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気楽に楽しめるSF短編集  作者: しまもん(なろう版)
少年とメイドロボと農業
8/10

初めての収穫

翌日、完成した畑で俺は種まきをする事になった。

必要な種は既にメイドロボが用意してくれているらしく、俺はその種を畑に埋めていくだけでいいらしい。

少しだけ穴を掘ってそこに種を植えていくだけ。


そんな簡単な作業をすれば食料が生産出来るのだ!

それはつまり! この苦難の作業からの開放を意味することになる!

ああやった! 俺は終にやり遂げたのだ!

もう肉体労働ともおさらばだ!!

明日からまたのんびりとした日常が帰ってくるのだ!!


そんな浮かれている俺の元に、大きな袋を抱えたメイドロボがやってくる。


<主様。これが種です。これを畑に植えていきます>


そういってメイドロボが差し出してきた物を見て、俺は思考が一瞬停止した。


「・・・は・・・? ・・・お前・・・壊れてないよな??」

<はい。1時間前に自己診断プログラムを実行しましたが、どこにもエラーはありませんでした>

「その自己診断プログラムが壊れている可能性は無いのか?」

<自己診断プログラムはいくつものバックアップが存在しています。その全てが同時に故障する事はありえません>

「つまりは、今のお前は正常なんだな?」

<はい、もちろんです。私は現在、正常に稼動しています>

「では質問だ。それは何だ?」

<これは種です>


そういってメイドロボが差し出してきた種を見て、俺は絶句した。


「俺の目がおかしくないのであれば、お前が持っているそれはレーションの包装紙に見えるんだが?」

<はい。これはレーションの包装紙です>

「・・・・包装紙を畑に植えるのか?」

<はい。包装紙を畑に植えていきます>

「・・・・今から俺は食料を生産するんだよな?」

<はい。今から主様はレーションを生産します>

「・・・は?俺はレーションを生産するの?」

<はい。主様はレーションを生産します>


メイドロボの言葉に、俺は困惑する。


「ちょっとまて。レーションってさ、工場で作られるものじゃないの?」

<はい。大半のレーションは工場で量産されたものです>

「だよね? じゃあさ? こんな畑でさ? レーションを作れるわけ無いよね?」

<ああ、成るほどそういう事ですか。主様はレーションについて誤解があるようですね>

「誤解?」

<はい。基本的にレーションというのは、緊急時に備えて包装紙が種になる様に設計されています。もし、生産施設が壊滅したとしても、包装紙と畑があればレーションが生産出来るように設計されているのです>

「・・・え? マジで?」

<はい。マジです>

「だってそれ、ただの紙だよ?」

<一見するとただの紙ですが、実際はナノマシーンの塊です>

「これナノマシーンなの?」

<はい。この包装紙を畑に植えてから水を与えると、数日後にはレーションが実ります>

「それは・・・、本気の本気?」

<もちろんです。本気の本気です>

「・・・・マジかよ・・・。包装紙すご過ぎだろ・・・」


俺はマジマジと包装紙を観察してみた。


なるほど。

言われてみれば、これはただの紙では無い様に思えてきた。

何となくではあるが、凄い力があるような気さえしてくる。


こうして納得した俺は、彼女から種をいくつか受け取って畑に植え始める。

作業そのものは単純なものであり、30分もしないで全ての種を植えることが出来た。


<お疲れ様です主様。あとは定期的に水を与えればレーションが実ります>

「やっとか。これで食糧問題は完全に解決したわけだな?」



<はい。あとは主様が実ったレーションを収穫し、畑に使用した土を外に捨てて、もう一度畑を作り直し、種を植えて収穫するという作業を繰り返すだけです>



「・・・すまん。よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」



<はい。あとは主様が実ったレーションを収穫し、畑に使用した土を外に捨てて、もう一度畑を作り直し、種を植えて収穫するという作業を繰り返すだけです>



俺の脳ミソは思考が停止しかけた。


「多分聞き間違いだと思うんだが、お前は<畑をもう一度最初から作り直せ>とは言ってないよな?」

<いえ、私はそう言いました>

「・・・一応、理由を聞いておこう。なんでこの畑を再利用してはいけないんだ?」

<はい。包装紙を構成しているナノマシーンは土の栄養を分解してレーションを生産します。その為、一度畑に使用した土にはレーションを作り出す栄養がなくなってしまいます。ですから、新しい栄養豊富な土・・・つまりは、新しい畑を作る必要があります>

