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エピローグ ずっと一緒に

 さて、学校のみんなのところに帰るのはいいんですけど、これだけ盛大に失踪して騒ぎにしてしまった今、どんな顔で戻ればいいやらです。

 しかも、こちらには魔王状態のフレア君もいるので、このままだと何かとややこしいことになるのは明白です。

 帰るまでの間に、みんなであれよこれよと言い訳を考えてみましたが、特に思い付かず……。


「……それで、魔王崇拝者に拉致されて、拉致された先で自分を魔王だと思い込んでいる男の子を保護したと」


「はい! そうです!」


「待て、我はちゃんと魔王だ! 思い込みではない!」


「ほらこの通り」


「なるほど……よほど辛い目にあったのね……」


「やめろ! 我をそんな可哀想な物を見る目で見るでないわーー!!」


 結局、先生には馬鹿正直に話すことにしました。

 まあ、今のフレア君を見て魔王だとはとても思えませんし、魔王崇拝者に拉致されたってところだけは信じてくれたのか、衛兵さんに報告して調査に動いて貰えるみたいなので、それでよしとしましょう。


「けど困ったわねー、この街の子でもないみたいだし、魔王崇拝者に捕まっていたのなら、衛兵に預けて親元を探すのが一番だけど……」


「あ、いえ、この子の実家は王都の方にあるそうなので、このまま一緒に連れて帰りましょう!」


「いや、我に実家などなごふぉ!?」


「ほら、フレア君もそう言っています!」


「どう見ても何か言う前に黙らされてるんだけど」


 余計なことを言う前に、ルル君の拳が物理的にフレア君を黙らせますが、先生には筒抜けでした。

 けれど、実家云々は嘘にしても、このままここに置いていったら危ないですし、どうにかこうにか連れて帰らないとです。


「大丈夫です! フレア君は私が責任もって面倒見ますから!」


「おい待て貴様、その言い方ではまるで我がペットか何かのように聞こえるのだが」


「あ、うちはもうペット2匹飼ってますから、ちょっと増えるくらい大丈夫ですよ」


「むしろ喜々としてペット扱いしようとしていないか!?」


 先生に力強く宣言すると、フレア君(魔王)は焦ったように声を荒げます。

 まあ、ペット扱いはさすがに言い過ぎかもしれませんけど、それで連れ帰れるなら安いものでしょう。多分。


「えーと、まあ、先生。僕の実家なら手広く商売もやってますから、実家探しには最適だと思うんです。それにこいつ、魔王崇拝者の実験で体内にリリィ並……よりはちょっと、いや大分落ちますけど、かなりの魔力を宿しちゃってるみたいで、このまま暴走させないためには学園で魔力制御について学ぶ必要があると思います」


「なるほど」


「待てぇい! 我は魔王だぞ!? それが人間ごときに負けるはずが……」


「は?」


「……なんでもないのである」


 ルル君に気圧され、あっさりと委縮するフレア君(魔王)。

 魔王ってなんでしょうね?


「まあ、いいか。魔王崇拝者の実態については王都でも情報を欲しがる人はたくさんいるでしょうし、証人扱いで連れ帰りましょう」


「はい! ありがとうございます!」


「待てぇい! 貴様それでも教師か!? こんな怪しいガキを生徒と一緒に行動させていいのか!? んん!?」


「自分で怪しいっていうやつは大体怪しくないんだよ。昔の偉い人が言ってた」


「誰も言っておらんぞ!?」


 フレア君(魔王)のツッコミが炸裂するも、先生は何食わぬ顔で「じゃあ、色々あったし、明日には王都に戻るから、ちゃんと準備しておくように~」と軽い調子でその場から去っていきました。




「はふぅ……」


 帰り支度を整えるため、部屋に戻った私は、ぎゃあぎゃあと騒がしいフレア君(魔王)を(物理的に)寝かせた後、明日の帰り支度を整えた私は、一度は私の誘拐現場となったバルコニーに出ていました。

 気絶していたせいで時間の感覚もよく分からなくなっていましたけど、なんだかんだ、あれからほんの数時間しか経っていないんですね。もうお化けが出てもおかしくないような時間帯ですけど、色々あり過ぎて疲れているはずなのに、今はあんまり眠くないです。


「リリィ」


「ふわっ!? ……なんだ、ルル君ですか」


 じっと夜風に当たっていたら、不意に後ろから声がして。

 振り向いてみれば、案の定ルル君でした。


「眠れないの?」


「あはは、あまり怒られはしませんでしたけど、結局私のせいで修学旅行は中断になっちゃいましたからね、ちょっとみんなに悪くて」


 実のところ、今回はお尻ぺんぺんじゃすまないんじゃないかなー、なんて思ってたんですけど、蓋を開けてみれば先生はいつも通りでしたし、フレア君(魔王)のこともまるで信じてはいないものの任せてくれましたし、何だかちょっと拍子抜けというかなんというか。


