師匠との出会い
いくつもの廃ビルが乱立する無人の廃都市。
そんな廃都市を貫いている穴だらけの高速道路を、1人の少年が必死に走っていた。
少年は涙を流し、息を切らしながら走り続けている。
何故、彼はこんな場所を一人で走っているのだろうか?
実は、この少年にも5分程前までは両親が存在していた。
だが、既に父親は5分程前に死んでおり、母親も2分程前に死んでいるのだ。
今から5分程前。
少年は両親と共に高速道路の先にある大きな街を目指して旅をしていた。
ボロボロの高速道路を何日も歩き続け、あと1日も歩けば目的地に辿り着けるという所で、彼らは出会ってしまったのだ。
この世界を荒廃させた原因である、戦闘ロボットの集団に。
まだ世界に国家があった時代。
とある国が開発した大人程の大きさをした戦闘ロボットは、戦争の常識を変えた。
大量生産された戦闘ロボットは世界中の戦場で大暴れし、多くの人を殺し、いくつもの国を滅ぼしたのだ。
だが、滅ぼされた国の残党が報復として核ミサイルを乱れ撃ちしてしまう。
その結果、戦闘ロボットを量産していた国も滅んでしまい、地球上には荒れ果てた大地だけが残った。
だが、主を失った後も戦闘ロボット達は動き続けている。
彼らは動くものを見つけると、容赦なく攻撃してくるのだ。
そんな恐ろしい戦闘ロボットの群れが近づいてくる事に最初に気が付いたのは、少年の父親だった。
「お前達は急いで逃げるんだ!」
父親が叫ぶと、母親は幼い少年を抱えて必死になって街を目指して走り始めた。
父親は重い荷物を放り投げ、腰から抜いた拳銃を握り締めると戦闘ロボットの胴体を狙って何発も銃弾を放つ。
しかし、彼に狙われた戦闘ロボットは、素早い動作で弾丸を避けた。
「糞! 弾が切れた!!」
父親は弾の切れた拳銃を投げ捨て、己の腰に装備してあるヒートソードを引き抜く。
だが次の瞬間、ヒートソードを構える父親の胸を戦闘ロボット達の腕が貫いた。
何本もの鋼鉄の腕に胸を貫かれた父親は、血を噴き出しながらその場に崩れ落ちる。
戦闘ロボットは父親が死んだ事を一瞬で確認すると、次のターゲットに向けて走り始めた。
「あなただけでも生きなさい!!」
二人では逃げられないと考えた母親は少年を放り投げ、己の足に装備してある作業用の小型ヒートナイフを構える。
少年はどうすればいいのか分からず、オロオロと母親の背中を見つめ続けた。
「早く! 早く走って!! 逃げるのよ!!」
母親の必死の叫び声に少年は我に返り、街を目指して全力で走り始める。
それから僅か数十秒後、母親の絶叫がボロボロになった高速道路に響き渡った。
こうして、少年は僅か数分で両親を失ってしまったのだ。
少年は走り続けた。
既に彼を守ってくれる家族は一人も居ない。
涙で視界は歪み、全身から汗を噴き出しながら少年は走り続ける。
だが、どんなに必死に走ろうとも所詮は子供の足だ。
素早く動く戦闘ロボット達から逃げ切れるわけもなく、少年のすぐ後ろまでロボット達は迫って来ていた。
少年は必死に戦闘ロボット達から逃れようと走り続けたが、道路に出来た穴に足を取られて転倒してしまう。
勢い良く転んだ少年が後ろを振り返った時、彼の目の前には戦闘ロボットの鋭利な指先が迫っていた。
(ああ、死んだ)
少年が己の死を覚悟した、まさにその時だった。
彼の目の前に居た戦闘ロボットの頭部に小さな穴が開き、戦闘ロボットはその場で崩れ落ちたのだ。
その直後、乾いた銃声が少年の耳に届いた。
一体何が起こったのかわからず、少年はオロオロとうろたえる。
一方で、戦闘経験が豊富な戦闘ロボット達は即座に動き出した。
彼らは、何者かが自分達を狙撃している事を瞬時に把握したのだ。
更に彼らは狙撃手の居る場所も予測し、射線から逃れる様に素早く散開する。
だが、狙撃手はそんなロボット達の動きを事前に予想していたのだろう。
素早く動き回るロボットの頭部には次々と銃弾が命中し、一機、また一機とロボットはその場に崩れ落ちていく。
あれよあれよという間にロボットの数は減って行き、一分程度で戦闘ロボット達は全滅してしまった。
転んだままその光景を見ていた少年は、一体何が起こったのか理解できず、ただただ呆然としていた。
すると遠くから騒々しいエンジン音を響かせ、1台のバギーが現れる。
バギーには一人の若い女性が乗っており、彼女は道路に座り込んだ少年を見つけると、
「おい、君。ちゃんと生きているか?」
と聞いてくるのだった。
頑丈そうなパワードスーツを身にまとった女性はバギーから降りると少年に近寄り、
「なんでこんな場所を一人で走っていたんだ? 他に仲間は居ないのか? 武装はどうしたんだ? まさか丸腰なわけじゃないよな??」
と矢継ぎ早に問いかける。
「あ、あの。お父さんとお母さんが・・・居ました」
「居ました・・・か。なるほどね。じゃあ質問を変えようか。君達はこの先の街を目指していたのか?」
「はい。大きな街だから仕事もあるかもしれないってお父さんが・・・」
「あああ~~。そっかそっか、仕事を求めてね。ん~~・・・」
「?」
彼女は少しだけ難しそうな顔をする。
「ん~~・・・。まあ、君達みたいなのがあの街を目指しているのを時々見るけど・・・。正直、あの街には大した仕事は無いぞ?」
「え?」
「ここら辺じゃあ一番大きな街だけどな。大勢が仕事を求めて来るもんだから、最近じゃあ街に入れるゲートは閉じられているんだよ。それになにより、街中にも物乞いが大勢いるしな。何かすごい技術があるので無ければ、仕事なんてありつけないぞ」
「そんな・・・、じゃあ・・・、僕は・・・」
「あの街に親戚は居ないのか?」
「・・・居ません・・・」
「親と親しい友人は?」
「・・・」
「そうか。じゃあ行くだけ無駄だな。どうせ街の外にあるスラムにすら入れてもらえないだろう」
「・・・そんな・・・。じゃあ・・・、どうしたら・・・」
そんな、今にも泣きそうな顔をした少年を見て、女性はニカッと笑う。
「だが、少年よ。君はある意味で運がいいぞ? どうだ? 私と一緒に来ないか? これでも私はハンターだ。基本的にソロで活動しているんだが、雑用係が欲しいと思っていたんだ。もし君が私について来るなら、弟子として側に置いてやろう」
「・・・え?」
「もちろん生活はきついぞ。だが、このまま街に行っても君は確実に死ぬ。私の弟子になれば生活は保障してやろう。どうだ?」
「い、行きます! ついて行きます!」
「よーしよし。それじゃあ君は今から私の弟子だ。私の言う事にはちゃんと従うようにな?」
「はい! ・・・あの・・・、ところでお姉さんの事は何て呼べばいいんでしょうか?」
「ああ、そうだったな。そこら辺はちゃんとしないといけないな・・・。いいか?」
そして女性ハンターは大きく息を吸うと、まるで勝利宣言でもするかの様に言い放った。
「今後! 私のことは師匠と呼ぶように!」