「つまりだ。俺はレーションを実らせるたびに、また外から土を回収して畑を作る必要があるという事なんだな?」

<その通りです>

「あれだ、土に栄養を戻すことは出来ないのか?」

<残念ながら、この施設には肥料の備蓄がありません。その為、一から畑を作り直さないとレーションを作ることが出来ません>

「・・・」

<主様?>

「・・・え? じゃあさ? 俺はこれから死ぬまで畑を作り続けないといけないわけか?」

<はい>

「しかも、お前は手伝ってくれないんだよな?」

<はい>

「全部、俺一人でやるわけだ」

<その通りです>

「・・・すまん・・・、・・・ちょっと部屋に戻るわ・・・」


メイドロボと別れた俺はトボトボと重い足取りで部屋に戻り、一人で考え続けた。


・・・こんな重労働をこれから一生続けていくのか?

たった半月程度農業をしただけなのに、既に俺の体はボロボロだ。

もし、これを半年、一年、十年と続けていくのだとすると・・・。


俺は悩んだ。

こんな事を一生続けていくのであるならば、もういっそ餓死してもいいのでは無いだろうか? と本気で考えもした。

それ位、農作業というのは辛いのだ。


結局その日は農作業をする事は無く、俺が部屋から出ることも無かった。

夕飯時になり、メイドロボが俺を呼びに来るまで俺は悩み続けるのだった。



翌朝。

メイドロボが決まった時間に俺を起こしに来る。


<主様、朝です。起きて下さい>


彼女はいつも通りの透き通るような声で俺を起こす。


「・・・今日は、水をやればいいんだよな・・・?」

<はい。これから数日間は水を一定量撒くだけです>

「で、レーションが実ると」

<はい>

「・・・そっか・・・」

<主様?>

「・・・俺さ・・・」

<はい>

「・・・正直・・・、もう農業やりたくないんだよね・・・」

<しかし、そうなると主様は餓死する可能性があります>

「うん、それは理解しているんだ。でもさ、正直辛過ぎるんだよ。頭に超が付くほどの重労働がこの先死ぬまで続くんだろ? 俺・・・、とてもじゃないけど続けられる自信ないよ・・・」

<・・・そうですか・・・。では主様、少しだけ立って頂いてもよろしいでしょうか?>

「何だよいきなり」

<主様に見せたい物があります。どうか少しだけ立って頂けませんか?>

「仕方ないな・・・」


俺は言われた通り立ち上がった瞬間、すばやく彼女は俺の服を脱がした。


「おまっ!! いきなり何すんだ!!」


と、混乱する俺の目の前に、彼女は姿見を持って来る。

そして、彼女は言った。


<主様、見てください。これが主様の今の姿です>


彼女に言われて、俺は姿見を見てみた。

そこには、俺の体が映し出されていた。

鏡の中の俺は全体的に引き締まった肉体をしており、何となく顔も生気に溢れている様に思える。


<ちなみに、農業を始める前の主様はこんな感じです>


そういって彼女は部屋にあったディスプレイに過去の俺の姿を映し出す。

そこに映し出された俺は、ただの肉の塊にしか見えなかった。

ブクブクと太った体に、やつれた顔をした俺がそこに立っているのだ。


<主様。既に主様の体は以前とは別物です。以前の体では農業は重労働だったかもしれません。しかし、肉体が鍛えられた主様でしたらそれほど重労働にはなりません。むしろ、今後も主様の体は成長してくでしょうから、今よりもずっと楽に作業が出来る様になります>

「・・・・・・」

<主様。ここが踏ん張りどころです。ここで踏ん張れば、主様の未来は開けます。私も応援します。主様、どうか挫けないでください>


そういうと、彼女は俺に深深と頭を下げた。

俺は彼女とそれなりに長い付き合いのつもりだが、こんな姿の彼女を見るのは初めてだ。

必死に頭を下げる彼女の姿を見て、俺の心は揺らぐ。


「・・・わかったよ・・・、とりあえず、今回は収穫までやってみるよ・・・」


そんな俺の答えを聞き、彼女は頭をあげる。

その瞬間の彼女の顔を、俺は生涯忘れることは無いだろう。

彼女は、心の底から嬉しそうな顔をしていたのだ。


その後、朝食のレーションを食べ終えた俺は農場へ向かった。

既に農場ではメイドロボが水やりの準備を整えて待機しており、俺が到着するや否や説明を開始する。


<主様、今日から数日間は畑に水を撒く作業となります。しかし、ただ水を撒けば良いというわけではありません。温度や湿度、種の種類や土の状態といった様々な条件を調べた上で必要量の水を計算し、的確な位置に撒く必要があります>