「まあ、先生もリリィのことは心配してたからね。無事だったことを喜ぶべきか、変なの連れていつも通りの調子で戻ってきたことを怒るべきか、迷ったんじゃない?」


 そう言って、ルル君はふっと微笑みます。

 月明りの照らすバルコニーで、ルル君の銀髪が光に照らされ煌いて、その笑顔はなんだかすごく、幻想的に映ります。


「そういえばリリィ」


「あ、はい、なんですか?」


「フレアに聞きたかったことって何?」


 じっと見ていたことに気付いていないのか、不意にルル君がそう尋ねてきます。

 一瞬、どう答えたものか迷いましたけど、ルル君なら特に隠すこともないかと、素直に答えることに。


「フレア君言ってたんです、器に魔王を取り込んだらどうなるか分からないって。それなのに、どうして魔王を復活させようなんて思っていたのか、聞いてみたいんです。何だか、それを言っていた時のフレア君、寂しそうに見えましたから」


 言ってしまえば、それだけの理由です。このまま、フレア君の本心も分からないままに終わるのはもやっとするっていう、それだけの。

 そう伝えると、ルル君はいつもの苦笑を浮かべます。


「優しいね、リリィは」


「そんなことないですよ。すっきりしないのは嫌いなだけです」


「じゃあ、そういうことにしておいてあげる」


「むぅ……」


 ぽんぽん、と私の頭を撫でるルル君に、少しだけむくれてみせるも、大して気にした様子もありません。

 ……こうなったら、ちょっとだけ仕返ししちゃいましょう。いつもいいようにあしらわれてばっかりですし。

 そう思い、私は頭の上に乗ったルル君の手を握ると、そのまま引き寄せます。


「リリィ?」


「ルル君、そういえば、今日助けて貰ったお礼、ちゃんとしてませんでしたよね?」


「そうだっけ? というかまあ、僕がリリィを助けるのは当然なんだから、別にお礼とかはどうでも……!?」


 お礼なんていらないとか、そんなことを言い出したルル君の手を、もう一度強く引き寄せて。

 本当にすぐ傍まで来たルル君の頭を、そっと抱き寄せて。

 抵抗も出来ず目の前まで来たルル君の顔に、私もまた顔を寄せて……。

 ちゅっ――と、ほんの少しだけ、唇を重ね合わせました。


「……へ?」


 ポカーンと、間の抜けた表情を浮かべるルル君に、今度は私がくすくすと笑みを浮かべ、そして。


「好きですよ、ルル君。魔眼とかなんとか関係なく、私の本心から、ルル君の全てが」


 あれやこれやと言いながら、いつもそばにいて私を手伝ってくれる、お世話好きなところも。

 いざという時、いつも一番に駆けつけて守ってくれる、カッコイイところも。

 全部全部、大好きです。

 そう告げると、ルル君はその顔をみるみるうちに赤く染め、見たこともないほど狼狽し始めました。


「い、いや、あの……その、ぼ、僕も……」


「はい?」


「……僕も好きだよ、リリィ」


「ふふふ、はい!」


「うわっ!?」


 一世一代の私の告白に、同じように好きだと返してくれたルル君に対し、私は体全てを預けるように、勢いよく抱き着きます。

 フラつきながらも受け止めてくれたルル君に、私はめいっぱいの笑顔を向け、言いました。


「それじゃあ、王都に帰ったら、まずは二人でお父様とお母様のところに行きましょうか。今回のこと、説明しなきゃいけませんし」


「え、えぇ!? いきなり!?」


「だって、フレア君(魔王)のこと、お母様達なら何か知ってるかもしれませんし」


「あ、ああ……そういう……」


「……もちろん、そっちの挨拶も兼ねてですよ?」


「っ!?」


 ルル君の耳元で囁いてみれば、これまた面白いように目を白黒させてくれます。

 ふふふ、なんだかこういうの、新鮮で楽しいですね。


「り、リリィ!」


「あはは、ごめんなさい!」


 いい加減からかわれていると気付いたのか、怒りだしたルル君から素早く体を離すと、そのまま手を引いて、部屋の中へ向かいます。


「ちょっ……」


「でも、せっかくですから今夜は一緒に寝てくれると嬉しいです。また何かあったら怖いですから」


「……分かったよ、先生には僕の方から説明しとく」


「はい、ありがとうございますっ」


 ルル君と一緒に寝られることになって、私が満面の笑みを浮かべると、ルル君は照れながらも、同じように笑みを零す。


「これからも、ずっとずっと、一緒にいてくださいね、ルル君」


「うん。もう、離さないから」


 手をもう一度、強く握り直しながら、お互いにそう告げ合って。そんな私達を祝福するかのように、夜空を一条の星が流れて行く。


「……我、空気だから。いないものとして扱って」


 そんな私達二人だけの空間に響いた、悲しみに満ちた声も。

 今の私達には届くことなく、ただ虚しく消えていくのでした。

はい、露骨な打ち切りエンドですが、せめて最後に二人の甘々な空気を……。


という建前はさておいて、どうしてこんな形で終わらせたのかと言いますと、この先の展開をどうするか迷うというのもありますが、それ以上に、一度設定を一から練り直す必要性を感じたからです。

元々この作品、見切り発車のライブ執筆でどこまで行けるか試してみようという思い付きで始めたのですが、作者自身リリィのことが思いの外気に入りまして、どうせならちゃんと本腰を入れて、彼女(彼?)の望み通りカッコイイところも描いてやりたいなと思った次第で、そのためにリメイク大作戦を決行することにいたしました。


リメイク版はある程度書き溜めてから投稿するつもりなので、早くとも半年ほど先になるかと思いますが、もしその時に記憶の片隅にでも今作品のことが残っていれば、今度こそ男らしく(?)奮闘するリリィの活躍をお楽しみいただければと思います。


それでは、また。

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