時わたりの魔導師
母は不幸な人だった。
家族には愛されず夫には疎まれ。
嫌うなら結婚しなければ、良いのにと思うが、いわゆる政略結婚と言う奴だ。
爵位はないが金のある母の実家と、爵位はあるが金は無い父の実家。
母は俺を産むと直ぐに亡くなったそうだ。
父は愛人に入れ込み母と結婚しても滅多に帰って来なかった。
母が俺を身籠った時。
「誰の子供かわからない‼」と罵った。
酷い話だ。俺は父にそっくりなんだが、出来れば母に似たかった。
毎朝鏡の中には、金髪で額の所に赤毛の筋があり。金の瞳の不機嫌な男がいる。
母のように柔らかなライトブラウンの髪で暖かな青い瞳が欲しかった。
母の日記を見つけたのは偶然だった。
俺を育てたのは父方の祖父母だ。
良い金蔓だったんだろう。
母の父は母や俺に無関心だったが、金払いは良かったからな。
七歳の時。
柱の中に妙な魔力を感じて弄っていると隠し扉があった。
そこに母の日記が隠されていた。
どうやら俺だけが気が付いたようだ。
母の日記は、胸が締め付けられる物だった。
慟哭
まさにそれだ。
母は父を愛していた。
報われぬ愛だ。
だから俺は母を助けようと思った。
時を越えて……
****** ***** ***** *****
俺には、時を操る能力が、ある。
【時わたり】
10歳の時にギフトで神様から授けられた能力だ。
この世界マギシムでは、10歳になると神様からいくつかギフトを授けられる。
なんかの芝居で時の神クロノスのイタズラで、過去に戻った主人公が、ひょんな事から両親の出会いを邪魔してしまい主人公が、消えそうになって必死で両親をくっ付けようとするドタバタ喜劇が、あったが……
俺は、その逆をやろうと思う。
あの糞男と母が、結婚しなければ、母は牢屋で死ぬ事にはならなかっただろう。
トバッチリを受けて侍女や護衛騎士も牢屋に入る事は無かったんだ。
だから俺は父を殺そうと思う。
母と婚約する前に殺せば、母は苦しむ事無も悲しむ事もなく。
平凡な下級貴族と結婚して、牢屋で死ぬような惨めな人生を送らずに済むだろう。
まあ 父を殺せば、俺は消えるが問題ない(笑)
だが、別の問題はある。
【時わたり】の能力を使うのは、魔力の消耗が激しいので魔石に魔力をため込ばねばならない。
うん。これが面倒くさいんだ。
行って帰るのに40個の魔石がいる。
俺は20歳の時に【時わたり】のスキルを使い時をこえた。
ああ……屋敷だ。
古くてボロいな。
金が無くて手入れが出来て無いんだ。
今の屋敷は、母親の持参金で屋敷も庭も立派に手入れされている。
奴は、何処だ?
音を立てず草むらを身を隠す。
庭も雑草まみれだ。
池の前に奴がいた。
母と父が、婚約する前だから7歳か?
奴が10歳、母が8歳の時婚約したと日記には書かれていた。
「やあ」
俺は10歳の奴に挨拶した。
「お前は、誰だ?」
奴は胡散臭げに俺を見る。
「今日は、さようなら」
俺は奴を池に突き落とすとついでに雷魔法を叩き込んだ。
バチバチバチ‼
魚と奴が、池に浮かんだ。
任務完了♪
騒ぎを聞き付けてメイドが来る前に俺は時を駆けた。
「??まだ消えていない。失敗したのか?」
日記には、奴が、7歳の時何者かに殺されかけたが、執事に助けられたと書き記しってあった。
「ちっ。運の良い奴め‼」
奴の愛人が住む下町が大火事になり。
その放火犯として母と侍女と護衛騎士が捕らえられた。
本当は愛人が住む家の隣にある廃屋に浮浪者が住み着き。
そいつの焚き火が強風に煽られ辺りに火の粉が飛び散ったのが原因らしい。
母の侍女と護衛騎士は、秋に結婚する予定だったとか…
彼らは、どうなったんだろうか?
