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0. インターミッション ~テスト一日目 終了~

お待たせしました。続きになります。

 目が覚めた。

 

「おはようございます。体調のチェックを行いますので、一時間後に検査に向かってください。

 ドリームキャッチャーは、メンテナンスに入ります」


 聞き心地のいい女性の声で、耳元のスピーカーからそうアナウンスが聞こえてきた。既にDC機の蓋は開いているので、のそりと起き上がり、大きく伸びをして体をほぐす。

 

「ぐっ……うむむ……!?あっ、あいたたた」


 伸ばしすぎて、肩にしびれのような痛みが走る。そうだ、この体は肩が上がらない。それを思い出して、力を緩めて伸びをすることにした。

 思わずヒプノシアの体で体を動かしていたことに苦笑せざるを得ない。これは確かに、アバターの年齢変更は問題がある。

 それ以外に関しては普通に、寝起き、という感じだ。いや、どちらかというと『いい寝起き』だろうか。どこか気持ちがすっきりしている。夢の中――ヒプノシアであれだけ大暴れしたにもかかわらず、さっぱりとしたすがすがしい寝起きだ。

 これは、DC機(ドリームキャッチャー)がベッドとしても快眠を約束してくれるということなのだろうな。ゲームができなくても、普通にほしいところだった。

 さて、顔を洗って歯を磨き。やることもないので検査室へと向かおう。


「おや、まっちゃん。具合はどうだったね。ネージャッカじゃ会えんかったが」


 途中で合流した進藤が丸満に話しかけてきた。彼は、ジェノのゲーム仲間だ。最新型もレトロゲームもゲームジャンルすら無視して興味のあるコンテンツを食べあさる雑食系ゲーマーで、一時期同じゲームをプレイしていた関係で仲良くなった仲だ。

 今回のクローズドβテストも権利を手に入れるために、話題が出てから崩しがちだった体調を整えたらしい。結果、驚異の肉体年齢5歳若返りという結果をたたき出したらしいが。

 ふと、自分の環境を聞けば羨ましがるんじゃないか、と思った丸満は、素直に現状を進藤に話した。


「順調とはいいがたいがね。あと、俺はちょっと別のテストがあって若いもんのサーバーに居るよ」


「なにィ!?なんだそれ、うらやましいな!」


「若い娘ともフレンドになったりした」


「うらやましい!」


「ほっほ」


 案の定、地団駄を踏む真似までして悔しがる進藤を見て、丸満は優越感に笑う。もっとも、進藤も本当に悔しがっているわけではない。多少は本気ではあるが、どちらかと言うと同好の士も同じゲームを楽しんでいる、ということが判って嬉しがっているくらいだ。

 進藤は、マルチプレイとソロプレイではゲームの楽しむ質が違うと考えている。マルチプレイのゲームであれば、楽しい時間を共有できている、ということに楽しみを感じるゲーマーであった。

 

「では、またの」


「昼飯は一緒に食おうぜぃ」


 お互いに軽口を叩きながら健康診断の受付を済ませ、精密検査を進めていく。

 とはいえ、イレギュラーなアバターを使っている手前、今日の結果は丸満にとって不安が残った。果たして今夜はヒプノシアに行けるのだろうか。丸満の心配をよそに、精密検査は次々と進んでいく。

 幸い、担当の人間が「あっ」等といった不安をあおる反応がないのが救いであった。

 何事もなく時刻は12時を回った。


「しかし、あれだな。向こうで飯食ったときは、もう現実の飯なんて食えたもんじゃねぇ、と思ってたけど意外に行けるもんだな」


「だなぁ」


 昼飯。やはり進藤と相席で食事をしていると、進藤は唐突に食事事情について話し出した。内容は、ヒプノシアに行くことで味覚が変わったか、ということだった。

 丸満が今のところヒプノシアで食べたのは、唯一、非常に食い応えがありすぎる串ものではあったが。しかし、味はもはや現実で食べられない系統のものであったのは間違いない。

 進藤もまた、ゲーム内で肉汁滴り落ちるステーキをほおばったとのことだった。。もっとも、見た目は現実に即しているので、その光景は中々に周囲の不安をあおったらしい。

 今、丸満が食べているのは「サラシアかけうどん」である。サラシアは血糖値の上昇を抑制する食物だ。約5年ほど前からすっかり食欲が薄くなった丸満は、味よりも健康重視、と薄味派に移行した。クローズドβテストを受けるために、一日の摂取カロリーにも気を付けるようになったのは、まだ記憶に新しい期間ではあるが。

 ちなみに進藤は「梅干し入りのマンナンおかゆ」だ。普通のおかゆに、きわめて小粒のこんにゃく米が入っており、満腹感を満たす一品になっている。

 互いにかなり薄味であり、あのガツンとくる串焼きを食べた後では味気ないのは間違いない。昼食としてお盆で受け取ったこれらの食事はわびしく感じてしまうな、と思っていた。しかし、実際には一口入れてしまえば、普通に食べられる感じであった。

