弟子になった少年
女性ハンターの弟子となった少年は、師匠が運転するバギーの助手席に座る事となった。
「まずは君の私物を回収しようか。この道の先に荷物は転がっているんだろ?」
「・・・はい・・・」
「ああ、後はご両親の遺品も回収しないとな」
「・・・」
師匠が運転するバギーはボロボロになった高速道路をスイスイと進み、程無くして少年の両親の遺体を発見する。
少年はバギーから飛び降り、母親が持っていたヒートナイフを遺品として回収し、父親が放り投げた荷物から己の私物と僅かに残されたお金を回収した。
少年が荷物を回収している間、師匠は父親が放り投げたであろう拳銃を拾い上げる。
(やっぱりな。この拳銃は粗悪品か。フレームはガタガタだし、銃身も焼け付いている。それにこの火薬の匂い・・・、使った弾も対人用の安い弾だな。こんな弾じゃあロボットに当たっても大したダメージなんて無いんだけどな・・・。いっそ撃たないで隠れた方が生存率も高まったかもしれない)
師匠は拾った拳銃を地面に戻し、遺体が握り締めていたヒートソードを拾い上げる。
「んん? このヒートソードはもしかして・・・」
師匠が興味深そうにヒートソードを観察していると、荷物の回収を終えた少年が近寄って来た。
「なあ。君の父上はどんな仕事していたんだ?」
「父はヒート系の刃物を作る職人でした。そのヒートソードも父が作った物の一つなんです」
「へ~~、凄いじゃないか。このヒートソードな? かなりの一品だぞ?」
「そうなんですか?」
「ああ、ちょっと見てな」
師匠はそう言うと、ヒートソードの電源を入れて刃を赤熱させる。
「ほら見ろ。一瞬で刃が赤熱した。こんな短時間で赤熱状態になるヒートソードは見た事が無い」
更に師匠は、道路に転がっている廃車を使ってヒートソードの試し切りをする事にした。
師匠が構えたヒートソードは、軽く振っただけで廃車を両断する。
「・・・本当に凄いな。全く抵抗無く切れたぞ。これ、街で売ったら最低でも100万円位で売れるぞ」
「え?! ひ、100万円!?」
「ああ。君の父上は相当凄腕の職人だった様だな。あ~~! くそっ! 私がもっと早く来ていれば君の父上も助けられたのに! もったいないことをした!!」
師匠は悔しそうな顔をして地団太を踏む。
「・・・まあ過ぎてしまったことは仕方ないな。よし、このヒートソードは暫く私が預かるよ」
「え?」
「ふふ、そんな顔をするな。大丈夫、売ったりはしないよ。君がこのヒートソードを使いこなせる様になったら、ちゃんと返すから。それまで私が預かるだけさ」
そう言って師匠はヒートソードをバギーの荷台に載せる。
「よし! ではそろそろ本命を狙いに行こうか!」
「本命?」
「そうさ! 私は・・・、いや違うか。私達はハンターだ。ハンターにとっての本命っていうのは手に入れた獲物の事さ。さっき私が何体かロボットを倒しただろう? 今からそれを回収しに行くのさ! さあ! バギーに乗って! 楽しい楽しい解体作業の始まりだ!!」
そういうと師匠はバギーに飛び乗り、少年を手招きする。
手招きされた少年が急いで助手席に座ると、師匠はバギーを急発進させた。
それから数分後、何体ものロボットが倒れている場所に到着すると、師匠はバギーから飛び降りて駆け出す。
少年も急いでバギーから飛び降り、師匠の後を追いかけた。
「さあ、ここからが本番だ。よく見ておくんだぞ?」
師匠はそう言うと腰から小さな工具を取り出し、倒れているロボットの胴体部分を開いた。
「これが見えるな? この青く光る小さな玉だ。これが、私達ハンターの獲物だ」
「これは、何ですか?」
「これはな、ロボット達のエネルギー源なんだよ。一見するとただの青い玉だが、実は半永久的にエネルギーを生み出す事が出来るのさ」
「え? そんなに凄いんですか?」
「もう完全にロストテクノロジーなんだけどな。こいつをいくつも繋げれば、街に必要な電力を生み出す事も出来るのさ」
「成る程。それじゃあ青玉は高値で売れそうですね」
「その通り! まあ私に限らずハンターってのは基本的に青玉を狙っているんだよ。大体、こいつ一つで10万円位にはなるのさ」
「随分と高額なんですね」
「まあ・・・、実際は色々と経費も必要だから、手元に残るのは大した金額じゃあ無いんだけどね・・・。よし! とりあえず講義はここまで! まず君は私の作業をよく見ておくんだ。これから暫くは、青玉の回収が君の仕事になるからね」
それから師匠はテキパキとロボットから青玉を回収していった。
そして、
「じゃあ、最後の一体は君がやってみようか」
と言うと、師匠は工具を少年に手渡した。
工具を渡された少年は慎重に解体作業を行い、回収した青玉を師匠に手渡す。
師匠は渡された青玉に傷が無いかを調べ、
「うんうん。上出来上出来。これなら青玉の回収は任せる事が出来そうだな」
と言って、少年の頭をポンポンと優しく撫でる。
「他の部品は回収しないんですか? 何だか色々とセンサーとかも有る様ですが」
