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8. その者、どうしようもなく貧弱にて ~試験開始~

 アドバイスの通りにアビリティをまとめてみようとするが、やはりうまくいかない。

 試しに【自然魔術(風)】【魔力操作】だけをショートカットにまとめると、無事にショートカットアイコンが作成され、ARウィンドウの端っこに設置できた。

 まとめられるのはアビリティ二つまでなのか?そこでジェノはマルティのほうを向いた。教えてマルティ先生!という表情に、苦笑しながらもうれしそうにマルティは相談に乗った。


「あー、それは単純にレベルが足りてないね」


 質問を受けたマルティは、あっさりと原因を口にした。


「むむ、そうなのか。レベルが足りない……となると、【自然魔術(風)】と【魔力操作】を二つともレベル2にすれば、ショートカットにアビリティを一つ追加できる感じなのかの」


 そういえば【魔力操作】はまだレベル1だった。とジェノが口にする。

 すると、意図した内容で伝わってないことがわかり、慌ててマルティが訂正してきた。


「ああー、違う違う。アビリティのレベルじゃなくてキャラクターレベルのほう」


「そっちか!」


 マルティの補足説明によると、ショートカットにセットできるアビリティの数は[キャラクターレベル/5(端数切り上げ)+1]個までらしい。今のジェノのレベルだと、こういう計算式になるわけだ。

 

  キャラクターレベル/5 + 1 = 0.2 + 1 -> 1 (端数切り上げ) + 1 = 2

 

 と、いうわけで、現在ジェノが一つのショートカットに登録できるアビリティは二つまでとなる。

 ちなみに、このゲームのキャラクターレベルは、所持しているアビリティの内、レベルが存在するアビリティかつレベルの一番低いアビリティのレベルの+5点までしか上げる事ができない。

 他にもアビリティ自体にもレベルを上げられる限界があるようで、[キャラクターレベル+1点]までしか上がらないそうだ。そして、訓練所ではアビリティレベルこそ上げられるものの、キャラクターレベルを上げることができない。的を攻撃してもダメージこそ出るが、破壊――倒すことができないからだ。アビリティに入る経験値は、どうもダメージや回復量に依存するらしいのだが、キャラクターに入る経験値は、対象を倒すことで手に入るらしい。

 そしてキャラクターレベルが1のジェノでは、新しいアビリティを取得するためのポイントも0である。

 つまり現状、【自然魔術(風)】も【魔力操作】のレベルアップ以上にジェノの戦力強化は見込めない。後は、訓練所の教官に認めてもらうことしかやることがないというわけだ。

 となると、レベルを最大まで上げるよりも、まずは挑戦して手ごたえを得ることが大事ではないか。そう思い至ったジェノは、【魔力操作】のレベルが2になった時点で以来の最後のチャレンジを刊行した。

 

「よし、じゃあチャレンジしてくる!」


「いってらっしゃーい」

 

 意気揚々と舞台に上がるジェノを、手を振って応援するマルティ。そして、ジェノは最初の依頼達成の第一歩を踏みしめる。

 模擬戦を申し込んだ5分後、舞台の上にはジェノと、その対戦者が相対していた。注目のジェノが舞台に上がっているということで、周囲も固唾を飲んで、訓練の手を止めて見守っている。

 そんな周囲の様子に、多少の気恥ずかしさこそあれど、平然を装って相手に話しかけた。

 

「よろしく頼む」

 

「ああ、こちらこそ。いつでもいいぞ」


 ジェノと相対するのは、訓練場の職員だ。装備は木でできたショートソードとバックラーシールド。そして手加減を含むのか、見た目いかにも重そうな板金性の全身鎧だ。あまり素早い動きで翻弄されることもないだろう。

 ショートソードは刃渡り80センチくらいの長さ、バックラーシールドは半径20センチくらいの円形の盾だ。


「双方構え……始め!」


 審判の声と共に、さっそくジェノはARアイコンからショートカットを起動する。

 

 「【自然魔法(風)】(風よ)【魔力操作】(在れ)ぇい!」

 

 まずは牽制。球上ではなく、風の塊を生み出し、投げつける。

 しかし職員は、余裕をもって回避できるようで、盾も使わずに風の球を躱してジェノに接近を試みる。

 

「むっ、そうはいかん」

 

 ジェノは、ひょいひょいと飛びのいて距離を稼ぎつつ、風の球を投げつけていく。しかし、ジェノの魔法はどうしてもARアイコンをタップする作業が入る関係上、視界が相手から外れる。

 それ故に。


「……!?ぬ、どこじゃ!?」


 3撃目、一瞬、目を離した隙に職員の姿が視界から掻き消えた。

 

「おじいちゃん、上!」


「なにぃ!?」


 マルティの誘導に従って見上げたジェノの視界には、両手でショートソードを振り上げる職員の姿があった。

 

 

 以降、惨敗であった。

 

 まず、魔法が当たらない。

 ジェノの魔法は、いくらショートカットを作って魔法の発動の手間を減らしたとはいえ、[ウィンドウを引っ張り出す→ショートカットアイコンを押す→発動キーワードを言う] という三手間が必要になる。さらにその後、スキルが発動するまで――風の球が生成されるまでの時間がかかる上、その後は手動で投げつけないといけないのだ。

 その射速は手動である以上、いくら魔法のレベルを上げても変わらないのだ。故に、当たらない。【投擲】を使って命中力を上げるには、アビリティウィンドウから使用する全てのアビリティを選択しないといけないが、そんな悠長な時間はなかった。