母の日記には、記されていない。
恐らく拷問の末、獄死したのだろう。
嫉妬に狂った母が火を付けたと父は考えた。
そして臨月で動けない母の代わりに侍女と護衛騎士が火を付けたと妄想した。
一週間後母は、牢屋の中で俺を産んだ。
そして亡くなった。
酷い扱いだ。
伯爵婦人が、平民の牢屋で出産したんだ。
牢番に金を掴ませ面会に訪れていた母の乳母が、産み落とされた俺を見つけた。
へその緒の始末をして俺をショールに包むと日記を持ってその場を後にした。
母の乳母は俺の髪と目を見て、俺が奴の子だと直ぐに分かったそうだ。
俺の髪と目は、奴と同じで金の瞳に金髪で前髪だけ血のような赤い髪だからだ。
父の一族の特徴だ。
金髪で前髪だけ赤いメッシュになっている。
何でも三百年前の勇敢なご先祖様も同じ金髪で赤い髪の二毛で金瞳だったらしい。
俺は父方の祖父母に育てられた。
金蔓は逃がさないってことか?
奴は母が無くなる2・3日前から行方不明になっていた。
町の騎士団長だったらしいが、火事で愛人が死んで荒れまくり。
酒と喧嘩に明け暮れ突然居なくなったと祖父母は語る。
見つけ出して殺したい所だが、まずは母を助けねばならない。
****** ***** ***** *****
奴が馬車に乗っている。
母と婚約する日だ。
森の中。
俺は【魔物香】を焚き馬車の上に放り投げた。
魔物が、集まってきた。
しかし‼
それに気が付いた執事が馬車の屋根に這い上がり、魔物香を川に捨てると風魔法で匂いを飛ばしてしまった。
追いかける魔物達を土魔法で閉じ込めそのまま逃げ切りやがった‼
なんなんだあの執事‼
忌々しい。
そう言えばあの執事。
俺が物心つく頃には居なかったな。
どこ行ったんだ?
次の機会を伺うと屋敷の中と移動中に警備が厳しくなっていた。
次のチャンスは、騎士学校の入学試験の時か。
忌々しい事に結界が、張られて近付けない‼
このままグズグズしていたら母と奴の婚約が成立してしまう‼
仕方がない。
俺は母を拐いに母の実家に向かった。
母は一人ポツンと庭のブランコに乗っている。
母は庭のブランコが大好きだと日記に書かれていた。
「お嬢ちゃん今日は」
「こんにちは。あなたは、……あなたは……私が牢屋で産んだ息子‼」
驚いた事に母には記憶があった。
「名前も付けてあげられなかった。名は誰がつけたの?」
「母さんがメモしていた名前の中からマリオと付けられました。ここに居ても母さんは、不幸になるだけだから。俺と一緒に行こう」
俺は、母を連れて時を越えた。
母が死んでいる世界に戻った。
俺は母を養女にした。
***** ***** ***** *****
「ごめんなさいね。貴方を産んですぐ死んでしまって。きっと貴方には、大変な苦労をかけたんでしょうね」
俺が創った自動人形が入れたお茶を飲みながら、母がすまなさそうにそう言った。
「そんな事はないよ。金には、困らなかったし」
母の乳母が俺を牢屋から連れ出したことや、その後父方の祖父母に育てられた事。
祖父母が15歳の時に亡くなると伯爵家を継ぎ。
18歳で祖父の弟に伯爵家をゆずり、俺は国境の近くの森に移り住んだ。
今は魔術の研究に明け暮れている事を話した。
時わたりの研究の為に森と湖のそばの屋敷を買い取り自動人形達とひっそりと暮らしている。
「まーくん今幾つなの?」
「まーくん?」
「マリオ・ランウェイだからまーくんだよ」
「ははは…25歳だよ」
「凄い。まーくん天才何だね。お母さん鼻が、高いよ‼」
母は笑ってそう言ってくれた。自慢の息子だと笑ってくれた。
「旦那様オ客様デス」
自動人形が、そう告げた。
「行って来なさい。お客様を待たせては駄目よ。私はブランコで遊んでいるわ」
応接室に客が、いた。
ずいぶんくたびれている冒険者風の五十代の男が、そこにいる。
「私は、お前の父だ」
視線を合わせずに男は言った。
「何の用だ?金の無心か?」
何度も殺りそこなった男がそこにいた。
殺意が溢れる。
殺っちゃおうか。
しかし客間の絨毯は母のお気に入りだ。
汚したくない。
「随分勝手だと思うが、お前とシェナに謝りに来たんだ」
「謝ったって牢屋で死んだ母は、帰って来ない」
「えっ? シェナが死んだ? いや…だって…執事のゴッドはここでお前とシェナが暮らしていると言ったぞ」
「シェナと言うのは、俺が、養女にした子供の名だ‼」
ほんとは、本人だが。
執事の野郎は、何処で聞き付けたんだ?