「もちろん青玉以外の部品も街では買い取ってくれるんだけど・・・。正直、買い取り価格が安いんだよ。まあ、回収するハンターも居るだろうけど、コスパが悪いから私は回収しない事にしている」
「そういうことですか」
「よし! じゃあ日も傾いてきたし、拠点に帰るとしようか。さあ、バギーに乗って」
「はい」
師匠は青玉がいくつも入った小さな箱を荷台に固定し、弟子が助手席にしっかり座った事を確認すると、拠点を目指してバギーを走らせる。
それから数十分後、バギーはとある廃ビルの地下駐車場に停まった。
まだ若いハンターである彼女が拠点としていたのは、廃ビルの一室だったのだ。
「このビルは私の縄張りを一望出来るから、色々と便利なんだよ」
師匠はそう言いながら、小さなキッチンでレーションを温め始める。
「まあ、今日は色々あったけど、とりあえず夕飯はしっかり食べるように」
「そうですね。色々と・・・ありました」
「そんなに落ち込むな・・・っていうのは残酷かもしれないが、君には明日から働いて貰わないと困るんだ。だから今日はさっさと寝たほうが良い。ほら、このレーションは中々美味いんだぞ? 熱いうちに食べるんだ」
「・・・あ・・・、美味しいです」
「そうかそうか。美味しいと感じるなら大丈夫だな」
師匠はニコニコと微笑み、レーションを食べる少年を眺める。
簡単な夕飯が終わって後片付けが済むと、師匠は木製のベッドで、そして少年は小さな簡易ベッドで眠った。
二人が眠りについてから数時間後、少年は眠りながら涙を流し始める。
おそらく彼は悪夢に苦しめられていたのだろう、苦しそうな声を漏らしながら彼は眠り続けている。
そんな少年の様子に気が付いた師匠は、ベッドから起き上がって彼の様子を伺った。
そして彼女は少年が眠るベッドに静かに近寄ると、泣きながら眠る彼の頭を優しく撫でるのだった。
少年が女性ハンターの弟子になって1週間が過ぎた。
今日も少年は師匠の指示に従って廃都市を走り回っている。
「A3に獲物が3体。B1から回り込め。10秒後に狙撃を開始する」
少年の耳に装着された無線機から師匠の声が聞こえた。
彼は無線機のマイクを指で軽く弾いて「了解」の意思を師匠に送る。
少年は一週間という短期間で、ある程度の仕事をこなせるようになっていたのだ。
彼は簡易式のパワードスーツを身にまとい、廃ビルの間を縫うように駆け抜ける。
そして少年が無線を受信してからきっちり10秒後、3発の銃声が廃都市に響き渡る。
その直後、彼はA3地点に到着した。
そこには、3体の戦闘ロボットの亡骸が転がっていたのだ。
「今日も大猟でしたね師匠」
少年は回収した青玉を師匠に見せる。
「え~と、今日は何個くらい青玉を回収したっけ?」
「はい。全部で7個です」
「おっ。5個超えは久しぶりだな~」
「そうですね。4日ぶりです」
少年はニコニコしながら青玉を小箱にしまう。
「それにしても、君も仕事に慣れてきたね」
「師匠のおかげです。こんなにも素晴らしいパワードスーツを頂けるなんて、思ってもいませんでした」
「まあ、それは私が使っていた中古なんだけどね。サイズもぴったりで助かったよ」
そんな雑談をしながら、二人は拠点を目指して廃都市の中を疾走する。
「そういえば、青玉って合計でいくつあるんだ?」
「全部で149個です」
「だいぶ溜まってきたな。・・・う~~ん、それじゃあ明日あたり行くかな」
「行く?」
「ああ、青玉を街に売りに行くのさ。それと、そろそろ街の連中に君のお披露目もしないとね」
「僕も街にいけるんですか!?」
「そりゃそうさ。君の顔を街の連中に覚えてもらわないといけないしね」
「やったーーー!!」
少年は嬉しさのあまり、廃ビルを飛び越えるほど大きくジャンプしてしまう。
そんな少年を師匠は見上げて、
「あんまり高く飛ぶと危ないぞ~」
とケラケラ笑う。
しかし、拠点に帰ってきてからも少年の興奮は冷めなかった。
「師匠、夕飯の準備が出来ました。ところで、街ってどんなところですか?」
「そこそこでかいぞ。中にはまだインフラが生きているし、街にいる間は電気や水に困ることはまずないな」
「インフラが生きているんですか! ワクワクします!」
「師匠、お風呂の準備が出来ました。ところで、街ってどんなお店があるんですか?」
「色々あるぞ。ハンターにとって必要なものは全て揃うし、飯も美味い。多少ではあるが娯楽施設もあるしな」
「すごいですね! ワクワクします!」
「師匠、ベッドメイクが終わりました。ところで、街では遊んだりするんですか?」
「そうだな・・・、まあ一週間位は泊まるだろうから、色々と遊び方も教えるよ」
「やった! ワクワクします!」
「師匠、そろそろ電気を消しますね、ところで・・・」
「大丈夫だ! 明日になれば分かるから! もう寝よう! な!?」
「はい!! ワクワクします!!」
そして翌朝。
師匠がまだ眠そうに目をこすりつつベッドから起き上がると、彼女の目の前には旅支度を終えた少年が「いつでも出発出来ます!」という顔をして立っていたのだった。