 そして、攻撃が避けられない。相対している訓練所の職員はオーソドックスな戦士系だ。魔法を使うこともなく、模擬戦闘の木刀を振り回しての戦い方になる。遠距離戦を考えなくていいものの、逆に魔法使いの身体的ポテンシャルでは逃げ切ることは不可能だった。

 しかも魔法発動のタイミングで都合よく攻撃を仕掛けてきて魔法発動がキャンセルされたり、突進からの一撃は避けれて半々くらいの速さを誇っている。腕の振りなどは、板金鎧の重量はあまり影響していないようだったのだ。

 何よりも、ジェノが攻撃をガードしきれないのが痛い。何をしてもダメージが通るし、ダメージが通ればどうやっても反動(ノックバック)を受けてしまい、体制が崩れる。一旦崩れてしまえば、あとはそのまま押し切られて終了だ。

 戦績としては以下のあり様となる。

 一戦目は一撃でスタンしてしまいTKO。

 二戦目はここぞの攻撃こそ防御できたものの、勢いを殺せずそのまま吹き飛ばされ場外。

 テレフォンパンチより分かりやすく攻撃速度のないジェノの魔法は当たらないし、魔法使い系のジェノでは確実に攻撃をよけることもできずにジリ貧のままズルスルと敗退。

 先ほどの3戦目のラスト3分など、必死に攻撃をよけるジェノを見る職員の目が、気まずい雰囲気を隠さなくなっていた。

 結局、時間いっぱいまで逃げ切った3戦目であったが、逃げ切っただけである。もちろん。結果は然りである。


「……さすがに、合格はやれんな」


「ぐふっ」


 その後も色々と試してみる。

 例えばショートカットの内容を組み替えてみる。しかし、【自然魔法(風)】と【投擲】ではやはり発動直後に魔法が暴発してしまい、攻撃に使えなかった。

 牽制で【魔力操作】だけを使ってみるも、攻撃魔法の体裁をなさず、生ぬるい風をぶつけるだけに至った。全身鎧相手には嫌がらせにすらならない。

 紙一重で避けるようなテクニックも、ジェノ自身のステータスが追い付いてくれないのか、結局避けれて半々の確率。大きく良ければ、その分相手の攻撃回数が増えるので、結局攻めあぐねてのジリ貧となる。

 もはや後は、キャラクターレベルを上げてショートカットにつぎ込めるアビリティを増やし、使っている魔法を強化するしかない。しかし、マルティらのアドバイスによるとプレイヤー同士の戦闘(PvP)は訓練所と同じくアビリティの経験値しか入らないとのことだった。

 つまり、キャラクターレベルを上げるにはモンスターを倒さなければいけない一択なのだ。しかし、ジェノは訓練所の依頼をクリアするまで町の外に出られない。もちろん、街の中にモンスターなど居ない。


「これは……詰んでいるのでは?」


「むぐっ」


 と、ぼそりとつぶやく観戦者の言葉が胸に刺さる。鍛錬場の舞台で蹲るジェノが、無慈悲な呟きに呻く。

 観覧している人間すら、あまりに悲惨すぎる戦力差に、まるでお通夜のような周囲の空気。


「しかし、よくもまぁ今までこんな簡単に詰む事態が発覚しなかったのぉ……」


 ぽつりと漏らしたジェノの言葉に、マルティが気まずげに答えを教えてくれた。


「そもそも、最初に【魔法】のアビリティって()()()()()()から……」


 ……えっ?

 声にならない声でジェノは思わずつぶやいた。

 

「そういやそうだったな。俺も魔法アビリティなかったわ」「ステータスのポイント振ることもできなかったし、選べる初期アビリティってランダムなのかな」「……ふんふん。いや、みんな一緒見たいだぞー!」

 

 周りにも話を聞いてみたところ、キャラメイクの時点で【魔法】系統のアビリティは選べなかったそうだ。


「なんと……ん?じゃあ職員さんたちは俺の魔法アビリティのこと、どう思ってるんじゃ?」


 ふと、ジェノはNPCらからはどういう風に見られているのかが気になった。ひょっとして、魔法アビリティって持っていること自体、すごく希少なのではないのか?

 気になったジェノは、近くに待機している職員に尋ねてみる。すると。


「師匠からの言いつけで街に来たとかじゃなかったのか?ほら、試練的な」


「師匠?」


「ああ。魔法って教えてもらわないと使えないしな」


 話を聞いてみると職員たちは、ジェノのことを若いころから魔法使いに師事することができた幸運の持ち主で、師匠から勉強のため放逐されたものだと思っていたそうな。

 更に、例え【魔法】系のアビリティを先天的に所持していたとしても、魔法使いに弟子入りしないと使うことができないアビリティなのだそうだ。

 ジェノの胸に一抹の不安がよぎる。つまり、ジェノが魔法アビリティを覚えることができたのもキャラメイクの時に発生した()()()()()なのではないか……?

 念願の神アビリティが、このままではチュートリアルもクリアできないゴミアビリティのような印象になってしまう。せっかく魔法が使えるようになったのに。

 このまま停滞していても()()が明かないのも確かだが、おおよそ現行のままで現状打破できるプランが思い浮かばない。

 詰み、である。

 

「……ぐ、ぐぬぬ。またあのブラックアウトのせいなのか……。

 ……し、しかたあるまい」


 ジェノは、決心した。このまま、訓練所で一週間腐るようなゲームをしたかったわけではないのだから。

 正直、使いたくなかった手段を使おう。ジェノは、そう決めた。

続きは明日の予定です。

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