「マジでか、すごい難しそうだな」

<はい。とても難しいです。この計算は流石に主様には難しいので、後で専用の計算機をお渡しします。それを使って計算すれば、大きな失敗は無いはずです>

「分かった。じゃあとりあえず今回はお前が計算してくれるのか?」

<はい。今回の計算は既に終了しています。・・・こちらが計算結果となっています>


そういうと、彼女は一枚のメモを渡してきた。

俺は渡されたメモを参考にしながら、ジョウロに満たされた水を畑に撒く。

時折、彼女の指導を受けながら、俺は水撒きを続けた。


そして、俺が水撒きを始めて数日後の朝のことだった。

いつもの様にメイドロボが俺をお越しに来たのだが、その日の彼女はいつもと様子が異なった。

彼女は清清しい笑顔で、


<主様。おめでとうございます>


と言ってきたのだ。


<畑を確認したところ、レーションが実っている事を確認しました>

「っ! マジで!?」

<はい! マジです!>


俺は寝巻き姿のまま部屋を飛び出し畑へと急いだ。

そして、俺は見た。

長い時間をかけて作った畑から、レーションの包装紙が頭を出している光景を。


「・・・本当にレーションが実っている・・・」


俺は急いで畑に近寄り、地面からレーションを引っこ抜く。

そして包装紙をビリビリに破き、中にあったレーションを口に放り込んだ。


「・・・・・・」


・・・言葉は出なかった。


食べたのが大嫌いなニンジン味レーションだったからでは無い。

不味い味だったから言葉が出なかったのではないのだ。


俺は、感動していた。


生まれて初めて、俺は成し遂げたのだ。

俺は今まで何の苦労もせずに生きてきた。

そんな温室育ちの俺が苦労に苦労を重ね、この糞不味いレーションを作り出すという事を成し遂げたのだ。


俺は一噛み一噛み味わってニンジンレーションを食べ続ける。

噛むごとに口の中に大嫌いなニンジンの味が広がっていく。

だが、俺はその味をじっくりと味わいながら、レーションを食べ続けた。


<主様。おめでとうございます>


気がついたら彼女は俺の直ぐ前に立っていた。


<ここまで見事にレーションが実るとは考えていませんでした。本当に、頑張りましたね>


そういって、彼女はポケットからハンカチを取り出し、俺の目から溢れる涙を拭いてくれた。

恥ずかしい話だが、俺はその時初めて己が泣いている事に気がついた。

何とか涙を止めようとしたのだが、涙は暫く止まる事は無かった。



その後、畑に実ったレーションを収穫し、食料庫に運び込んだ。

食料庫には残り僅かとなった備蓄レーションが棚に積まれている。

俺はレーションの詰まれていない棚に、収穫したばかりのレーションを載せていった。


今回収穫出来たレーションの数は大した数ではない。

しかし、棚に新しく作られた小さなレーションの山を見て、俺は感動していた。

俺は、本当にやり遂げたのだと実感していたのだ。



翌日。

俺は朝早くから農作業を再開した。


<主様? その台車はなんでしょうか?>

「ああ、これな。資材庫を見たら壊れた台車が転がっていたから修理したんだよ。中々よく出来ているだろう?」

<はい。とても丈夫そうです。しかし、それは一体何のために作ったのでしょうか?>

「そりゃお前、農作業を少しでも効率的に行いために決まっているだろう? この台車があれば、土を運ぶのが大分楽になるはずなんだよ」

<成る程。一々袋に入れなくても台車を使えば楽に運べるわけですね?>

「そういうことだ。さあ、今日から農作業再開だ! とりあえず畑に使った土を運び出さないとな!!」


そう言うと、俺は台車を引っ張って行った。


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