 あくまでヒプノシアは「夢を見ている」感覚でしかない、というのは間違いないのだろう。こんなにはっきりと夢の内容を覚えているのも久しぶりではあるが。

 話は、具体的なテスト内容へと移行していく。


「今日は、順調なら倍速のテストだっけな」


「ああ。昨日はきっちり睡眠時間と同じ8時間しかログインできなかったけど、今日は16時間ログインができるって話だ」


 一日目のテストは、ドリームキャッチャーの試運転を兼ねている。二日目は、ヒプノシア・オンラインの本格稼働テストになる。

 具体的には、ゲーム中の体感時間の加速だ。睡眠予定時間は8時間だったが、ゲーム内時間では倍の時間を過ごした時の影響を調べるらしい。


「確かに夢の中ならあるよな。一日近く時間経ってる感じなのに、寝て起きたら4時間くらいしか経ってない、ってやつだろ」


 4時間睡眠は老人のお約束であり、一般人の平均睡眠時間ではない。


「走馬燈みてえなもんだな」


「よせやい」


 冗談を言い合いながら、二人で今夜の冒険に思いを馳せる。


「しっかし、まっちゃんもパーティ組めたら、俺が前衛、まっちゃんが後衛でバランスよかったんだがなぁ」


 進藤が、ゲーム内で丸満と合流できないことに残念そうであった。進藤の愚痴に、丸満が乗っかる。


「なんだ。進藤は前衛か」


 進藤は【斧術】で一撃に重きを置く近接職をプレイしているのだそうだ。


「遠くから"ちまちま"やるのは性に合わねぇんだよな。時代は火力だぜ」


「後衛も火力出せるんだよなぁ」


 ただし、火力を出すにはレベルが必要である。今の丸満では、風の球による雪合戦もどきが関の山である。

 

 そんなパワーファイタープレイを羨ましくも思いつつ、丸満も強がって進捗を自慢げに話す。


「俺も昨日の内に街の外に出られるようになったから、今日から俺も無双ゲー始めれるな」


「夢だけに夢想ゲー、ってか!?はっはっは!

 ……いや待て。お前、昨日一日分使ってそこかよ!」


 前衛職ならいくばか耐久も高いだろうし、チュートリアルの戦闘は楽だったんじゃないだろうか?と当たりをつけて、あえてみっともない情報をさらす。案の定、すんなりチュートリアルは終わらせて、今は街の外でレベルとアビリティのレベルを上げているところだったらしい。 


「アビリティが上がって、新しい組み合わせができるようになってらもう、脳汁出まくりよ。うまく決まればどんなヤツもワンパンで吹き飛ばせるようになる島。マジで気持ちいい」


「羨ましいなぁ、オイ」


 とはいえ実際、昨日はお互いにヒプノシアにログインできるかどうか、という所からがわからなかったので「一緒にプレイできたらいいな」とは話していたのだ。その点で、一人だけ違うサーバに行ってしまったことは申し訳ない、と丸満は思っていた。

 

「今日は、ヨロでパーティメンバーの募集を探すつもりだぜ。やっぱり、遠出するなら数がいるだろうからな」


「ふぅむ、パーティか。俺は、組んでくれる人がいるかのう」


「お前……」


「おいこら、違うぞ。俺にもゲーム内で友達くらい居るんじゃからな。人気者じゃぞ、俺は」

 

 少ししんみりした空気を笑いで吹き飛ばし、午後の検査に挑む。

 


「うーん、問題ないですね。今夜のテストも受けてもらって結構ですよ」


 ということになった。よかったよかった。

 検査が終わって、待合室に行くと進藤がいた。


「よう。どうだった……」


 声をかけて、気づく。進藤は、力なく笑って言った。


「はは。要追加検査、だとさ。俺は今夜はログインできねえ」


「……そうか」


 かける言葉が思いつかなかった。

 丸満は、実のところアバター問題のためプレイできないと思っていたのだ。だからこそ、自分が検査をクリアしたことで、進藤も問題ないと思いきっていた。

 進藤は、そんな丸満の表情を見ることなく、視線をそらして言葉を続ける。


「なんか、脳波と体のあちこちの筋肉の負荷が怪しいんだとさ。とりあえず今日は様子見、明日の検査でどうなるか、ってところだな

 ひょっとしたら、一日ごとに休憩しないといけねぇだけかも、とは言われたけどよ」


「……あれだな。いきなり体鍛えすぎたんじゃねえか。お前の体、突貫工事じゃん」


「……はは、確かに!」


 進藤は、ゲームをするために体を作り上げるゲーマーだ。無理がたたってガタが来てるだけかもしれない。

「そうだろう?」と言う丸満の慰めは、進藤に前向きになれる言葉だったようで、くっく、と笑って反応を返してくれた。


「明日はプレイできるじゃろ」


「だな。まだ、帰れ、って言われたわけでもねえしな!」


「俺はヒプノシア行くけどな」


「こいつ!」


 肘を当てて、からかった仕返しをする進藤。

 そうだな。未だ希望はある。

 進藤と別れ、丸満は自分に割り当てられた部屋へと戻ってきた。ドリームキャッチャーの電光掲示板には「STAND BY」と文字が流れており、いつでもログインできる状態であることを示している。

 申し訳ない、と思いつつも、心の中で進藤にエールを送る。


(お前も、またあの世界へ行けるさ)


 丸満は、再びドリームキャッチャーへと体を滑り込ませた。

ご拝読ありがとうございます。

次話更新は明日か明後日かな。

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