本当に忌々しい‼
「嘘だ‼ シェナに会わせてくれ‼ 謝らなければ…放火をしたのは、チェリーとその情夫のサムエルだったんだ。チェリーは、放火の罪をシェナに着せて本妻に収まるつもりだったが俺がその話を聞いて二人を切り殺して国外に逃げたんだ。シェナは直ぐに無実だと釈放されたと執事が言っていたぞ」
「執事は嘘をついたんだ」
まあ完全に嘘では、無いが。俺は、こいつを母に会わせるつもりは、無い。
「嘘だ‼ 嘘だ‼ 嘘だ‼ 嘘だ‼ お前は嘘をついている‼」
奴は俺につかみかかる。
ああもうめんどくさい。
俺は300年前に奴を捨ててきた。
魔王と魔獣が暴れる暗黒時代に(笑)
これで付きまとわれなくてすむ。
俺は元の時代に戻った。
……はずだった。
「えっ?ここは、どこだ?」
俺は青い空と白い雲が水面に写っている空間に浮かんでいた。
「やあ!よく来たね。」
一人の執事が、逆さまに浮かんでいる。
「お前は、執事?」
「そうランウェイ家の執事でございます。名はゴッド・イーター」
初老の男はニヤリと笑い頭を下げた。
「真の名は、クロノス。時の神だ」
「俺にギフトを授けた神か‼」
「いかにも君にギフトを授けたのは私だ」
「何の為に?」
「うん。シェナが結婚して子供を産んで老衰で死ぬ頃に、魔神対戦が起きるんだ。君の所に戦士の一人が尋ねて来る。勇者御一行様を引き連れて時を越えて戦ってもらう。これ決定事項ね。君に拒否権は無い(笑)」
「はあぁ~~~~!」
「シェナとの時間は魔神対戦が起きるまでの戦士の休息だよ。まあ準備期間でもあるが(笑)」
クロノスは、手を振り俺に別れを告げる。
「ああ……それから君の父親ね。暗黒時代に王様助けて君のご先祖様になるよ(笑)シェナの日記を君に見つけさせたり。シェナの記憶があるのも私の仕業だよおおおぉぉぉ~~~~ん♡」
ムカつく顔で笑いやがる。
「彼や君は死んでもらっては困るから。君も薄々行けない時間があるのに気づいていただろ。私が、邪魔してたんだよ。メンゴ♡」
「一発なぐらせろおぉぉぉ~~~~~‼」
俺は、落ちながら叫んだ!!
全くとんでもない神である。
まあ神様の言う通りしばしの休息を満喫するか。
***** ***** ***** ***** *****
シェナの墓の前に俺は花を置く。
母の好きだった黄色い花だ。
「じゃ。母さん行ってくるよ」
俺は、立ち上がり後ろにいる勇者達の元に歩いて行った。
俺達は時をかけた。
~Fin~
★マリオ・ランウェイ
【時わたり】の魔導士。
★シェナ
マリオの母。マリオを産んで獄死する。
ギデオン・ランウェイ
マリオの父親。ろくでなし。
★チェリー
ギデオンの愛人。シェナを陥れ本妻になりたい。
★サムエル
チェリーの愛人。ギデオンに噓を吹き込む。
★ゴット・フリート執事
時の神




