1話 凡才
ここは武器と魔法が栄えた21世紀日本。
俺、桜井昴輝は日本第二都市東都の帝東高校に通う高校3年生だ。
皆と同じように普通に魔法が使え、普通に武器が使えるなんてことはない普通の学生だ。
路傍の石同然の俺だが、今年は自らの存在をアピールできる年であるのだ。
そう今年2020年は四年に一度開催されるワールドウェポン&マジックトーナメントーー通称ワールドトーナメントが開催される年なのだ。
ワールドトーナメントとは四年に一度開催される世界共通のバトルトーナメントだ。
参加対象は満16歳の男女。
人数制限はなし。
まずは日本での予選が行われる。この予選は2回行われ、1回目2回目の優勝者が世界大会へと枠を進めることができる。
2016年大会ではまだ14歳だったため参加できなかったが、今年は違う。
見事18歳になった俺は参加資格をすでに獲得している……はずだった。
「えー、皆さん今年からワールドトーナメントは人数制限がかけられることになりました。東都が獲得できた学生枠は20人です。なのでうちの学校から参加できるのは1人の生徒だけとなりました」
開いた口が塞がらない。
え、ちょっと待てよ1人ってことは俺間違いなく予選にすら参加できない……?
絶望にうちしかれる俺を他所に校長は言葉を続ける。
「えー、なので公平に決められるように学校内トーナメントを行おうと思います。1年生の皆さんはまだ参加できませんが、2年3年の皆さんは奮って参加してください」
なん……だと……!
俺にとって、いやこの学校の過半数の生徒がその言葉に歓喜した。
確かに予選に参加できる確率はまだ低いが、これでゼロじゃなくなった。
さて、本来であればこれから俺の特訓が始まるのだがその前に紹介しておかなければならない人物が何人かいる。
まずはーー
「けっけっけ、お前ら学校内トーナメントに参加するのはやめときな!この僕が参加するんだ、怪我じゃ済まないかもだぜ!」
この何とも小物臭漂うやつは阪東愛ノ助。いわゆる嫌な奴だ。
本来であればこいつを一番はじめに紹介したくなかったが、予選に参加するためにはこいつが一番の壁になるからだ。
小物臭漂うがその実態は空手、柔道、剣道などの武を極めた帝東高一の実力者なのだ。
「そんな大口叩いてて平気なのかよ?言っておくが今回こそ俺が勝つぜ」
彼は光原雄聖。俺の幼馴染だ。
実家が槍術の道場で、阪東に次いでの実力を持っている。
ちなみにかなりモテる。
「あん?雄聖お前、この僕に勝てると思ってるの?」
「ああ、思ってるぜ。今の俺はお前には負けねえよ」
2人が火花を散らしていると、扉が開いた。
別になんてことはない。普段であれば気にも留めないことだ。
しかし2人は言い合いをやめ、クラスの全員が扉へ視線を向ける。
そこには一人の少女がいた。
彼女は夜野友梨奈。この学校のアイドル的存在だ。容姿端麗、品行方正、文武両道、学生としてこれ以上にハイスペックな人物はいないだろう。
そして彼女こそ俺がワールドトーナメントに参加しようと決意した理由だ。
まあ簡単に言うと彼女に振り向いて欲しいが為に俺は参加を決意したのだ。
「こら阪東くん、光原くん。外まで声が聞こえてたよ。また喧嘩してたんでしょ?」
「い、嫌だな!友梨奈さんとの約束なんだ、喧嘩なんてするわけないじゃないか!な?光原くん?!」
「あ、ああそうだな。安心してくれ俺は喧嘩なんかしてないぜ」
あの阪東ですらたじろいでしまうほどの存在。
ある意味この学校で一番の実力者は友梨奈さんなのかもしれない。
以上がここから重要になってくるであろう人たちの紹介だ。
「あれ昴輝、帰るのか?」
音もなく席を立ち、誰にも気づかれないよう出ようとしていたのに雄聖は俺のことをしっかりと見逃さなかった。
「あ、ああ、ちょっとこれから用事があるからさ……」
「なら俺も帰るから少し待っててくれよ」
「そ、それじゃあこ、校門で待ってる……」
「わかった。すぐ追いつくよ」
足早に教室から去る。
動悸が激しくなり、気分が悪くなる。
「あんなに見られたあんなに見られた。なんで教室で俺に話しかけるんだよ、目立つじゃんやめろよ」
ブツブツ恨み言を呟きながら校門へと向かう。
すると後ろから声が聞こえてくる。
聞き慣れたその声に俺は怨嗟の目を向ける。
「お待たせ、昴輝」
「別に待ってないし」
「あはははっ、そんな拗ねんなって!いい加減目立つの慣れろよ」
「簡単に言ってくれるな?!俺がどんな思いでクラスの中でひっそり静かに過ごしていると思っているんだ!極力人と関わりたくないからだよ!雄聖だって知ってんだろ!?」
「あーあー、そんな怒鳴んなって。そりゃあお前の言ってることはわかるけどよ……、お前そのままだと夜野さんに振り向いてすらもらえないぞ?」
「くっ、俺が一番気にしているところを突きやがって。……しかし俺はこれから変わると決めたんだ!友梨奈さんに振り向いてもらえるように俺はワールドトーナメントに参加することを決意した!」
「……マジ?」
「なんだよ、文句あるのか?」
「言っちゃなんだがお前、すっごい弱いのちゃんとわかってる?」
「いやいや、何言ってんですかもう。そりゃあ雄聖に比べたら僕は弱いですよ、でもそれは言い過ぎじゃーー」
「いやマジで、お前昔から武器を使えば何故か傷だらけだし、魔法を使えば暴発して黒焦げになるわで本当に才能なかったじゃん!」
「なっ、そんなことーー」
ある。
思い出した。初めて武器を持った日、手から武器がすっぽ抜け傷だらけになったこと。
学校で基礎魔法の授業をした日、魔力の制御ができなくて自身の周りで暴発してしまった日のことを。
「お、俺はへ、平均的ですらなかった……だと」
「ま、まあ少し言い過ぎたかもな。そう気に病むなって!まだ学校内トーナメントまで期間はあるんだ、死ぬほど特訓すれば1回戦突破くらいはできるかもだぜ!」
「ううっ、雄聖ぃ……。お前、褒めるフリしてちゃっかり俺のこと貶すのな……」
「いや、そうゆうつもりじゃ……」
そんなこんなでくだらない話をしているうちに俺の家に着いた。
「いいです、いいですよーだ。絶対強くなって見返してやるからな!覚えてろ!」
小悪党のような捨て台詞を吐きながら、俺は家の中へと入っていった。
「まあきっといつも通り、途中で諦めるんだろうし放っておくか」
雄聖はこれと言って俺のことを気にすることなく自分の家へと帰っていった。