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第九十一話 とりあえず一件落着、です?

 目を覚ますと、ルル君がおっかない顔で涙目のフレア君に剣を突きつけていました。

 ……えーっと。


「ルル君、いじめは良くないと思いますよ?」


「いじめじゃないから!?」


 私が注意すると、ルル君は心外だとばかりに声を上げます。

 えー、違うんですか? でも、この絵面はどう見ても……。

 そう思って、傍にいたモニカさんと、実際に剣を突きつけられているフレア君に視線をやると……。


「いじめである」


「いじめですね」


「コイツはともかくモニカは本当にどっちの味方なの!?」


 2人揃ってルル君を責めるので、私もじーっと見つめてみると、ルル君はうっと言葉を詰まらせます。


「いや、その……フレアは魔王になるし、リリィは昏睡しちゃうし……余裕なくて」


 バツが悪そうにそう言うルル君に、私は少しだけ笑みを浮かべ、傍に駆け寄る。

 そして、そのまま抱きしめた。


「うわっ、ちょっ、リリィ!?」


「えへへ、冗談ですよ。助けに来てくれてありがとうございます、ルル君」


 ぎゅっと力を込めると、反対にルル君の力が抜けて、剣が下がる。

 そんなルル君の顔を見上げ……。


「カッコよかったですよ。大好きです」


 そう言って、にこっと笑顔を浮かべました。


「……ええと、その……ど、どういたしまして?」


 顔を赤くしながら、あたふたと言葉を紡ぐ姿がなんだか可愛くて、くすくすと笑みを零す。

 そんな私に、ルル君は小さく溜息を吐いて、軽く抱きしめ返しながら、頭を撫でてくれます。

 えへへ、気持ちいい……。


「……我、もういらんのじゃないか? 帰ってよいか?」


「私に聞かないでください」


 私達の後ろで、モニカさんとフレア君が何やら喋ってるけど、声が小さいのでよく聞こえないですね。

 まあ、何はともあれ、これからどうしようかと思っていると、外からドタバタと足音がし始めました。何事でしょう?


「おーい、終わったかー?」


「ひやぁぁぁぁ!?」


 扉を蹴破らんばかりに飛び込んできたのは、マリアベルさんを脇に抱えたヒルダさんでした。

 直後、廊下をドコォォォン! と魔法らしき何かの破壊音が響いて行った気がするんですけど、気のせいでしょうか?


「終わったと言えば終わりましたし、何も終わっていないと言えば終わってない、でしょうか?」


「うん? ……おお、リリィ、無事だったか! よかったよかった!」


「あ、はい、お陰様でこの通り、五体満足です!」


 ルル君から離れ、バンザーイっと両手を上げて無事なのをアピールしていると、ドタドタとまたしても音を立てて、たくさんの人が雪崩れ込んできます。

 みんな同じような外套を羽織って、すごく怪しい感じですけど、流行ってるんでしょうか?


「貴様らぁ! 我らに盾ついてどうなるか分かって……って、うおぉ!? 魔王様ぁ!?」


「この禍々しい魔力……間違いない! 復活しておられたのか! いつの間に!」


「お主ら、我の信者……なのだよな? 本当に信者なのか?」


 飛び込んで来た人達とフレア君が、魔王やら何やらと言っていますけど……あれ? 復活?


「フレア君、もう中に魔王が入ってるんですか?」


「入っているではない、我は魔王だ」


「フレア君から出て来なさい~!」


「うおぉ!? 貴様、何をする!?」


 フレア君(魔王?)に詰め寄って、その肩をガクガクと揺さぶってみます。

 うーん、出てきませんね、どうしたものでしょうか?


「ちょっ、リリィ、危ないって!?」


「貴様、魔王様に何をしている!」


 私の行動に驚いたルル君が、慌てて私をフレア君から引きはがし、不審者……多分、魔王崇拝者? っぽい人達が殺気立った様子で私に杖を向けて来ます。

 むぅ、邪魔ですね!


