れてしまう。

 ふと、昨日ヨロ館で依頼を受けてからこのメインストリートに立つまでの流れが脳内で保管される。依頼を受け取った後、受付嬢たちに別れを告げて、宿を取った。ヨロ館に併設している宿で、お金がない新米ヨロズ御用達の宿だ。何せ、メンバーカードを提出すればタダなのだから。

 一泊した後宿から出て、今から依頼に行く準備を整えるところに目を覚ましたのである。

 例の「夢だからなんとなく流れが判る」システムの恩恵だ。ゲームを再開した時に「あれ?今から何をするんだっけか」と悩まなくて済むのはありがたい話だ。何せここ最近は記憶力に自信が無くなって久しい。

 そんなわけで、ジェノは街の道具屋に向かうことにした。

 

 視界の端に半透明のARウィンドウを開いて、地図を表示させた。まずはネージャッカの街の全体像を始めてみた。

 形としては凸型になっている。中心のでっぱりにメインの出入り口の門があり、方向としては飛び出た部分が南に向けられた形だ。凸の中心にヨロ館があり、西側に道具屋や銀行など、東側に鍛冶屋や武具屋等があるようだ。

 ナビゲートに従い、ネージャッカの道具屋に向かう。ついでに道中の屋台でゲーム内の朝食を賄うことにする。

 

「おっ、これも知っとる奴じゃあないか。

 おっちゃん、こいつを一本おくれ」


 今日の朝ご飯は、昨日とは違う串焼きだ。昨日の反省を元に試しの一本だけを買う。心もとない懐事情を考えると、購入予定の道具の値段を差っ引けば、素寒貧と言わずともかなり近しい懐になる。そうなると、朝食で昨日と同じコウモリウサギの串焼き買うとなるのも厳しい価格になるのだ。

 そういうわけで本日の朝食は【イノシシイヌのモツ焼き串】だ。

 これはコウモリウサギの串焼きと効果が違い、回復アイテムではなくバフアイテムとなっている。効果は、物理攻撃力の強化だ。もちろん、序盤の強い味方である。

 

「あいよ。一本40Gな」

 

 受け取った串焼きは、モツ焼きという名前ではあるが、レバー焼きではなかった。見た目ではおそらく腸を割いて帯状にしたものを、酢イカのようにくねらせて一本の串で刺している。

 

「ほうほう。こいつは攻略本でもイラストなかったからのう。こんな風になっとるのか」

 

 さて味はというと、名前から昔食べたブタモツのようなものを想定していたので、それを大きく裏切られた形となった。

 なんというか、一番近い感想としては「鳥皮」だ。パリパリに火を通したそれは、噛めば焼き海苔のように小気味良い破裂音を響かせてくれ、咀嚼すると唾液の中に肉の旨味を楽しませてくれる油が混じる。

 現実で食べれば、間違いなく胃がもたれるような食べ物ではあるが、若いこの体は朝の活力を補給できているようだ。

 

「……うむ、美味い。美味いがこれはくどいな。ちと喉が渇く」

 

 塩が濃く、ついでに口の中が油でいっぱいなので、おとなしくフルーツジュースを購入して喉を潤わせることにする。

 近くの屋台で飲み物を打っているのを見つけた。300mlほどで100Gか。これでいいや、と適当に見繕って口にした。


「……青汁……だと……」

 

 想定外のすさまじい苦みに愕然とする。

 モツ焼き串の付け合わせで飲むことになったものを【鑑定眼】で調べてみれば、表示されたのは【薬草ジュース】だった。慌てて店の看板を見てみれば、店先には『ジュース』としか書いていなかった。

 

「ぐぅっ……不味い……串と合わない……

 これは、もう一杯は要らないのう……」

 

 迂闊にも想定していない味に悶えることになったのだった。今度から売っているものを、ちゃんと調べて買おう……。

 薬草ジュースは、普段飲んでいた青汁と比べても、とてもえぐかった。とだけ感想を述べておこう。ゲームの食物全てが当たり、というわけではないようだ。

 そんなこんなで無駄な苦労をした後に、無事道具屋へとたどり着いた。ちなみに、今から買う道具類はヨロ館にある購買でも買える。しかし、それなりのランクのヨロズを対象としているため、購入できる品々は高品質かつ高価格だったのだ。

 今の手持ちではそろわないため、安さを求めて店に赴いたというわけだ。決して朝飯目当てではないことをここに宣言しておく。

 さて、今回取引する予定のアイテムは『HP回復薬』と『MP回復薬』、『野営道具』の三種類だ。前者二つは言うまでもなくRPGの必需品。とはいえ、ヨロ館の販売商品ではレベルの低いジェノのHPMPに対して過剰回復だ。それに比べれば、市井の商品は手ごろな回復量をしている。

