テーマ×テーマ小説 (主人公:ナルシシスト(ブス)×現場:城)
こんにちは、葵枝燕です。
この作品は、我が姉の唐突な思いつきから書き始めた作品の第四弾です。
それから、私、葵枝燕主催の企画[テーマ小説の会]第一回の参加作品です。主催者が今のところ一番出すの遅いという……。
詳しくは、裏話も交えつつ、後書きにて語りたいと思います。
それでは、どうぞご覧ください!
窓を開け放ち、深呼吸をする。ここから見える景色は、いつもと同じ美しさだ。その美しさごと、吸い込んでみる。
「従者A!」
あたしは大きな声で、そう呼んだ。部屋の隅で何かが蠢く気配がする。振り向かずとも、蠢く気配が陰気な何かをまとっていることを、肌で感じた。
「何でしょうか、我が愛しの姫君よ」
その言葉は、これ以上ないほどの棒読みだった。もしもこの国に、“棒読み選手権”なるものがあったとしたら、間違いなく、文句なしで、優勝できると思えるほどに。
「ちょっと! 何なの、その棒読みは!」
あたしは振り向かずに、一応抗議の声を上げてみた。でもすぐに、
「……ま、いいわ」
と、そんな言葉がついて出た。この陰気というか根暗な気配にも、それが発する棒読みにも、慣れっこなのだ。だから、仕方ないといえば仕方ないし、どうでもいいといえばどうでもいいのだ。もちろん、あたし好みの反応をしてほしいという思いはあるのだけれど――それを従者Aに求めるだけ、無駄な気がしている。
「……いいのかよ」
ボソリと、従者Aが呟く。そこに、この日初めて、呆れという色が混ざった。
「さぁ、従者A!」
あたしは太陽の位置を確かめながら、そのときを待った。
「正直に答えてちょうだい!」
「……ハイ」
乾いた声が背後で答える。おそらく、いやきっと、さっき以上に呆れているに違いない。
太陽が、ゆっくりと雲間から顔をのぞかせる。来た――思わず、笑みが浮かんだ。
あたしは振り向く。きっと、太陽があたしの背を照らして、絶好なシチュエーションに違いない。
「この国で一番、最も、誰よりも――美しいのは、誰かしら?」
部屋は明るさで満ちていた。それなのに、部屋の隅に跪いている従者のまとう暗さといったら、そこだけが切り取られた別世界のようなのだ。どうしてこんなに爽やかな朝に、こんな暗いものをまとえるのか――未だにあたしには理解できない。
「正直に申してよろしいので?」
従者Aは、遠慮しているのか、そんな言葉を寄越してくる。あたしはその言葉に、
「もちろん」
と、言いながら、頷いた。
「では、遠慮なく」
従者Aの口元がゆがむ。それが、彼なりの微笑のかたちなのだ。いつだってそうだ。にこやかに笑むということを、この男は憶えない。
「この国で最も美しいのは、あなたですよ――愛しい姫君」
やけに涼やかな声が、男の唇からこぼれた。あたしの身体が、いっきに熱を帯びる。
「……なーんて、本心で言うと思ったのかよ?」
涼やかな音から一転、今度は冷えた声がこぼれ出した。一瞬、あたしの思考が停止する。
「お前さ、鏡見たことあるか? どっからどう見ても、お前を“美しい”なんて思うヤツ、いないだろうが。王様も、王妃様も、お前のお兄様やお姉様も、みんなあんなに輝くほどに美しいってのに、何でお前は――」
「ああ、もう! お黙り!」
胸の内で、ズキリという音が聞こえた。こいつに訊いたのが間違いだったと思った。本当はわかっていたのだ。従者Aの口から、あたしを褒め称える言葉など、出るはずがないことくらい。
「例えたら、ウシガエルみたいな顔してるし」
「お黙りって言ってるでしょう!?」
いつだってそうだ。あたしの望む答えを、この男はくれない。バカにして笑うだけだ。
「いいわよもう! あたしの美しさは、あたししか知らないものね! あんたみたいな常人には理解できないと思うけど! それに百歩譲って、あんたの言うとおりにあたしが美しくないとしても、人間はね中身、性格がよければいいのよ!」
「なんか、都合のいい解釈しやがってますけど、人はまず見た目からっていうぜ」
「なーにぃ? よく聞こえなかったわぁ?」
「てめぇ……」
そう。誰が何と言おうとも。あたしの美しさは、あたししか知らないんだもの。それだけを、知っていればいいのだもの。例え、この男の言うとおり、あたしの見目が悪かったとしても、そうやって表面だけしか見ないなんてありえない。あたしだけが、あたしを愛せるんだから。あたしの全てを愛せるんだから。
「さ、出かけるわよ! ついてきなさい!」
「お前と? 俺が? 勘弁してくれよ。城下の連中に何て言われるか……」
「あんたの意志なんて、聞いてないし聞かないし興味もないわ。あたしはこの城に住まう姫で、あんたはその従者――その意味がわからないなんて言わせないんだから」
グチグチと文句を並べ立てる従者Aを急かすように、部屋から出る。廊下も明るさが満ちている。何だか今日もいい日になりそう――あたしは、そう思ったのだった。
『テーマ×テーマ小説 (主人公:ナルシシスト(ブス)×現場:城)』のご高覧、ありがとうございます。
この小説は、前書きでも述べたとおり、私の姉の唐突な思いつきで書くことになった作品です。その思いつきというのが、「主人公と現場のテーマを五つずつ出し合って、それぞれから一つずつ引いて、それで何か書こうぜ!」と、いうものです。
そして、第四回となる今回のテーマが「ナルシシスト(ブス)×城」でした。主人公テーマは私の考案で、現場テーマも私の考案です。前回とは逆ですね。
話としては、見目麗しくない姫君がいて、それでもそんな自分のことを誰よりも愛している――という感じですよね。うん、それしか浮かばないです。
私は別に、ナルシシストでもいいじゃないって思うんですけど……それは多分、私自身がそうだからなのかなぁって思ったりして……うわぁ……言いながら、引いてくるわぁ。でも、結局のところ、そんな私が私は好きだったりするのです。
そんなこんなで、今回もどうにか、無事に一つの話を作り上げることができました。企画の〆切に間に合ってよかったです。
第五回のテーマはまだ決まっていません! 次のテーマは何になることやら……。
さてと。今回はこのへんで。
この度は、拙作のご高覧、誠にありがとうございました!