「この子はフレア君です、魔王なんかじゃありません!」


「それは器の名だ、もはや存在しない」


「いいえ、そんなことありません! というか、たとえそうだったとしても絶対取り戻させてみせます!」


「ちょっ、落ち着いてリリィ、急にどうしたの?」


 叫ぶ私の肩をルル君が叩き、困惑した様子で尋ねてきます。

 多分、ルル君としては、私を攫ってこんな大騒ぎにした相手ですし、私がそうも気に掛ける理由が分からないんでしょう。

 でも……。


「まだ、フレア君にちゃんと聞いてないことがありますから! それに……どうせ文句を言うなら、本人に直接言わないと意味ないです!」


 私がそう言うと、ルル君はまた1つ、大きく溜息を吐きました。


「仕方ない、リリィがそう言うなら、コイツも連れて帰ろうか。魔力のこともあるし」


 そう言って、フレア君の首根っこを引っ掴みます。

 これに慌てたのは、魔王崇拝者達と……何より、フレア君でした。


「ちょっ!? ちょっと待て貴様、我に悪魔と行動を共にせよと!?」


「誰が悪魔だ、誰が」


 ルル君に怯え、ガクブルと震えるフレア君。

 悪魔が何の事かは分からないですけど、これが本当に魔王なら、案外楽になんとかできるかもしれないですね。


「待て待て! だから、そのお方は我らの盟主! 勝手な真似は許さんぞ!」


「ああもう、うるさいです! ちょっと黙っててください!」


 いい加減殺気立ってきた人達を鎮めようと、私は両手を広げ、いつものように魔法をぶっ放すために詠唱を呟きます。


「あっ、ちょっと待ってリリィ! 今は魔力が――」


「《極寒地獄コキュートス》!!」


「「「ぎゃああああ!?」」」


 私の前に広がった魔法陣から冷気が迸り、入り口に詰めかけていた人達が氷漬けになる。

 まあ、魔法の氷なのですぐ解けますし、死んじゃうことはありません。

 これで安心して帰れますね! と思って振り向いたら……なぜかみんな、ポカーンと口を開けてました。


「あれ、リリィ、魔法……なんで使えるの?」


「ふぇ? ああ、そういえばこのお部屋、魔力を吸収するんでしたっけ? 忘れてましたけど、使えたっていうことはもう壊れたんですね」


 うっかりしてました。てへぺろ。

 なんてやってみましたけど、どうやら皆さんが言いたかったのはそのことではないらしく、今度はフレア君の方が詰め寄ってきました。


「待て待て待て、娘、貴様の魔力は我が復活の贄となったはずであろう!? 我がいる限り回復はせんはずだぞ!?」


「えっ、そうなんですか? でも、特に違和感はないんですけど……」


 私がそう言うと、今度はルル君の視線がモニカさんへと向きます。

 それを受け、モニカさんは肩を竦めると。


「まあ、ルルーシュさんがそこの魔王とコントしている時に、みるみる回復はしていました」


 ちょっと空気を読みまして、と告げるモニカさんに、ルル君は更に大きな溜息を零します。


「……心配して損した」


「えぇ!? なんでですか、心配してくださいよ!」


「いやもう、リリィが規格外というか、常識破り過ぎて……」


「そんな~!」


 非常に疲れた様子で呟くルル君を前に、がっくりと肩を落とします。

 すると、そんな私の頭をもう一度ポンポン、と撫でながら、ルル君が苦笑を浮かべます。


「冗談だよ、無事でよかった。もう、僕から離れないでよね」


「えっ、あっ……はい!」


 いきなり言われて、少し顔が赤くなるのを感じながら、私はルル君の腕にぎゅっとしがみつきました。


「リリィ……歩きにくいんだけど」


「えへへ、いいじゃないですか、少しくらい」


 2人で引っ付きながら、建物の外を目指し歩いていく。

 そんな私達を、後ろでみんなは半目で見つめていました。


「なんというか……私達、お邪魔でしょうかね?」


「まあ、いいんじゃないか? 万事丸く収まったってことで」


「そうですね、めでたしめでたし、です!」


「この桃色の空気のすぐ傍で引きずられている我のことも少しは思い出してくれ」


 3人の呟きに対し、私が抱き着いているのとは反対の腕で引きずられているフレア君が何か言った気がしますが、私もルル君も、お互いのことしか目に入っておらず、完全に聞き流していました。

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