 最後の一つに関しては、ネージャッカ旧共同墓地の場所が原因だ。墓地への片道に、ゲーム内時間で3~4時間ほどかかるのだ。つまり、往復で半日以上。途中で戦闘などを挟むので、どうしても道中で休む必要が出てくるのだ。

 幸い、今日からゲーム内時間で一日はログインできるのだ。トラブル見込みで今日中に墓地の作業までを終わらせておきたいものだ。

 ちなみに、このゲームの野宿とはすなわち、セーブポイントの設置に他ならない。野宿でも宿のベッドでも、寝ることで安全なログアウトができるのだ。

 では、安全ではないログアウトとは?睡眠以外ではログイン時間の超過によるログアウトがある。これによるログアウトでは、アバターは睡魔による昏倒という扱いを受け、アバターが残ってしまうのだ。もちろんその間手持ちのアイテムは盗まれる、モンスターからは攻撃を受ける、挙句に次にログインした時には死に戻っている、ということもありうるのだ。

 昨日のログアウトは、まだその仕様が固まっていなかったのかどこでもログアウトされるようになっていた。これは、明日以降に設定画面に設定メニューの『ログアウト中にセーブ行動をする』項目として追加されることになっている。

 今日のテストでは時間加速の不具合調査もそうだが、昨日のログアウトから行われる「夢だからなんとなく流れが判る」システムの内容に、宿屋などに泊まる自動セーブが含まれるのか、の確認もあったようだった。

 今回は、設定メニューの『ログアウト中にセーブ行動をする』項目はOFF固定となる。だから必ず『野営道具』を所持しておくように、とGMメールまでされていたりする。

 やってきた道具屋では、様々な品物がピンからキリまであった。手持ち金と自分のレベルを鑑みて、薬を最下級の物でそろえ、野営道具は持ち歩ける重量のものをできるだけ高めの品質でそろえる。どうせ寝るなら、寝心地のいいものにしたかったのだ。

 そして手持ちはついに100Gを切ることとなってしまった……。


「これは、依頼失敗したら色々と詰むのでは?」


 そこはかとない不安感に思わず心細さを口走る。と。


「あれ?おじいちゃん」


 昨日で聞き慣れた声が背後からした。振り向いてみれば、ポーション瓶を片手にマルティがジェノを見つけていたのだった。

 

「おじいちゃんもこれから外?」


「うむ。先んじてここから北の『ネージャッカ旧墓地』の依頼も受けていての。そっちもこなす予定なんじゃよ。マルティちゃんはレベル上げかのう?」


 ジェノがヨロズの依頼を受けて町の外に出る旨を伝えると、彼女もまた同じく依頼の関係で町を出るところだったらしい。


「え、おじいちゃんも旧墓地行くの?私もなんだよ!」


「ほっ!?そうなのか。それは奇遇じゃのう」


 てっきり知り合いとレベル上げにいそしむと思っていたところで、マルティがソロプレイヤーだということを知り、驚くジェノ。話によると、意外に遠距離職は人気がないらしい。

 

「だって、弓矢はお金かかるからね。私はそれでもエルフプレイしたかったから弓矢を持ちたかったんだ。

 おかげで一人だけど」

 

 てひひ、と笑うマルティ。ヒプノシアシリーズにおいて、弓は実は"打撃武器"である。弓だけであれば。

 ここに、消費アイテムである"矢"を所持していることで、アビリティによる弓矢の発射ができるようになるのだ。

 しかし矢は消耗品であり、弓で射出した矢は、何かに接触すると消失してしまうのだ。もちろん、矢筒に戻る、なんて親切な仕様ではない。

 機能のジェノの戦いぶりを思い出しつつ、目的地が一緒だったジェノにマルティが一つ提案をする。


「ふむふむなるほど……そしたらさ、私とパーティ組まない?ソロの魔法使いパーティよりはいいと思うんだけど!」


 それに関して、ジェノは疑問で返した。


「それは構わんのじゃが……マルティも後衛ではないかの?前衛のいないパーティではバランス悪すぎやせんか」


「……おじいちゃんって、後衛だっけ?」


「どっからどう見ても魔法使いじゃろう!?」


 両手を広げてローブをアピールするジェノ。

 このお嬢ちゃん、人のことをなんだと思っとるんじゃろうか。ジェノは憤慨してそう思った。


「でも、おじいちゃんの魔法、投げても当たらないし……昨日も接近戦で訓練所の相手吹き飛ばしてた」


 ぐうの音も出なかった。

 もっとも、ジェノ本人は二度と近接戦をするつもりはなかったのだが。

 かくしてマルティに押し切られたジェノは、彼女と二人でネージャッカの街を出ることになった。町の外では、いくつものパーティが戦闘している姿が散見できた。

ご拝読ありがとうございます。

次回更新は明日の予定です。

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